6.リナの成長
リナ視点です。
学園に戻って来て3日目の朝、私はいつも通り相部屋の友人が寝ている中目覚め朝食を作り始める。
エルフである私の朝は学園に来ても変わらず早い。
もうかれこれ90年くらいの習慣なので余程の事がない限り今後も変わる事はないだろう。
日が昇る前に起き、日が出始めた時には動けるように準備をする。
そうして、日が沈んだ頃に夕食を食べ、睡眠に入る。
これが森で生きてきたエルフの生活習慣だ。
料理を作り終えると、匂いにつられてかルームメイトも起きてきた。
毎回そうなのだが、彼女は夜遅くまで訓練をしてきて、私がご飯を用意すると起きてくる。
かなり睡眠時間は短いはずなのに彼女はいつも元気だ。
そんな彼女を見ると、私まで元気をもらえる気がする。
そんな彼女といつも通り朝の挨拶を交わす。
《ルイ、おはよう!》
《リナー!、おっはよー!》
そうして私に抱きついてくるルイ。
何で私の友人達はみんな抱きついてくるんだろ?
そんな疑問を持ちながらも、悪い気はしないので私も抱き締め返してあげたが、料理が冷めてしまうので、早めに離れてもらう。
《ルイ、料理が冷めるよ!》
《あ、それは大変、いただきます!》
そういってすごい勢いで私から離れて料理を食べ始めるルイ。
そんな彼女を見て顔を綻ばせながら私も料理を食べ始める。
彼女の名前はルイ=リオン、獣人族で強靭な肉体と女の私でも惚れそうなくらい整った顔なのに身長は小柄なので凛々しさよりも活発さが売りの女の子だ。
本人にそれを言うと怒るから言わないけどね。
食事を食べ終えると、いつも通り片付けをして今日の予定を話し合う。
《リナー、今日は大好きな大好きな彼氏さんに会いに行かなくていいのー?》
ニヤニヤしながらからかってくるルイ。
学園に着いた日の夜に彼氏ができたと報告すると、物凄い驚いていて詳しく問い詰められて盛大に惚気たら事あるごとにからかわれるようになってしまった。
しかも、昨日、一昨日と私はリョウに会いに行ってたので、尚更反論できなかった。
だが、今日はリョウとの予定は立てていない。
ここ最近でリョウといない日の方が少なかったので、何となく寂しい気持ちになるが、ルイといる時間も楽しいので気にしない。
《もうからかわないでよー!、今日はリョウと会う用事はないから久々に二人で体育館に行こう?》
《いいねー!、リナがどのくらい強くなったか見てあげましょう!》
こんなに小柄で活発な女の子と言った感じなのに戦闘になると雰囲気が一気に変わって、好戦的でものすごい殺気を飛ばしてくる。
そんなルイに今まで私は触れる事すらできなかった。
だからこそ、私は何とかしてこの友人を追い越したいと思っていたし、その為の努力もしていた。
だけど、結果は実らずに今まできてしまった。
せっかく一緒に訓練してくれてるのに一向に強くなれない自分に嫌気がさしていた。
でも、もうそんな私はいない。
リョウの真横でひたすらに上を目指す姿を見ていた。
リョウが強くなるきっかけをくれた。
だからこそ、その成果をルイに見せたいと思う。
私たちは部屋を出て体育館に向かう。
本当はリョウにも会えるかもしれないから別校舎の方に行きたいんだけど、あそこは少し遠い。
今のこの集中力をそんな事で切れさせたくないので、私は本校舎の体育館へ行った。
朝早いこともあって、人がほとんどいなかった。
そんな会場の中央で私とルイは向かい合う。
さっきまでの和気あいあいとした雰囲気から一転し、戦闘時独特の緊張感が溢れた。
審判はいないが、ここでは身体へのダメージは1/100まで落とされるので死ぬことはない。
ルールはリョウとやった時と同じだ。
あの時、リョウには手も足も出なくて悔しい思いをしたけれど、ルイにはどうだろう。
私は改めて気合いを入れ直し、弓を構える。
ルイは武器を使わず拳甲で戦う。
リーチも無いし、零距離でしか使えないから不利に思えるが、ルイの獣人族としてのスペックがあれば全く問題がない。
むしろ小回りもきくうえに魔法も壊すことができる恐ろしい武器だ。
だからこそ、最大限に警戒する。
いつも通りスタートの合図はコイントスでコインが地面に落ちたらスタートだ。
私がコインをトスする。
意識を集中させると、コインの動きまでゆっくり見えてくる。
こんな感覚は初めてだ。
そうしてゆっくりとコインが落ちてきて、地面に落ちた瞬間私は弓でルイを射つ。
だが、この程度ルイには効かず矢の方向を拳甲で受け流す事で変えて距離を詰めてくる。
だけど、私はリョウから魔力の動かし方を教わって、魔力を操作できるようになったおかげで魔力の性質を前よりも理解することができた。
魔力は、流したものの特性を強化させるエネルギーみたいなものだ。
肉体に流せばより強化され、剣や矢に流せば鋭さが、魔法に流せば魔法が具現化する。
私は全身に魔力を流してルイとの身体能力差を出来る限り減らす。
もちろん、エルフの私が獣人族のルイに身体能力で勝つためにはもっと膨大な時間と訓練が必要なので、今はこれくらいしかできない。
だけど、身体強化したおかげでルイの速度に対応することができ、反撃する矢には魔力を流して射つ。
先程の矢との違いを直感的に感じたのか、ルイは受け流さずに避ける。
だが、避けたことで一直線にこちらへ向かう事が出来なくなったルイに私は次々と魔力を込めた矢を放つ。
しかし、流石は獣人族で矢を避けながら徐々に距離を詰めてくる。
だけど、私にあるのは矢だけじゃない。
まだあまり成功率は高くないから、使うのを躊躇うけどこのままじゃどっちにしろジリ貧になってしまうので、私はこの攻撃に賭ける事にした。
ルイに魔力を込めた矢を放ちながら、私は魔法の詠唱を始める。
魔力を別々に動かしているためものすごく魔法を唱えづらくなるし、矢に流す魔力も維持出来なくなりそうだ。
でも、私はリョウを守れるくらいに強くなるって決めた。
リョウはこのくらいは平然とやってのけるから、こんなこともできないようじゃ、リョウを守る事なんてできない!
