3.初めての戦闘
リョウ視点です。
〈ギャギャギャ!〉
ニタニタと気持ち悪い顔を浮かべながら剣を片手で持ち上げながら突っ込んでくるゴブリン。
(考察)のおかげか、普段喧嘩などした事もない俺だが、不思議と相手の動きが良く見える。
カウンター狙いに突っ込むのも出来そうだが、いくら(考察)で見えていても、身体能力が上がっている訳ではないため、速すぎる剣速には対応できない。
まずは、相手の攻撃を避けてから脅威となる剣を落とす事にする。
そこまで考えた所でゴブリンが距離を詰めてきて、剣を振り下ろそうとしてきた。
紙一重で避けるには経験と身体能力が足りないため、(考察)で相手の動きを判断し、ゴブリンの剣を余裕を持って避けた。
避けながらもゴブリンの動きを見ていたが、剣速はそこまで速いわけではなく、十分反応できる速度だった。
俺に避けられたゴブリンが再び剣を振り上げ近づいてくるが、避けられてから剣を横になぎ払う事もせず、ただ目標に突っ込んでくる時点で知能などたかが知れている。
ここまで考えられているのは、まぎれもなく(考察)のおかげであるため、スキルに感謝しつつ反撃開始と考え再びゴブリンの剣を避ける。
「くらえ!」
先程よりも避けた後の隙を減らし、剣を振り下ろしたゴブリンの顔面に右ストレートをかます。
ボクシングなどやったこともないため、経験者から見たらへなちょこパンチもいいとこだが、俺の今持てる全力を出したため、ゴブリンは殴られてふっ飛ばされた。
ただ、いくら全力とはいえ、この一撃では倒せないとは思っていた。
案の定、殴られたダメージはあるものの再び剣を持ち上げ突っ込んできた。
やはり素人同然の俺の拳では攻撃力が足らないみたいだ。
多少のダメージは与えられているとは思うので、時間を掛ければ倒せるだろうが、ゴブリンの剣を奪えれば使えるかどうかは別として、攻撃できる隙が増えそうだと思った。
「オラッ!」
今度は剣を避けた後、アッパーをくらわせ、身体が持ち上がった所で腹に蹴りをいれる。
ぶっつけ本番のわりに上手く入ったのかゴブリンの動きがかなり鈍くなった。
今がチャンスと思い、右手で剣を持っている方のゴブリンの手首を掴み、左手で二の腕の辺りを持ち、こちらへ引っ張りながら膝蹴りをゴブリンの肘へ当てる。
〈グゥゥッッギャ!〉
ボキッと骨が折れる音と共にゴブリンは痛みで絶叫をあげ、剣を落とした。
反撃されると困るのでゴブリンを蹴り飛ばし、剣を拾ってみる。
多分鉄で作られているのだろうが、そんなに重くなかったため驚いたが、すぐに剣を構えゴブリンが起き上がる前に仕留めようと思い、倒れているゴブリンに近づいていく。
「はあっ!」
〈グギャ!〉
起き上がろうとしたゴブリンの頭めがけて振り下ろしたが、切れ味が落ちてしまっているのか、切ったというよりも鈍器で殴ったに近い感触だった。
しかし、先程の攻撃よりもダメージは入っているようで中々起き上がれないみたいだ。
〈グゥッギャ〉
倒れている今がチャンスと思い、ゴブリンの胸に剣を刺すと、弱々しい声と共に青い血が辺りに広がり、ゴブリンが動かなくなった。
俺の故郷で生きてきた時には決して経験しないであろう惨状の中で、集中力が切れると途端に血の臭いや、光景、先程の感触が思い出され、吐きそうになったが、これからもこういう事が起きるだろうと考え、早く慣れようと思い剣を抜き、川を目指そう思った所に無機質な声が聞こえた。
【スキル(剣技)(拳技)(精神耐性)を手に入れました。】
スキルを手に入れた喜びはあったが、戦闘の疲労感で確認は後にしようと思い、先に川を目指すことにした。
まだ効果は見ていないが、(精神耐性)のおかげか先程の吐きそうな感覚は大分楽になり、これなら川まで無事たどり着けそうだと思った。
川へと向かう途中に再びゴブリンを見かけたが、こっちに気づいてる気配はなく、先程の戦闘の疲れも抜けきっていないため、警戒はしたまま、川へと進む。
ようやく川へ着き、水を飲んで手頃な石に座ると、今までの疲れが一気に押し寄せてきた。
「はあー、つっかれた!」
異世界であろう場所に来て、水や食べ物で焦りや不安を感じ、解決したと思えばゴブリンと思われる生物と戦闘になったのだ、疲れを感じない方がおかしい。
とはいえ、敵対生物がいるため、いつ戦いになるかわからない。
そのためにも先程手に入れたスキルと戦闘でHPがどうなったのかも調べないといけないため、早速ステータスを開いた。
ステータス
HP 170/170
MP 50/50
装備 (鉄剣) (ジャージ上下)
スキル (考察) (浄化) (剣技) (拳技) (精神耐性)
(剣技):剣の扱いが上手くなり、剣を使った技を覚え、使うことができる。
(拳技):素手での動きが良くなり、素手の時に使える技を覚え、使うことができる。
(精神耐性):精神への負担、影響を減らす。
戦闘始まる前に比べてHPが100伸びている。
あの疲労感で100と考えると少ないような気もするが、上がった事に素直に喜ぶことにする。
そして、ステータスだが、わりと俺の思い通りにレイアウト変更できるみたいだ。
しばらくはこのままで良いと思うが、この世界で生活していくうえで必要に応じてレイアウトを変えられるというのはかなり嬉しい。
今回気づけてよかった。
