18.エルンとリョウの模擬戦
リョウ視点です。
お互いに体勢が整った所で俺は魔法を使って距離を保つように、エルンは距離を詰めようとする。
「ウエイトマジック、レインボー!」
俺は円を描くように俺の身体の周りに魔法を展開する。
隙間はないので、上や下から乗り込まれない限りは問題ない。
仮にその方法できたとしても、俺は魔法を自由に操れるため、問題はない。
俺の周りの魔法の他にも俺の後方には魔法が展開されている。
これならそう簡単に距離は詰められないだろう。
槍と剣の戦いは、小説等で見る限りは間合いの取り合いである。
リーチの長い槍は中距離では滅法強いが、近付かれてしまうと、長い事が逆に弱点となり立場が逆転してしまう。
もちろん、慣れてきた人物であれば対処の仕方は色々とあるのだろうが、あいにく俺は槍も初心者なら戦闘も初心者だ。
近付かれたら終わりだと思いながら戦う事にする。
しかし、ここでエルンが俺の周りを漂っている魔法を叩き斬るという荒業を使ってきた。
おいおい、そんな真正面から突破できるのかよ!!
結構魔力込めてたんだけど!?
俺は焦りながら心の中で悪態を吐いていた。
だが、嘆いた所で状況は変わらないので、俺は残りの魔法を全段ぶつけにいき、距離をあける。
さすがにあれだけの数があったから、足止めくらいにはなった。
それでも足止めにしかならなかった事に苦笑するしかなかったが。
さて、これではっきりした。
少なくても魔法を切らした瞬間に俺が負ける。
俺も多少は剣を使ってきたからこそわかるが、明らかに俺とは練度が違う。
おそらく、今まで数えきれない戦いをこなしてきたのだろうし、一番多く使っていたのが剣なのだろう。
あの剣には、エルンの愛着も感じる。
わかってはいるつもりだったが、まだ強さの認識が甘かった事に気づいたので、より一層気を引き締める。
俺の魔法の全てで時間を稼いだ俺は、先ほどエルンが処理に一瞬だが困っていた魔法を多めに用意し、他はさっきと同じように魔法を発動させた。
だが、先ほど俺を守るように使っていた魔法は全て攻撃に使い、気を散らせる事を狙っていた。
案の定、エルンは真っ直ぐに突っ込んでこられず、俺は長い槍のリーチを生かして魔法の合間に突きや凪ぎ払いを加えていた。
俺の魔法もエルンにはそれほど脅威ではないとはいえ、込められた魔力はそこそこ高いのだ。
だからこそ、直撃すれば少しは隙ができるだろう。
そこを演出するためにこういった相手の避ける所を狙うような攻めかたも必要なんだと思う。
ただ、いくらモンスターと少し戦い、多少模擬戦をやったところで、元はただの学生だったのだ。
洗練の戦士のように完璧にできるわけではない。
そのせいでもあるのだが、徐々に俺の戦法に慣れてきたエルンが反撃をしてくるようになった。
まだ、懐まで入られた訳ではないので形勢はやや有利でいられているが、このままではいずれ負けてしまうだろう。
俺は体勢の整っていないエルンに全力の技を叩きつける。
勝つことだけを考え、その意志は曲げず、力も死なないようにセーブしているとはいえ、込められる全力を込めた。
「ライフォルト!」
エルンの対応を待つ。
残りの魔法を全弾向けたのでこちらへ対応するだけの余裕はないだろうと思った。
だが、エルンは俺の技の発動を察すると、俺よりも早くイメージを完成させたようで、向かってきた魔法の全てを打ち消した。
『エリュパルサー!』
魔法を打ち消しても威力は変わることはなく、むしろ強くなっているようだった。
ダメだ!、ここで不安を感じる事は負けを意味する!