私は魔力の流れに意識を集中し、詠唱しながらも牽制を続けていく。
《我は求める、吹き荒れる風、ラ.ウインド!》
私の今使える全力の魔法をルイに放つ。
ルイは矢を避ける事に気をとられ魔法の接近に気付くのが遅れていた。
ルイは魔法を壊そうとしていたが、それも予想通りだ。
魔法を壊そうとするルイに魔力を纏った矢が先に到達し、魔法を壊そうと振り切った拳甲は魔力を纏った矢によって弾かれる。
ルイは片腕を前に出すことでかろうじて魔法を防いでいる。
しかし、ここまでくれば私の勝ちだ。
私は強化された身体でルイの側面に回り、魔力を込めた矢を射つ。
次々と身体に刺さる矢とラ.ウインドによりルイは遂に吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたルイの喉元に短剣を突き付ける。
私の勝ちだ。
ルイも決定的な場面のため、敗北を認めた。
私が初めてルイに勝てた瞬間だった。
そして、明確な成長を感じる事ができてとても嬉しかった。
そんな私にルイは悔しそうに話しかけてきた。
《完敗だよ、ちょっと見ない間にものすごい強くなったね、でも次は負けないから!》
そういって宣戦布告してきたルイに私は笑顔で答える。
《私だって今まで負けてきた分取り返すくらい勝ち続けるつもりだからね、だからこれからもよろしくね!》
こうして私とルイの絆は更に深まった。
模擬戦を終えて、身体の疲れを癒した私とルイはこのあとどうしようかと迷っていた。
今から受けられる授業でそこまでやりたい物も無かったから、今から訓練をするかギルドの簡単な依頼をやりに行くかくらいしかない。
どうしようかとお互いに悩んでいると、見たことのない生徒が話しかけてきた。
『リナ=エルフィンさんでよろしいでしょうか?このあとの予定は空いていますか?』
こういったやからは私とルイが一緒にいるとあとをたたない。
またそういった人か、面倒だなとリナは思いつつ目の前の男の人を観察する。
魔人族に似ているが、雰囲気や纏う気配に侮れない所か圧倒的な力を感じる。
おそらくこの人と戦いになったら私とルイの二人で戦っても勝負にならないだろう。
相手の機嫌を損ねないように気を付けながら質問に答える。
《はい、私がリナ=エルフィンですがあなたはどなたですか?、見知らぬ人物にプライベートを教えるわけにはいきません。》
万が一にも付きまとわれてしまったら危険だと思い、私たちの予定を話す前に相手の素性を聞くことにする。
すると、目の前の男の人は嬉しそうに私の質問に答えた。
『これは失礼、マスターの会いたいという人物がどんな人物か確認しようと焦り礼節を欠いてしまいました、わたしはマスターであるリョウ=テンジン様に召還されたデミアン=ロペスと申します、マスターからあなたを別校舎の図書館に呼んできてくれと頼まれましたので、あなたを探していました。』
私はこの人物の言うことを信じるか迷っていたが、私がリョウの知り合いというのを知っているのは、カリバーンとルイくらいしかいない。
しかも、リョウの召還した人物という話なら私を知っていてもおかしくはないので一応確認だけしてみた。
《話はわかりました、あなたは私に着いてくるつもりですか?》
『いえ、マスターからは呼んできてくれ、そのあとは自由にしていてくれと言われましたので、あなたがわたしが着いていくのを拒否するのであれば着いていきませんよ。』
これで一先ずこの人物が私たちをどうにかしようとする人物ではないことがわかった。
完全に疑いが解けたわけではないが、真正面から否定していても始まらないだろう。
実際に図書館に行ってみればわかることだ。
何よりリョウに会えるなら会いたい。
《わかったわ、このあとに予定もないから別校舎の図書館に向かいます、デミアンさん、あなたの事も聞きたいので一緒に来てもらってもいいですか?》
『かしこまりました、わたしもマスターの元へ戻るつもりでしたのでお供いたしましょう、それと私の名は呼び捨てで構いませんよ。』
デミアンも一緒に来てくれるそうなので、ついでに色んな事を聞いておこうと思っていると、ルイから警告された。
《ちょっとリナ、この人信用できるの?、リナの彼氏さんがどれだけ強いか知らないけど、こんなとんでもない人物を呼べるものなの?、そんな人に着いていって大丈夫?》