スキルに関しては、まだこのスキルを手に入れてから戦闘をしていないからわからないが、これで憧れの異世界での剣を使っての戦闘や、剣を使えない時でも戦うことが出来そうだ。
(精神耐性)も戦闘の度に嫌悪感を感じていては連続戦闘などの時に不利になる場合もあったため、手に入って嬉しいスキルだ。
ようやく異世界で生活するための準備が整った。
ほとんどスキル任せだが、何とかなりそうなのでこれからの生活に希望を持てた。
空を見上げると、太陽は最も高い位置を過ぎ、沈み始めているようだ。
ここも太陽系の惑星なのか疑問に思ったが、異世界だから何でもありなんだろうと思うことにした。
そして太陽が沈み始めているのを見て、問題に気づく。
今までは水や食料、戦闘で忘れていたが、これも重要な対策すべき問題だったのだ。
「寝床どうしよう、、、」
一人でいる以上警戒は俺がやらなければならないし、今は過ごしやすい気温だが、夜もそうなるとは限らない。
敵に襲われず安全な場所を探さなければならない。
どうしようかと考えていると、ふいに後ろから声が聞こえた。
あわてて振り返ると、そこにはエルフの女性がいた。
太陽受けて反射する金色の髪、身長は180センチの俺より少し低い程度、年齢は俺と同じくらいだと思うが、エルフだからわからない。
顔は小さく、体型もモデルなど比較にならないほど整っていて、良く見ると程よく筋肉もついていて、おそらく戦ったところで勝てないと思う。
というか、思わず見惚れてしまい、反応できなかったのは男として仕方ないと思う。
人見知りだし。
そもそも、初対面の女性に剣をむける事に抵抗があるのは、平和な俺の故郷日本で過ごしていれば当たり前の反応だ。
背中には弓を持っていて、腰には短剣が装備されていていつでも抜けるように構えられている。
警戒されているが、すぐに切られないで声をかけられただけ良しと思うことにする。
彼女はやろうと思えば、俺が気づく前に仕留める事もできたのだから。
しかし、声をかけられたことはわかったが、言葉が聞き取れない。
異世界だからなのか、種族が違うからなのかわからないが、これはかなりまずい。
警戒は解かれていないし、俺はどうすれば敵意を持たれないかを考えていた。
警戒を解かなければこのままあの世行きになる可能性が高い。
一部の変態なら美人にやられるなら本望とか言うかもしれないが、俺はノーマルでまだ生きていたい。
どっちにしろ、戦って勝てないならわざわざ武器を持っている意味もない。
最悪(拳技)があるため戦えないこともない。
そう思って俺は剣を地面へ置き、両手を上げて敵意がない事を示す。
とりあえずはそれが伝わったみたいで、少し警戒が緩んだ。
だからといってむこうからすれば、俺が不審者なのは変わらない。
信用してもらうためにも、伝わるかはわからないが、話してみた。
「俺は天神 凌といいます。こちらに敵意はありません。話をしたいのですがよろしいでしょうか?」
比較的丁寧に話しかけてみたが、エルフの女性は首を傾げている。
ダメ元で話してみたが、やっぱり通じなかった。
けれど、首を傾げているのは絵になるし、何より可愛いと思ってしまった。
警戒されている中でそんな感想が出る時点で緊張感が足りないのだが、美人との会話など縁がなかった俺としては、目をそらさず話せている現状は、頑張っている方なのだ。
普段これだけの美人に声をかけられても、しどろもどろな反応しか返せないだろう。
一応命の危険を感じているから何とか会話できている。
お互いの意志疎通はできていないが、、、
そんなことを考えていると、無機質な声が聞こえてきた。
【スキル(異世界言語理解)を手にいれました。】
ホントに俺の欲しいタイミングで良いスキルが手に入り、今日何度目かわからないスキルへの感謝をしていたところで、エルフの女性から声が聞こえた。
《君はここで何してるの?どこから来たの?》
今度は何を言っているか理解できた。
スキル様々だなと思いながら返答を考える。
声綺麗ですねとか、凄い美人ですねとか、さっきまで普通に自己紹介が浮かんでたのにそんなしょうもない事しか浮かばない俺は自分に文句を言いたくなったが、事は一刻を争う。
そんなどうでも良い考えを頭の隅に追いやり、(考察)のおかげで高まっている思考スピードを限界まで使い、どんな返答をするか考える。
正しい解答を返すなら、異世界から来ました、というのだが、初対面の素性の知らない人間が異世界から来ました、とか言ったところで信じてもらえるだろうか。
俺ならそんな怪しい奴は問い詰めて疑いが晴れなければしかるべき処置をする。
かといって、嘘をついてしまうと、誤魔化すための知識も足りないし、嘘がばれた時には問答無用で仕留められる可能性が高くなる。
どちらにも相応のリスクとリターンがある。
どうせ失敗したら死ぬ可能性が高いのだ。
なら、後悔しない選択をしようと思い、正直に打ち明けることにした。
今日何度目かわからない相変わらずの楽観的思考だが、まあいっかと考え、
「俺は天神 凌といいます。気がついたらこの森にいて、生き残るために辺りを調べていました。自分でもまだわからないことだらけですし、信じてもらえるかはわかりませんが、おそらく別の世界から来ました。」
と相手の質問に答えた。
後々気づくがこの時の思考スピードは、俺が生きてきた中で最速を記録していた。
その事実に気づいた時に悶える事になるのだが、それはまた別の話。