俺は自分の技を信じ、何者にも勝ると自分に暗示をかける。
そこに余計な思考は入らず、残ったものはこの勝負に勝つと決めた思いのみ。
だが、それはエルンも同じだろう。
俺は自然と笑顔になってしまう。
もちろん、エルンの方も興奮しすぎてどうしようもないと思うほど楽しそうに笑っていたが。
これほどの強者と殺しあいではなく、訓練で戦うなんて滅多にあることではない。
いかに相手の事を理解し、思考を読み切り、行動できるか、それを鍛えるうえでエルンは最高の相手だった。
遂に俺のライフォルトとエルンのエリュリパルサーがぶつかり合い、激しい衝撃が体育館へと広がっていく。
だが、ぶつかり合う技を発動してる俺たちは、そんな事に構っている暇は当然なく、技に集中していく。
エルンも同じようで、彼女の目には先ほどの雰囲気はなくなり、目の前の相手を潰すという強い目をしていた。
だが、そんな事に押される俺ではない。
俺だって、勝つと決めてこの訓練を始めているわけだから、こんな所で退くわけにはいかない。
俺は更に強いイメージを作り、技を維持しぶつけられている技を超えようと思考を巡らせる。
エルンはそこで更に楽しそうに表情を変えて、平然と技のイメージの強さを上げてくる。
俺だって男に生まれているわけで、売られた勝負から逃げるわけにはいかない。
まあ、俺から勝負を吹っ掛けた気もするが、細かい事は気にしないようにしよう。
技同士のぶつかり合いは魔法とは違い、相性や込められた強さよりも揺らがぬイメージと自信が全てだ。
まあ、消費した力に明らかな差があれば逆転する事が不可能なのは変わらないが、今現在拮抗しているということは込めた力は同格、あとはイメージが全てである。
負けるかもしれない、あんなに凄い技使えるのかなどが頭をよぎってしまえば、それが技の構成を少しずつ変えてしまい、必ず弱点となる。
だからこそ、俺が一番強く誰にも負けないという意志の強さが鍵になる。
だが、これは一歩間違えてしまえば頑固になり、成長を止めてしまう厄介な物で諸刃の剣である。
だからこそ、俺は相手の強さに憧れるのではなく、取り込む事に力を入れている。
だからこそ、俺は今この瞬間にもエルンと張り合えているのだろう。
人が考えられる限界などたかがしれていて、相手は天使族という俺の世界では神に近しい存在でもあるため、絶対に負けないと考えたところでいつかは自分との絶対的な違いを感じてしまうだろう。
それを誤魔化せたとしても、誤魔化すというのは認めるのと同じだ。
結果敗北は避けられない。
だけど、自分の可能性が広がるというイメージを込めれば、相手がどれだけ凄い技を使おうが、恐ろしい技を使おうが負けることはない。
本気で自分の可能性を信じているのなら、相手が自分の想像もできないような技を使っても、それをその場で自分の物にして更に強くなればいいのだから。
こうして、どれだけの時間が過ぎたかはわからないが、俺の技とエルンの技は互いに一歩も譲らずぶつかり続け、互いのエネルギーを削りあったため、どちらに被害を出すこともなく霧散した。
互いに笑顔を浮かべながら肩で息を続ける俺とエルン。
本当はこれで決着を着けたかったのだが、出来なかった事をいつまでもぼやいてても仕方ない。
さいわい、エルンの方もかなり消耗してくれたみたいなので、俺にも勝機は見えてきた。
ブラッドリングやマジックキープリングを使えば更に有利に戦えるのだろうが、これは俺の切り札であり、ストックは多い方がいい。
俺は消耗した状態のまま戦う事にした。
もう魔法は使えないし、技も使えないだろう。
だが、俺には俺の力を込めて作ったトライゴルクがある。
俺の分身と呼んでも良いものだ。
これがあるなら俺はまだ諦めずに戦える。
それはエルンも同じであり、愛剣を持っている以上諦めるという選択肢はないだろう。
再び俺とエルンが武器を打ち合う。
先ほどの技による疲労は確かにお互いにあったが、エルンの方が疲労度は大きいようで動きが落ちていて、俺が互角に戦えるくらいなっていた。
槍の有利な位置で戦いを進めていると、フェイントや独特な足運びにより一気に距離を詰められる。
だが、目を改造してからは常に魔力と生命力が流れているようなものなので、動体視力も上がっているし、疲れで動きが落ちているエルンならギリギリ反応できるため、カウンターを狙い防がれ距離をあける。
余程の何かが無ければこのまま負けはないだろうが、同時に決め手も少ない俺はあと1歩が足りなかった。
どれだけ自分が魔法に頼ってきたかがよくわかり、反省も沢山でてくるが今は現状を打開するのが先だ。
そうして、(並列思考)を使いあらゆる可能性を考え、勝利へと向かう。
そして俺は1つの賭けに出ることにした。
俺はわざと隙を作りエルンに俺の懐へ敢えて近づけた。
段々エルンのリズムもわかっていたし、どこをどのように見ているかもしっかり観察していたため、上手く誘導させることが出来た。
そして、それにわざとタイミングを少しだけ外したカウンターを使ったことでエルンは勝利を確信したようで勝負に出てきた。
その瞬間を待ってた!!!
