10.金クラスの問題
リョウ視点とカリバーン視点です。
「スート、金クラスにはどんな人達がいるんだ?」
金クラスに向かいながら、俺はクラスメイトがどんな人達なのかをスートに聞いてみた。
《他のクラスと同様に様々な種族がいて、実技試験であまり成績の良くない人達が集まる。》
その話を聞いて俺は疑問に思った。
今は違うとはいえ、リナは会った当初それほど実力は高くなかった。
実際昨日戦ったルイや隣にいるスートの方が確実に高い実力を持っていただろう。
ということは、強さ以外の理由があるかもしれないということだ。
学園側を疑いたくはなかったが、少し警戒を強めるように気を付けよう。
そんな教室までの道中を過ごし金クラスに着いた俺達が入ると、カリバーンとデミアンが真っ先に声をかけてきた。
『よう、リョウ!、待ちくたびれたぜ!』
『マスター、おはようございます、何か仕事はありますか?』
「カリバーンとデミアンおはよう、今日は今のところ仕事はないから自由で、何かあったらまた指示をだすよ!」
こうして朝の挨拶を終えた俺はクラスメイトの表情を見て、現状の深刻さを改めて自覚した。
みんな希望など見られず、絶望しかなく何かを成したいという願いすらも感じられない。
まるで、抜け殻のようだった。
どうすればそんな彼らを奮い立たせる事ができるのだろう。
これは俺の世界のクラスと一緒だ。
やる気のあるやつははぶかれる。
だけど、みんな学園に入ったって事は何かしら理由があるはずだ。
まずは、彼らの事情を知ることが大切だな。
俺はカリバーンとデミアンに相談する。
「このクラスの雰囲気はずっとこうか?」
『ああ、俺様が来た時から何一つ変わってねえ。』
『あれが彼らの本心では無さそうなのは直感でわかるのですが、いかんせんわたしでは出来ることは無いようです。』
聞けば話をしてみたが、反応が返って来るのは数人だけのようだ。
カリバーンと(意識共有)をしてみたが事実だった。
金クラスは今見た限りでも20人はいるはずなのでこれはおかしい。
なぜこんな状態なのか。
俺は彼らを良く観察してみた。
すると、驚くことに全員黒い異物に侵食されている。
しかも、スートの時は魔法を使おうとした時に干渉してきただけだったが、彼らは生命力にまで常時干渉されている。
魔力もほとんどが黒い異物に支配されているため、自我が保てていない。
これでは暴走するのも時間の問題だろう。
比較的軽い症状の人物がいるが、その人達は以前カリバーンとの(意識共有)で見た人達だった。
さてと、想像以上に事態が深刻だったので急いで行動しよう。
「カリバーン、デミアン、こいつら全員体育館には連れて来られるか?」
『任せろ、何人か仲の良いやつにも協力してもらって連れていくぜ!』
『ご命令とあらばお任せください。』
そうしてデミアンは催眠術のようなものでクラスメイト達を引き連れて行く。
カリバーンは、数名のクラスメイトと共に残りのクラスメイトを連れていく。
教室に誰もいなくなった所で、俺も体育館に向かう。
体育館に入ったところで、俺は(魔力創造)で体育館から出られない結界を作る。
全快ではない状態でかなり魔力を使ったので、ボロボロも良いところだが、まだ魔力を使わなければならないため、目的を達成できるか不安になった。
まあ、もし魔力切れになっても死ぬことはないのだし何とかなるよな。
そんな楽観的な考えを持ちながら、俺はカリバーンとデミアン、それとカリバーンの友人達4人を集めて事情を説明する。
「初めまして、俺はカリバーンの友達で同じ金クラスのリョウ=テンジンと言います、これから言うことを信じられないかもしれませんが、この金クラスにいるメンバー全員暴走する一歩手前の状態です。」
「ですが、俺はあなた達全員の暴走の原因を取り除く事ができます、実際にスートが体験しています、その暴走の原因を取り除くためにはそれと戦闘になる可能性があるのでここに集まってもらいました。」
「その中であなた達は暴走の原因による影響をあまり受けていないので、現状を説明できる唯一の人材だと思ったのでこれからの流れを説明します。」
「まず、俺が全員の暴走の原因となるものを引き剥がします、すると引き剥がされた本人の分身のような者が出てくるので倒してください、そうすればあなた達みんな暴走の危険は無くなります。」
俺の説明を聞いてパニック状態になる4人だったが、カリバーンが上手く宥めてくれた。
『おめーら、まだ手遅れじゃねーんだから狼狽えるんじゃねーよ!、どうせ手が無いんだからリョウに任せてみろ!、こいつは俺様の相棒だ!、信用や実力は俺が保証する!』
カリバーンのおかげで落ち着く4人。
俺の話にもカリバーンの説得が効いたのか納得してくれたようだ。
俺は早速黒い異物を取り出すため、俺の魔力を全員に流す。
(並列思考)があるために出来る芸当だが、これが無かったら一人ずつやっていくしかなかったため有ってよかったと思った。
そして、全員の魔力と同調が終わったためいよいよ黒い異物を取り出す作業に移る。
ここで俺は全員に呼び掛ける。
「俺の声が届いているかはわからないが、俺の名はリョウ=テンジン!、今から君ら全員から暴走の原因を取り出す、戦うのは自分自身とだ!、負ければ全てを奪われモンスターと同じように扱われる!、だから必ず打ち勝って元の生活を取り戻せ!」
