4.スートの願い
イルデ視点とドーラ視点とスート視点とリョウ視点です。
イルデは魔法の同時発動を成功させるために訓練しながら先程のリョウの言葉を思い出していた。
「なあイルデ、ドーラ、二人は亜人族の事をどれ程知っている?、実際に会ったことは?、モンスターになってしまった亜人族の話は入学するために勉強するし有名だけど、実際にモンスターにならず静かに生きている亜人族もいるんだよ!、そいつらにお前らはモンスターだから死ねというのか?、大して相手の事を知ろうともしないでいきなり殺そうとするとか間違ってるだろ!」
俺たち魔人族は人族を見下してきた。
それは今も残っているが、学園にいる以上自分よりも実力のある人族がいることも知っている。
そのため、他の魔人族の仲間よりは人族に対して対等に見れているだろう。
そんな俺だが、こんな人族は初めて見た。
最初に見たときは、金クラスと言うことと人族という所で興味はわかなかった。
だが、リョウが訓練を始めた瞬間俺は度肝を抜かれた。
俺には到底理解できない事を平然とやってのけるリョウの実力を認めたくなかったが、あの技術は教えて欲しかった。
だからこそ、俺とドーラで脅迫も含めて詰め寄った。
俺とドーラは学校でも戦闘能力的には上位に入る。
そんな俺らに反抗してくるやつはほとんどいなかったので、こいつもそうなるだろうと思っていた。
だが、結果から言えば礼節を欠いた上から目線を注意された。
そして俺たちの間違いを正してくれただけでなく、自分の技術を教え、俺たちに友達になってくれと頼んできたのだ。
今まで友達と呼べるようなやつはドーラしかいなかった。
他の連中は実力が違いすぎて話してこなかったり、話しかけて来ても俺たちを腫れ物のように扱ってきて気分の良いものではなかった。
だが、リョウにはそれがまったく無く、純粋に俺たちを友達として認めてくれた。
口には出していないが、内心では俺はとても嬉しかった。
そんなリョウに俺は対等に話をしようと決めた。
そうして、リョウの友人が1人の女の子を連れてきた。
見たこともない容姿をしていたので、不思議に思っていると何と亜人族だった。
亜人族の事は学園で勉強した以上には知らないが、モンスターになる可能性があるため、早く殺そうとリョウに言った。
ドーラも同じ意見だったようだ。
だが、リョウは先程の言葉を俺たちにぶつけてきた。
ドーラも同じだと思うが、俺はリョウの言葉に衝撃を受けた。
何も知らないのにモンスターになるかもしれなくて危ないから殺そう、これは過去に俺たち魔人族が受けてきた仕打ちと同じものだ。
そのせいで今も人族とわだかまりが残っているのに、知らない内に俺たちは同じ事をしようとしていたのだ。
俺はリョウの正しさが眩しかった。
だが、今まで根付いてきた意識を変えることは難しい。
だからといって、自分が間違えている事を知ってしまった以上は治さなければいけないと思う。
俺はまだ会ったばかりだが、リョウに会えて良かったと思う。
リョウのおかげで俺は初めて尊敬できる人族を見つけられたし、自分の未熟さを見つけ改善のきっかけを掴めた。
すぐには無理だが、俺もリョウのように他人から眩しいと思われるような正しい理念を持っていきたいと思う。
そんな覚悟を決めて俺は訓練に意識を集中させる。
∨∨∨
ドーラは魔法の同時発動の訓練が中々上手くいかなかったが、久しぶりの高揚感に満ち溢れていた。
ドーラは竜族であり、実力に重きを置き他人の評価をそうして決めてきた。
力の無いものを見下す、それが竜族という種族だった。
そんな俺が今訓練でアドバイスをもらっているのは人族のリョウという男だ。
最初に見た時は金クラスで人族であり、大した風格も感じなかったため、自分達の訓練の邪魔をしなければどうでもいい程度の存在だった。
だが、リョウが訓練を始めると竜族の俺ですら圧倒されるくらいの圧力を感じた。
慌ててリョウの訓練を見ていると、俺ですら全く理解が及ばないような技術を次々に使って訓練をしていた。
強さに重きを置く竜族の俺だが、圧力のあるやつが強者とは限らず、何よりもリョウが金クラスということもあり、俺は技術だけを教えろと高圧的に詰め寄った。
だが、そんな俺とイルデの威圧など気にもしない様子で俺たちの礼儀を注意してきたリョウ。