俺は首に迫るエルンの剣を槍を捨てて、白刃取りを完璧に決める。
そして、残った僅かな魔力を使いトライゴルクをエルンの首に寸止めする。
「俺の勝ちでいいな、エルン。」
『ああ、私の負けだ、しかし想像以上の実力だったぞマスター、私も腕には相当な自信があったのだが、まさか人族に負けるとは思わなかった、ああ、勘違いしないでくれよ?、決して人族を馬鹿にしているわけではない、そもそも天使と悪魔が恐れられているのは、身体の作りから全く異なり強力だからだ。』
『言っておくが、人族と竜族が身体の作りが違うとかそんな次元の話ではないからな、デミアンを見てもそれはわかるだろう?、私と違い戦闘を生きる手段としない者でもあれなんだ、あれはただ修練の賜物というだけではない。』
『私たちを産み出した存在は神と言われている、そして私たちは生きてきた記憶や能力を持ったまま死にいたり、そして新たな身体を得る、悪魔族も同じだ、そうして何千何万という時を生きてきたのが私たち天使や悪魔族だ。』
「何か色々と衝撃の事実なんだが、少し疑問なんだが、ちょっと言い方が悪くなるけどそんなに長い間生きているのにどうしてそれくらいの強さしかないんだ?」
俺の言葉に困ったような表情をするエルンを見て何だか申し訳なくなってしまった。
『例えば、お前達人間もそれぞれに才能があるし、同じ事をしていても優劣はあるだろう?、私たちも同じで、いくら記憶や能力を持っていても、それを使える身体に生まれなければ意味はないし、使えるように身体を鍛えたりもしなければならない。』
『そして、一度得た身体は寿命を迎えるまで離れることはできない、たとえそれが恵まれない身体だったとしてもな、少し湿っぽくなったがそれが長く生きていても異常に強いわけではないわけだ、ちなみにこれでも私の今の身体は歴代でも類を見ないほど強いものだがな!』
そういって笑いながら答えるエルンに、やはりもう少し聞き方があったなと反省した。
「俺よりも何倍も大変な思いをして過ごしてきたのに何も知らず無神経な質問をして悪かった、それともう1つ気になったんだが、どうして過去から記憶を受け継いでいるのに、産み出した祖先は曖昧なんだ?」
『まあ今となってはそれも思い出みたいなものだから気にするな、それについては詳しくはわかっていないんだが、悪魔族を倒した時に魂の一部を斬り取った感触があった、同様に私も悪魔族に殺された際に記憶を斬り取られた感触がわかった、多分その時に失われたんだろう、最も取り戻す方法はわからなかったがな。』
『さて、前置きが長くなってしまってすまないな、ようするに私たちはかなり特殊な種族であり、その中で私は戦闘に関していえばトップクラスであるのは間違いない、その私になぜ人族であるマスターが勝つことができる?、それにその創造力は私から見ても異常なほど優れている、マスターは何者だ?』
エルンの見る目は純粋に好奇心に溢れている。
そこには疑いや悪意などは全く感じない。
エルンも仲間だ、それにエルンに話すなら他のメンバーにも話さなければならないだろう。
だが、俺は彼女達を信頼している。
こんな沢山の人がいる世の中で俺に着いてくると決めてくれた人たちだ。
俺もそれに答えなければならない。
「特に隠すような事実や凄い能力があるわけではないが、とりあえず皆で集まった時に話すってことでいいか?」
『ああ、話してくれるなら構わないさ、私も楽しみになってきた!、私もこれで生き甲斐ができる!、感謝するぞマスター、これからもよろしくな!、それに何か仕事とかあればいつでも受けるからな!』
「ありがとうエルン、そしたら早速で悪いがエルンにはモンスター狩りに出かけて魔法石と素材を集めてきてほしい、荷物を入れる為に俺のバッグを渡す、あれはいくらでも物が入るし、素材の劣化もない、それに俺ならどこでもそれを取り出せる、まあでもなるべくその日の内には帰ってきてくれ、いくらリンクイヤーがあっても心配だからな。」
『サラッと私を口説くあたりさすがだなマスター、私もドキドキしたぞ!、その仕事喜んで引き受けよう、帰りが遅くなる時は前もって言うから心配するな!』
こうして、俺は遅まきながらエルンに召還した時の希望を伝え、拳を交えて親交を深めた。
こんな風に他のメンバーとも仲良くしていかないとなと改めて決めた俺だった。
次回更新は5/15です。
ようやくPVが10000に、ユニークが2000に到達しそうです!!
俺の拙い文でもこんなに読んでくれる人がいると思うと、より意欲が湧いてきます!!
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