36.掘り出し物
リョウ視点です。
部屋に戻る途中、馬鹿共にまた絡まれたのだが、急いでいた俺は軽く殺意を込めた魔力をぶつけ素通りしてきた。
彼らが膝が震えて立てなくなるほど喜んでくれたので、こちらはあえて声をかけなかった。
まあ、そんな皮肉はいいとして、毎度毎度よく絡んでくる。
しかも、体育館出て少ししたところとかもはや狙っているんじゃないかと思うほどだ。
一応、ピット君で捜索してみたが、それっぽい気配はなかった。
これがホントに只の馬鹿な生徒なのか、誰かが情報を流しているのかで、危険度が大きく異なる。
これからも、俺が学園を離れることもありそうだし、また護衛に召還してみるのもありだろう。
リナ達の実力を信頼はしているが、俺はまだこの世界をほんの少ししか知らないので、規格外の奴が出てきてもおかしくはない。
警戒するのにこした事はないだろう。
こうして部屋へと戻ると、既に全員が席を決めていて、俺待ちだったようだ。
「遅くなって悪かった、せっかくの料理が冷める前に食べよう!」
こうして俺たちはそれぞれの食前の挨拶を済ませて料理を食べ進める。
相変わらず、スペックを無駄遣いしているリンダが作る料理は美味しかった。
食事を食べ終えた所で、俺は全員に自分達を狙う奴がいることをみんなに説明する。
それに伴い裏組織の1つであるブラックアサシンを味方につけた事も説明した。
フランはやはりまだ割り切れていないようだが、他のメンバーはすんなりと納得してくれた。
「そんなわけだから、俺も一応対策はたてるつもりだが、出来る限りの対策は個人個人でしておいてくれ。」
俺の言葉に頷いたメンバーに、とりあえずはひと安心して、今日の自由日のサクラと予定を決める。
「サクラ、今日は自由日だがやりたいこととかあるか?」
《これといって思いつくのは無いわね、まあでも、この前の模擬戦は悔しかったから、また戦いたいわね、それとリョウの攻撃の対策として武器も見ておきたいかな。》
「それじゃ、とりあえず町に出てデートしてから体育館で模擬戦をしようか。」
《それでいいわ、そうと決まったら早速行きましょう!》
心なしかいつもよりも楽しそうなサクラを見ながら俺たちは町へと向かう。
余計なやつらに絡まれると迷惑なので、俺の周囲に誰も近寄るなと言わんばかりの魔力を流しておいた。
まあ、もちろんサクラがそれを感じる事はないが、俺が何かをしているのはわかっているみたいだ。
《ねえリョウ?、何か魔力を周りにばらまいているみたいだけど、何してるのよ?》
「馬鹿な連中に絡まれないように威嚇してるだけだよ、今日も朝から絡まれたからな。」
《ああ、あれホントに迷惑よね、金クラスってだけで見下してくるもの、まあ絡まれたとしても返り討ちにするわ。》
「問題にならないくらいで頼むよ、それを弱味にしてつけこまれると面倒だからね。」
そんなやり取りをしながら、町へ出ると、まずは商人区に向かう。
昨日も思ったが、女の子と二人で鍛冶屋をまわるってどうなんだろと考えながら、様々な店舗を回っていく。
だが、やはり良い物は高いし、安いのだとおそらく俺の作った杖を使った方が効果的だろうと思えるものしかなかった。
お店を一通り見て回ると、サクラが残念そうな顔をしていた。
《やっぱり、良い武器はないわねー、何かどれも値段相応って感じだし、改めてリョウの武器がすごいかわかるわ。》
「褒めてくれてありがとう、そしたら次は冒険者区の方を見てみよう、掘り出し物もあるらしいから見てみたいし。」
《そうね、意外と良い物もあるかもしれないわね、早速いくわよ!》
そう言ってちゃっかりと俺の手を握って引っ張っていくサクラ。
その顔は少しだけ恥ずかしそうにしていて、思わず頬が緩んでしまう。
先程から何回も俺の手を取ろうとしては引っ込めたり、手を当てると慌てて引いたりと見ていて面白かったので、手を繋いでいなかったのだが、こんなに喜ぶならちょっと悪いことをしたなと思い、次からは俺から繋ごうと決意した。
冒険者区に着いた俺たちは再び武器巡りを始める。
こちらの方が値段は安いが、どんな効果を秘めているかわからなかったり、斬れ味が鋭いのに壊れやすいなどのばらつきが多く、ほんとに掘り出し物を探している感じだった。
その中で俺は1本の短剣に目が惹かれた。
どんな効果があるかまではさすがにわからないのだが、付いている効果が良い物か悪い物かは判断できるようになっていた。
