32.ブラックアサシン
リョウ視点です。
ウィダル荒野に入って俺はピット君を使ってモンスターの索敵を始める。
まあ、ある程度素材を集めたらこの先のエリアを覗いてきてもいいかもしれないな。
そんな事を考えながら、熊やハリネズミ、ゴーレムなどを狩っていく。
フランは盾持ちの片手剣士と言った感じなので、必然的に俺は後方でルサフルを使いながら攻撃していく。
魔法は威力が高過ぎるし、何かあったときの保険として温存しておいて損はないだろう。
初めはシナイルードンで補助しようかとも思ったが、そうするとフランの盾の扱いの成長の妨げとなってしまうため、危険そうな時だけ使うことにする。
敵の集団に突っ込み、盾でモンスターの攻撃を受け止めたり、時には回避もしつつモンスター達の注意を自分へと向け続ける。
流石本職だけあって、俺のなんちゃって盾よりも動きが遥かに洗練されている。
俺はその動きを(分析)しながら自分の動きとどう違うのかを見つけていく。
同時に、急所に正確な射撃を加えて一撃で相手を仕留める訓練をしていく。
昨日もやっていたので、命中率は大分高くなってきた。
ついでに時々足止めの為に相手の足元を狙ったりもして、フランを援護していく。
問題も何もなくしばらく戦闘をしていると、こちらへと近づいてくる集団がいた。
依頼のブッキングや、素材集めで狩場が重なる事もあるので、別段珍しい事ではないが、何となく向かってくる彼らの緊張感はどうも嫌な予感を感じさせる。
ピット君で見る限り、そこそこの実力は持っていそうな雰囲気なのでここら辺のモンスター相手にあんな緊張感は持たないだろう。
まあ、油断大敵が心情とか言う人達ならば仕方ないが、試しに俺達が休みを取ってみると向こうも休み始める。
そして、俺達が動き始めると相手も動き始める。
これは明らかにつけられている。
面倒だなと思いながらも、いつでも戦闘をできるように相手をピット君越しに(分析)していく。
その間も俺達は普通に戦闘をこなしている。
まあ、攻撃を仕掛けられてもある程度はシナイルードンで防げるし、いざとなればサクラの技も使わせてもらえばいい。
ただ、フランにこれを話すと必要以上に警戒してしまうだろうから、いつも通りに振る舞ってもらう。
相手がどんな手段でこちらの動きを見ているのかわからないが、何かしら情報を得る手段があるのだろう。
俺は出来るだけ手の内を見せないように、急所射ちだけでモンスターを仕留めていく。
わざわざあんな連中の為に俺達の予定を変えるのは馬鹿らしいので、当初の予定だった次のエリアの視察に行くことにする。
俺達が次のエリアへと歩き始めると、突然相手はこちらへと近づきながら囲み始める。
どうやら、次のエリアを悠々と乗り切る実力はないらしい。
先程から戦闘の様子を観察していたが、予想通り大して実力は高くなかった。
ただ、相手は10人なのに連携が中々しっかりとしていた。
というか、上手く指示出しをしている奴がいた。
あれは他は全員戦闘中だし、たまに死角になるはずの位置の味方にも正確な指示を出しているため、おそらくは俺達の動きを見ているのもこいつだろう。
そうすると、俺のピット君のように出来るという事だ。
少し警戒のレベルを上げることにした。
相手が実力を隠してるだけかもしれないが、あの程度の実力なら戦闘自体はそんなに苦労しないだろう。
昨日の1対7の戦闘が早くも役に立ちそうでよかった。
あの時の盗賊はまだ守る術が確立できてなかったため、結果的に殺さなければならなかったが、こいつら程度なら十分に戦えそうなので、きちんと生かして帰すことにする。
学生の身分で殺人でもしたら面倒だし、正当防衛で済ませられるようにしておこう。
俺たちを囲み終えた奴らは攻撃する機会を伺っていた。
丁度その時にモンスターの群れが来た。
俺とフランがモンスターと戦い始めた所で、俺達に攻撃を仕掛けてきた。
予想通り過ぎて笑いそうになったが、準備は出来てるので何も問題はない。
俺はシナイルードンで敵の魔法や突撃を止めながら、モンスター達はフラン任せて、襲撃者達に闇の魔法を放つ。
「アンリミテッドマジックシャドウ!」
周囲を囲んでいたメンバーと襲ってきたメンバーの合わて10人の片足を消失させていく。
相手には悪いが、襲ってきたのだからこのくらいの報いは受けるべきだろう。
これで襲撃者は無力化出来たので、フランと共にモンスターを全滅させて、指示を出していたリーダーの元へと向かう。
「さて、俺たちを襲った目的はなんだ?」
「ちっ!、やっぱあんな仕事受けるんじゃなかったぜ!、お前達を気に入らない連中がいてな、そいつらは無駄に金持ちだから金をばらまいてお前達を始末しろって色んな連中に頼んでるんだよ、俺はその仕事の一環としてお前を襲っただけだ。」
「なるほどな、どうしてそんなにペラペラと話す?、それとお前の話が嘘じゃないという証拠は?、依頼人は?、俺達の襲撃はお前達だけか?」