確かに技術を教わる者に向けての態度ではなかったと反省し、俺はリョウを尊敬する人物として見ることになる。
理由は、礼節を欠いた俺たちを許し、あまつさえ自らの積み上げてきた技術を提供してくれることもあるが、何よりも竜族の俺と友になろうと言ってきた事だ。
学校で学ぶ歴史でもわかる通り、俺たち竜族は優れた能力を持つ種族であるため、プライドが高くあまり他種族と関係を築いてこなかった。
そのため、実力の近い自分の認めた者にしか近寄らず、俺を恐れて近づいて来るものはほとんどいなかった。
そんな俺をリョウはもっと知りたい、友になりたいという。
こうして俺はこのような人族が存在するのかと、尊敬の念をリョウに持った。
その後、リョウの友であろう人物が1人の少女を連れてきた。
どの種族にも当てはまらない少女に疑問を持っていると彼女の自己紹介を聞いて殺意を持った。
彼女は亜人族のようだ。
生存する亜人族など見たこともなかったが、モンスターを作り出す原因となった種族だ。
生かしてなどおけるはずもなく、殺そうとリョウに提案する。
イルデも同じ考えだった。
だが、そんな俺たちをリョウは一蹴した。
「なあイルデ、ドーラ、二人は亜人族の事をどれ程知っている?、実際に会ったことは?、モンスターになってしまった亜人族の話は入学するために勉強するし有名だけど、実際にモンスターにならず静かに生きている亜人族もいるんだよ!、そいつらにお前らはモンスターだから死ねというのか?、大して相手の事を知ろうともしないでいきなり殺そうとするとか間違ってるだろ!」
この言葉を聞いた時、俺は初めて自分達の種族、いやもっと言うならこの学園全体の認識が間違っていることに気付いた。
俺たちは、他種族を弱いからと見下してきた。
だが、実際には他種族であっても強者は存在したし、リョウのように尊敬できる人物も存在した。
亜人族にもそういった者がいるかもしれないし、それは実際に会って話してみなければわからないだろう。
それをこいつらはモンスターになるからという実際に見たこともない過去だけを突きつけて殺そうとしたのだ。
俺はリョウに自分がいかに愚かな考えを持っていたのかを教えてもらった。
だが、今まで積み重ねてきた意識をいきなり変えるのはかなりの時間がかかるだろう。
それでも、リョウのおかげで間違いに気づく事ができ、自分のいたらなさを見つける事ができた。
だからこそ、相手を評価する際は直接会って話す事で決めるリョウのやり方を参考にしようと決めた。
こうして新たな覚悟を持って俺は魔法の訓練を続ける。
∨∨∨
亜人族の私は色々な人から迫害受け、殺意を向けられる。
そんな生活を過ごして来たからか、いつしか自分の境遇に文句など湧かなくなり、いつ殺されてもおかしくない自分自身に諦めの気持ちを持っていた。
そんな考えを持っている自分は、亜人族という事もあり、金クラスでもいつも一人だった。
だが、金クラスの人たちは特にこちらを迫害してきたり、嫌がらせをしてきたりしてくる事はなかったので、一人でいてもそれだけは安心だった。
そんないつもと変わらない生活を送っていた私の元に青い髪のとても整った容姿の人物が話しかけてきた。
私は彼を見たことなかったので、新入生かなと思っていた。
『よう、昨日入学したカリバーンだ!、お前今暇か?』
彼はカリバーンと言うようで、やはり新入生だった。
そして、いきなり私の予定を訪ねてきた。
特にすることもなかったので、私は暇だと伝えるとカリバーンは私にこういってきた。
『ならちょうどいい、俺と一緒に体育館へ来てくれ、紹介したいやつがいる!』
そういって私に着いてくるように急かしてくるカリバーン。
私は全然話の流れに着いて行けなかったが、悪い人には見えなかったので着いていく事にした。
カリバーンに着いていくと、体育館に着き中には3人の人物がいた。
魔人族と竜族の人はよく体育館で訓練している人で、実力も高く武術大会などでもよく見かける人物達だったが、もう一人の人族の人は初めて見た。
カリバーン程優れた容姿でもなく、身長が高い事以外は目立った特徴はあまりない人物だった。
しかし、何となく落ち着く雰囲気があり、悪い人では無いことがすぐにわかった。
それに何となくカリバーンと気配が似ていた。
カリバーンはその人族の人を呼び、私を任せてどこかへ行ってしまった。
え、私を紹介するんじゃないの?
