31.手料理
リョウ視点です。
いつも通りの時間に俺が目を覚ますと、既に皆は訓練に行ったようで、部屋には俺とマドルしかいなかった。
俺はどうしようかと考える。
俺も行くのは構わないが、きっと昨日の悔しさからみんなやる気になっているのだろうし、水を差したら悪い気がする。
今日は俺とマドルで朝ごはんでも作ってあげるか。
この世界に来てからはスキルのおかげで物覚えがかなり良くなっているから、問題なく覚えられるだろう。
その為に、マドルと同じ包丁を作ろう。
道具生成の手順をふみ、この前マドルに作った包丁と同じ効果で少しだけ武器に近づけた俺の包丁は、持っただけで不思議と料理が出来そうな気になってくる。
「マドル、今日はみんなの為に朝ごはん作ろうと思うんだけど、俺料理ほとんどやったことないから教えてくれ。」
『かしこまりました旦那様、それではまず食材の捌き方を教えます。』
そういって、俺が昨日狩ってきた熊を身体の一部だけ出しながら解体していく。
おう、(精神耐性)が無かったら料理どころじゃなかったろうなと思いつつ、熊の捌き方を教える。
とはいえ、基本的には包丁で捌いた部位から食品以外の素材となる部分と骨を外していくだけなので、それほど難しくはない。
というか、今まで料理の材料って俺やエルンが倒してきたモンスター達だったらしい。
正に弱肉強食だなと思ったのだが、今まであんなに美味しかった料理が元はモンスターだと思うと複雑な気分になるな。
俺は素材捌きを楽しくやりながら、マドルに調理の仕方を教わっていく。
何かよく分からない牛のようなやつの肉や、スケルトンの物であろう骨など色々な素材を使って、作っていく。
不思議なのは、骨や肉を煮込んでいくといつも飲んでるスープになることだ。
多分、俺の世界で作ったならもっと複雑な手順を踏んだり、時間をかけないと同じような物にはならないだろう。
意外と簡単に料理が作れて俺は一安心した。
この世界の料理は、素材自体が美味しいようなので、それほど複雑な行程を必要としないみたいだ。
その代わりに、素材の切り方や捌き方次第で味や見た目が変わってくる。
さすがに1日2日でリナ達の料理に追いつける筈はなく、似たような切り方をしても少しだけ切り口が深かったり、毛皮などを取る際に食べる部分も多目に捌いてしまったりと所々失敗してしまった。
朝から少し豪勢な気もするが、まあ俺の慣れない料理を誤魔化すためなので仕方ない。
味見をしてみたが、マドルとの完成度は違うものの、そこそこ美味しく出来たので良かった。
リンクイヤーで完成をみんなに伝える。
[みんな訓練お疲れ様!、ご飯が出来たから戻っておいでー!]
[あれ、リョウが手伝ったの?、楽しみ!]
[リョウありがとー!、すぐ戻るねー!]
[リョウの手料理楽しみ。]
[リョウ様の手料理!、超高速で戻ります!、むしろ光速を超えます!]
[リョウ殿の料理か、私も急いで帰ろう。]
[リョウが料理作るなんて珍しいわね、期待してるわ!]
[狩りの前に英気を養うとするよ、期待してるぞ、マスター?]
[リョウの手料理楽しみだなー!、期待してるよ!]
みんなからの期待が厚すぎて冷や汗を流す俺だったが、マドルも一緒に作ってくれたのだから大丈夫だと信じよう。
こうして俺は机に料理を並べながら他のメンバーの到着を待った。
少しすると体育館にいたメンバーが部屋へと帰って来て、席に着きはじめた。
席順は昨日と一緒にしている。
今日の自由日はフランなのでどこか行きたい所がないか聞いておこう。
「フラン、行きたいとこはあるか?、無いとギルドの依頼を受けてモンスター狩りに出掛ける事になるけどどうする?」
《貯金をするのは重要だ、これから必要になるだろうから、ギルドの依頼を果たしにいくとしよう。》
こうして俺とフランはギルドの依頼のために町の外に向かうことになった。
何処に行くかは依頼しだいだが、昨日行ったウィダル荒野までの範囲で相手になる敵はいないだろう。
昨日までの俺ならまだしも1対7で戦ったばかりなので、人よりも単調な動きしかしないモンスター等相手にもならない。
精々今日の夕食の為にモンスター狩るくらいだろう。
部屋に戻って食事を済ませた俺とフランは早速ギルドに依頼を確認しに出掛けた。
料理の方は俺のマイナス部分をマドルが上手くカバーしてくれたのでみんなの評価は高かった。
2人でギルドに着くと、昨日の緊急のクエストのような依頼はなかった。
まあ、当たり前といれば当たり前なのだが、何となく残念に思いながらも依頼を受けることにした。
内容としては、昨日のウィダル荒野で周りのメンバーを率いていたボス的なモンスターを狩ることだった。
昨日そんなモンスターとも戦っていたので、今更驚く事は何もない。
ただ、昨日多少の訓練はしたが、俺の新しい魔法がどの程度の効果を及ぼすかはわからない。
今の内に全容を把握しておいて、いざというときにも使えるようにしておくのがいいだろう。
物覚えの多い身体はこういうときに便利だから楽でいい。
字の問題もすぐに解決したしな。
こうして俺とフランはギルドの依頼を受け、ウィダル荒野を目指した。
敵の強さは把握出来ているので、ボグールドの沼地は魔法の絨毯でとっとと通過していく。
昨日よりも操作は慣れてきたので、昨日絡まれたモンスター達もすんなりとスルーすることが出来た。
こうしてウィダル荒野に入った俺達にかかる災難をこの時の俺たちはまだ知らなかった。
更新が遅くなりました。
次回更新は5/28です。
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