「それを話す為には条件がある、俺はリーダーだから責任はとらなきゃならねえが、仲間は俺の指示で着いてきただけだ、だから見逃してやってくれ。」
「この状況で交渉するとかいい度胸だな、だがお前の話の信憑性を証明出来ない限りはそれは保証できない。」
「これが俺の言葉を信用してもらうための物だ、これで駄目ならお前に話す言葉はない。」
そういって俺に1枚の紙を渡してきた。
そこには、依頼人の名前と金額と依頼内容が書いてあった。
契約書
依頼主 レイモンド=カーク
報酬 白銀貨5枚
依頼内容
リョウ=テンジンとその仲間を始末すること。
俺はこの世界の契約書がどんなのかは知らないので、フランにも確認してもらう。
「フラン、この契約書は本物か?」
《ああ、だがこの契約書は相手のと合わせて初めて証拠として使えるんだ、だからこれだけで相手に報復はできない。》
どうやら本格的に面倒事に巻き込まれたみたいだな。
だが、俺はこの名前に心当たりは無いし、ここまでの恨みを買うような事はしてないはずなんだけどな。
これが本当なら、リナ達の他のメンバーも危ないな。
デミアンにはリナとルイの護衛をしてもらっている。
サクラ達は基本的には纏まっているから心配はいらないだろうが、いつ襲撃されるかわからないから一応報告しておくか。
[みんな、今ギルドの依頼先で謎の連中に襲われたんだが、どうやらレイモンドとかいう奴からの刺客らしい、対象は俺と俺の仲間全員だ、一応気を付けておいてくれ。]
俺の言葉に全員がそれぞれ返事を返してくれたので、とりあえず現状襲われるという事態が起きる前に防げたので良しとする。
さて、次はこいつの扱いだな。
こいつの証拠は確かだった。
全て疑っていても仕方ないし、こいつの話を聞いてみよう。
「確かにお前の話の信憑性は証明された、約束通り彼らは見逃そう、その代わりちゃんと教えてもらうぞ。」
「ああ、助かる、このレイモンドってやつはどっかの貴族様が俺達ブラックアサシンのような裏社会に生きる奴に非合法な依頼を頼む時の偽名だ、貴族って事しかわからねえ、今回俺が知っている限りではお前達を襲撃した団体は俺達だけだ、俺は一応ブラックアサシンの頭をやってる。」
「そうか、俺の仲間達の元にもブラックアサシンのメンバーは向かっているのか?」
「さすがに学園内までは俺らも入れないからな、学園から出てきたお前らを狙ったって感じだ、だからとりあえずお前の考えているような状況ではないはずだ、しかしこんだけ強いって知ってたら依頼は受けなかったんだけどな。」
「お前達ブラックアサシンの他に裏の組織はどんなのがある?」
「メインはホワイトフリーダムとシルバーブレイカーだな、俺たちは精々中堅ってとこだ、まあこの2つに次いで影響力はある方だ、いつかは俺達がこの2つを蹴落としたいと思ってるがな。」
「お前に1つ提案がある、ここでお前も含めて逃がす代わりに俺の傘下に入らないか?、そうすればお前達を強くするための手助けをしよう、その代わりお前達は俺に裏社会の状況を教えてもらおう。」
「なるほど、魅力的な提案だが俺達の裏切る可能性についてどう考えているのかとお前の強くする手助けがどれ程の物かがわからないがどうなんだ?」
「自分の身より仲間の身を心配するリーダーだ、信用できると思った、裏切った時は仕方ない、全員皆殺しにするしかないな、とりあえず手助けの一環として装備を作ってやるよ。」
「それは恐いな、じゃあお前の作った装備次第で判断しようか。」
俺は早速道具生成を始める。
作るものは剣、込める魔力は、率いた仲間を強化するサポートブースト、自動修理のリペア、仲間の状態を把握するチェック、信頼される仲間の数で強くなるアシストエッジ。
最後に仲間を集める意志を込めて完成した剣は、見映えが俺の作ったどの武器よりも良い。
キラキラと輝く刀身に魔力の込められた紋様が刻まれた持ち手を持つ剣は人を惹き付ける不思議な魅力があった。
俺はこの剣をブラックアサシンのリーダーに渡す。
リーダーは俺の剣を見て驚愕の表情を浮かべていた。
それはブラックアサシンのメンバーも同じだった。
「おいおい!、何だよこの剣は!?、ものすごい力を持ってるじゃねーか!、おいこれほんとにもらっていいのかよ!?」
「ああ、この剣みたいのを時間があればいくらでも俺は作れる、これが俺が手助けの一環だ。」
「どうやら、あんたは俺の想像以上に強いみたいだな、わかった、俺達ブラックアサシンは今からあんたの傘下に入る、俺はシャーム=クロウだ、これからはよろしく頼むぜ。」
「気に入ってもらえてよかったよ、知ってると思うが俺はリョウ=テンジンだ、これから頼むぞ。」
こうして俺はシャームと手を組むことになった。
次回更新は5/29です。
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