俺は彼らの目に希望と自我が戻ってきたのを確認して黒い異物を全員の体内から体外へ取り出した。
すると、取り出した際の魔力を吸収し取り出された者と同じ姿をしながら全身真っ黒のやつらが現れた。
取り出された本人達は自我を取り戻したようで、戦う気力に溢れていた。
そして、俺は魔力の使いすぎで意識が飛びそうになるのを何とか耐えきり、改めて彼らを観察してみると、全員が黒い自分よりを上回っていた。
圧倒的な強者は見たところ見当たらないが、そこそこの実力者がちらほらと見える。
もちろん、初めから異物の影響をあまり受けていなかった4人は異物が取り出されると、抑えられてきた力が解放されたようで、魔力と生命力が他の人達より上だった。
それでもカリバーンには到底及ばないが、リナ達よりも上なので実力は高いだろう。
それぞれが自分自身との戦いを繰り広げていく。
カリバーンとデミアンには、危なそうな戦闘には加勢するように指示は出しておいたし、見たところ危なそうな戦闘は見当たらないので俺は安心して意識を失った。
魔力を使いすぎるとこうなるのかと自分でも驚いたが、貴重な経験として覚えておく事にする。
∨∨∨
『たく、無茶しやがって。』
意識を失うリョウを見ながら俺様は毒づいた。
クラスの様子を説明する時に(意識共有)をしたが、こいつは朝っぱらから大量の魔力を使って剣を作ってやがった。
それを全快させないうちに結界と異物の摘出とで魔力を限界まで使ってクラスメイトを助けていた。
しかも、限界ギリギリの癖に全員に危険が無いかを確認までしてやがった。
ここまで出来るのはすげー事だが、その分疲労は溜まっていくだろう。
寄り添うスートを見て、リナとルイもいるのだからケアは任せようと決めた。
さて、戦場に意識を戻すが特に危なそうな様子は無く、ちらほらと戦闘を終えてるやつらも出てくる。
それからしばらくすると、全員が無事に戦闘を終え、乗り越えた達成感と爽快感で近くにいるメンバーと喜び合っていた。
そして、今は気絶しているリョウを見て色々な視線を向けている。
尊敬や感謝などの好意的な物がほとんどだが、中には嫉妬や好戦的な物なども含まれていたため、本当に大変なのはこれからだなと思い、俺様も気合いを入れ直した。
そして、初めに俺に着いてきた4人が俺に話しかけてきた。
「リョウ君は大丈夫なの?」
《彼は私たちを救ってくれたのだ、是非直接感謝を伝えたい。》
「それにしても不思議なやつだよなー、何となくカリバーンが信頼を寄せる理由がわかるぜ。」
《リョウ君は私の王子様です!、絶対逃がしませんよー!》
リョウを心配していたのが、俺とデミアンを寮に泊めてくれているシン。
容姿はめちゃくちゃ整ってる癖にクソ真面目で融通の利かないドワーフの女のフラン=ドワル。
チャラそうな見た目としゃべり方の割に意外と真面目なエルフの男のアジル=フルール。
ちょっと頭がおかしいけど何となく憎めないうえに、容姿が整ってるというスペックの無駄遣いをしている竜族の女のリンダ=リドル。
とりあえず俺様もリョウと同じで(並列思考)があるおかげで話を聞けるが、これが無かったらこんな一辺に話を聞くのは無理だろう。
まあ、こいつらはそんなこと考えてねーんだろうな。
俺様は笑いそうになりながらとりあえず一人一人に答えを返していく。
『シン、とりあえずリョウは無事だ、魔力の使いすぎでぶっ倒れただけだ、それとフラン、感謝する機会は別に用意してやるから今は諦めろ、俺の自慢の相棒だからな、アジルも気に入ると思うぜ、それとリンダ、お前はもう少し落ち着け、いくらリョウでもお前の事知ったら逃げるぞ。』
俺様の返答にリンダだけは納得出来なかったようで、馬鹿にするなと向かってきたがとりあえず足掛けで地面に転がしておいた。
このメンバーをリョウが相手するようになるのかと思うと複雑な思いだったが、今はリョウを休ませる事にしよう。
俺様はクラス全員に呼び掛ける。
『これでお前らの暴走の危険は無くなった!、だが俺ら金クラスを見下す目は変わるわけじゃねえ!、だからこそ舐められっ放しではいられねーよな!、もうお前ら縛るもんは何もねえ!、それぞれやりたいことをやって他の奴等を見返してやれ!、それから今回のはリョウのおかげでもあるんだ、恩知らずになるんじゃねーぞ!、後日リョウをクラスに連れてくるからお礼とかはそんときにしろよ!』
こういって俺様はリョウを連れて体育館をあとにした。
出る前にあいつらの表情を見たが、これからの未来に希望を持ち、やる気に満ち溢れていたのを見て改めてリョウの凄さを体感した。
ちなみに、さっきの呼び掛けは馬鹿どもに対する牽制と俺様なりの鼓舞のつもりだった。
これからこのクラスがどうなるかはわからないが、リョウがいる限り悪い方向にはいかないだろう。
俺様はこれからの学園生活を楽しみにしながらリョウを個室に寝かせた。
看病はスートに任せ、俺様は体育館で訓練でもしようと来た道を戻った。
次回更新は5/7です。
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