《うーん、完全に信用するにはリョウに会って聞いてみるしかないし、私たちをどうにかしようとしてるならわざわざこうやってリョウの名前まで出して話す必要はこの人にないと思うから大丈夫だよ、それにリョウは私の想像出来ないことを平然とやるからこんな事もあるよ!》
私の答えにルイは呆れていたが、説得するのを諦めたようで、警戒のために私に着いてきてくれるみたいだ。
《もう、リナは危機感が足りなすぎ、心配だから私も着いていく、それにもしデミアンさんの言うことが本当ならリナの彼氏さんも見てみたいし。》
リナはそれを聞いて苦笑を浮かべる。
絶対リョウを見るのが目的だとわかったからだ。
こうして私たちは別校舎の図書館へと向かう。
その途中デミアンの事を聞いてみた。
《ねえデミアン、あなたの種族は何なの?、人型で召還されるのも珍しいしあなたの特徴と一致する召還種族を見たことない。》
『そうですね、伝わっているかはわかりませんが、わたしはマスターに魔界から召還された悪魔族ですね、役職としては魔界にある城で騎士をしていました、騎士と言っても王直属の騎士ではないのでそれほど強い訳ではありませんがね、得意なのは諜報活動や隠密行動ですので。』
私はそれを聞いて危うく転けそうになった。
魔界の悪魔族、そんなのは神話の中にしか出てこないお伽噺の中で作られた空想の存在だと思っていた。
しかも、騎士という役職まで持っているということは強さの桁が跳ね上がるということだ。
どの種族でも役職持ちとそうでない人の差は比べ物にならない。
しかも彼は戦闘よりも偵察などの情報収集が得意らしい。
そんな人物なのに圧倒的な強さを感じる。
相変わらずのリョウの規格外さに驚く。
そして、なぜリョウの召還に応じたのか聞いてみる。
召還魔法はお互いの了承がないと召還に成功しない。
しかも、これほど強力な人物を呼び出すならかなりの対価も必要なはずである。
急にリョウの事が心配になりリナはデミアンに聞いてみる。
《あなたが凄い人物なのはわかったわ、そんなあなたがどうしてリョウの呼び掛けに応じたの?、リョウも凄い人だと思うけど、あなたのような人をそれなりの対価で呼び出せるとは思えない、リョウは何を対価にしたの?》
『確かに、本来わたし等を呼ぶのであれば悪魔の力の備わった素材か術者の生命と同等くらいの物を捧げてギリギリでしょうね、しかし、たまたま魔力を好む私達悪魔の更に極上の魔力に目がない私に呼び掛けたことで、マスターの魔力の質の高さとその気高き魂に心惹かれ、対価の足りなさを補ったのです、ですのでマスターが渡した対価は魔力なので命の危険はありませんよ。』
私はその話を聞いて安心すると共に、悪魔すらも惹き付けてしまうリョウを改めて尊敬した。
無事に別校舎の図書館に着くとリョウは私たちの姿を確認したようで本を不思議な方法で片付けていた。
本がひとりでに浮かび、元あった場所へと戻っていく。
そんな光景にポカンとしていると、リョウに声を掛けられた。
「急に呼び出して悪かったなリナ、実は話したい事があったんだけど、ちょっと理由があって本校舎へ行けなかったからデミアンに呼び出しを頼んだんだ。」
昨日会ったばかりだがリョウの声を聞けて嬉しくなる自分に気づいて何となく恥ずかしくなる。
そんな私を横でニヤニヤみてるルイに何となくイラッときたので、リョウの死角になる位置で見えないパンチをお腹にいれておいた。
そこは獣人族らしく蹲ることはなかったが、ちょっと身体が震えていた。
そんなルイに満足してリョウに視線を戻すと、見慣れない女の子がリョウの近くにいた。
《リョウ、その女の子は?》
リョウは何か覚悟を決めたような表情をしながら私に話してくる。
「今日呼び出したのはこの子の事でリナに相談したかったからなんだ、ここじゃなんだから場所を移そう。」
こうして私たちは図書室をあとにして、体育館へ向かった。
次回更新は5/3で、時間があれば2話更新したいと思います。
PVがそろそろ4000に、ユニークが1000になりそうで嬉しいです!!
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