ただ、サクラにも説明したところ、訳がわからないと言われたし、良い効果が付いている物が悪い効果しかついていないのよりも安いということもあったので、わりときちんと見れる人は少ないのかもしれない。
さて、俺の目についた短剣だが、まず内包するエネルギーというか、存在感が他の物と比べると桁違いに高い。
そのうえ、良い効果しかついていないのに値段が安い。
その理由は明白で、この短剣が錆びてしまっているからだ。
ただ、それは武器の効果ではなく、単純に年月が過ぎてしまったためだろう。
何となく運命的な物を感じたので、早速店主に交渉して買わせてもらった。
値段は銀貨2枚。
他の武器が大銀貨1枚から売られている事からも、この短剣がいかに安いかがわかる。
俺が買ってきた短剣を見て微妙そうな顔をするサクラ。
《リョウが買ってきたんだから、良い物なんだろうけど、私にはわからないわ、これほんとにすごいの?》
「試しにリンクイヤーで俺と視界を共有してみればわかると思うよ。」
すると、サクラから交信が来たので了承して視界を共有する。
本当は、かなりの処理速度が無いと出来ないのだが、リンクイヤーの思考サポートと、普段の訓練の成果から、こういった一時的な共有ならできるようになったようだ。
ただ、サクラは魔法を使うことに関して、他のメンバーより優れているから出来たけれど、他のメンバーはまだ視界を共有するのは出来ないみたいだ。
俺と視界を共有したサクラは、この短剣を見て驚いていた。
《何よこれ!、リョウの視界ってこんな風に見えるの!?、これでリョウが目利き出来る理由がわかったわ、やり方も何となくわかったけど、これを常時見えるようにするのは、今の私じゃ無理ね、それにしてもこの短剣凄まじいわね、リョウの武器と匹敵するか、それ以上よね。》
「まあ、俺はスキルにも恵まれていたからな、もしかしたらサクラも出来るようになるかもしれないから、出来るときは使ってみたらどうだ?」
《ええ、そうするわ、使わないといつまでも出来るようにならないし。》
そう言って俺との視界共有を切って自分の視界を調節しているみたいだ。
俺は全員と視界を共有しても問題はないが、プライバシーを守るため、普段は使わないでいる。
今は、サクラの視界調節にアドバイス出来るようにするため、俺は視界共有をしたままでいる。
すると、少しだけ時間はかかったが、俺と同じように魔力と生命力が見えるようになり、この短剣の目利きも始めよりは出来るようになっていた。
だが、やはり完全にするにはまだまだ経験が足りなくてイメージが出来ないようで、俺のと比べるとかなり曖昧にしか見えていなかった。
それでも、見えるのと見えないのでは大きな違いになるので、今はそれでいいと思った。
それにしても、1度視界を共有しただけで原理を理解して使えるようになるなんて、サクラの魔法のセンスも規格外だと思う。
《このくらいが限界ね、まだリョウの精度とは比べ物にならないわ。》
「まあ、1発で出来れば上出来だと思うよ、少なくとも強い相手の判断だけ出来ればいいんだからさ。」
そう、精度が甘かったとしても、強者さえ判別できれば負ける可能性を遥かに減らせるはずだ。
戦わなければならない場面でなければ、わざわざ強者と負ける戦いをする必要はない。
訓練ならまだしも、本当の戦闘なら負けは死を意味するからな。
他にも掘り出し物を探してみたが、この短剣程の物は見つけられなかった。
目的も果たしたので、俺たちは学園へと戻っていく。
学園に入った所で、改めて人避け魔力を放つ。
魔力を見えるようにしているサクラは俺の魔力を見て、若干呆れていた。
《リョウはこんな物を振り撒いていたのね、そりゃ誰も近づいて来ないわけよね、というか面倒くさがりすぎでしょ、何か殺意まで混ざってるじゃない。》
「いやー、せっかくの楽しい時間を馬鹿共に邪魔されるのは我慢ならないからな、こんくらいは当然だろう。」
そんな会話をしながら別校舎の体育館へと着いた俺とサクラ。
模擬戦の前に、この短剣の錆び取りをしないとな。
ついでに性能も調べてみて、使えそうならサクラにプレゼントとして渡そう。
そうなると、他のメンバーにもプレゼントを選ばないといけなくなるが、それくらいは良いだろう。
こうして俺は他のメンバーへのプレゼントを考えながら短剣のメンテナンスに取りかかった。
次回更新は6/2です。
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