どうしたらいいか困っていると、リョウから自己紹介をしてくれた。
「俺は自己紹介されたかわからないけど、さっき君を連れてきた青髪の兄さんの友達のリョウ=テンジンと言います、君と同じ金クラスで今日入ってきたばかりなんだ、良かったら君の名前を教えてくれないか?」
とても優しい声と雰囲気に私も自己紹介をした。
ただ、後から亜人族だからと邪険にされるのは嫌だったので、先に説明した。
すると、リョウはとても驚いていた。
けれど、誰もが私に向ける敵意や殺意などの負の感情を向けてくる事はなかった。
しかし、後ろの二人は違い、私を完全に敵と見なして威圧してくる。
恐かったが、もうそういった感情を向けられるのは慣れている私はまたか、と諦めていた。
リョウも二人を落ち着けようとしていたが、収まらず更なる殺意を向けられた。
ここで死ぬのかなと全てを諦めた私にリョウはとても悲しそうな顔で、けれどとても優しく私に話しかけてきた。
「スート、君がどんな生き方をしてどんな扱いを受けていたのか俺には想像でしかわからない、だけど、俺はスートの事をもっと知りたいと思うし亜人族の事も詳しく知りたい、だからこそ殺意を向けられたりするのに慣れなくてもいいんだよ、俺は亜人族だからといって見下したりしないし、その人の人となりを見てから全てを判断する。」
私は生きてきて初めて他種族の人に尊敬の気持ちを持った。
私たちの事を知りたいと言われたことも、私を心配をしてくれた事も初めての出来事だった。
更に彼は後ろにいる二人を注意していた。
「なあイルデ、ドーラ、二人は亜人族の事をどれ程知っている?、実際に会ったことは?、モンスターになってしまった亜人族の話は入学するために勉強するし有名だけど、実際にモンスターにならず静かに生きている亜人族もいるんだよ!、そいつらにお前らはモンスターだから死ねというのか?、大して相手の事を知ろうともしないでいきなり殺そうとするとか間違ってるだろ!」
こんな風に思ってくれる人物が本当にいたんだ、私は感動した。
大昔に私たちは様々な種族と共存していた。
それなのに、今ではモンスターを生み出した悪しき種族として人目のつかない所でひっそりと暮らすしかない。
そんな私たちの事を、実際に見てもいないのに過去に捕らわれて殺そうとするのは間違っている!と言ってくれたのだ。
そして、リョウの思いを聞いた二人は私に謝罪をしてくれて、私たちをきちんと見る努力をしてくれると言うのだ。
私は、嬉しさで自然と涙が出た。
私たちは生きてていい、同じこの世界の住人だと初めて認めてもらえた気がした。
そして、泣いてる私をリョウは優しく撫でてくれた。
それがとても気持ちよくて、なんだか心臓の鼓動が早くなってきて、顔も紅くなってしまって何となく恥ずかしくてリョウの顔を見られなかった。
リョウの撫でが終わってしまうと何となく寂しい気持ちになった。
その後リョウは一緒に訓練しようと誘ってくれた。
私も強くなりたいし、せっかくならリョウに教えてもらいたかった。
先程少し見ただけだが、実力がかなりある二人に教えていたのはリョウだった。
もしかしたら、リョウに教われば私も強くなれるかもしれないと思えた。
けれど、私は訓練を断った。
昔から私が魔法を使うとコントロールできなくなる事が多かった。
中にはそれでケガをさせてしまう事もあった。
だから、せっかく私を認めてくれた彼らに迷惑をかけたくなかったし、嫌われたくもなかった。
だけど、そんな私の葛藤がわかったのかリョウは優しく私を励ましてくれた。
「スート、この二人と俺は腕に自信がある、だから迷惑をかけられても問題はないよ、やりたくないなら無理しなくてもいいけどどうする?」
こちらを気遣って言ってくれた言葉、リョウなら私を変えてくれるかもしれない。
そう思って私は決意した。
《私も強くなりたい、だから迷惑かけるかもだけど訓練やりたい!》
∨∨∨
イルデとドーラは引き続き魔法の同時発動の訓練を、スートには先程二人に教えたやり方を説明しやってもらう。
スートの魔力の流れを見ていたのだが、魔力を身体に流すと途中までは何の問題もなく流れていくのだが、途中黒い異物が邪魔をして魔力を暴発させようとしてしまう。
それを無理矢理抑えつけようとするため、毎回そこで突っかかってしまう。
魔力を暴発させられそうになると、一瞬だけ黒の異物が全身に広がりスートの身体を乗っ取ろうとしているように見えた。
俺は少し試してみようと思い、スートに提案してみる。
「スート、一回魔法を壁に打ってみてくれ。」
スートは不安そうな顔をしていたので、俺が大丈夫だから、と笑いかけると何かを決意したようで魔法の詠唱を始める。
《我は求める、灼熱の業炎、グラン.ファイア!》
詠唱を始めた瞬間に黒い異物が全身を支配し魔法を構築していた。
スートは、黒い異物が全身を支配してる間意識が無くなっているようで目に光が消えていた。
そして、黒い異物を魔力が抑え込むと意識が戻ったようで、自分の魔法を見て驚き慌てていた。
スートを除く俺たち3人も魔法の強大さに驚いてはいたが、この程度なら何とかなるだろう。
俺は魔力を創造しウォーターを今作れる限界まで作り上げる。
その数50、俺の魔法を見た3人は詠唱のない事に驚いていたが、そんなことを気にしている余裕はないため、ありったけのウォーターをスートが
作り出した炎に当てる。
同時に青と白、紫と銀の光を混ぜた魔法剣、同じ色の魔力剣まで用意して炎に斬りかかる。
炎に近づくと、かなりの熱量を感じたが、水の鎧を纏って熱のダメージを軽減させる。
そして炎を真っ二つにして、残骸に魔力剣を刺し相殺する。
そこそこ魔力を使ったが、無事に乗り切れた。
さて、ある程度予想はしていたがあの黒い異物がおそらく暴走の正体なのだろう。
今は自分の魔力で抑えられているが、抑えられなくなったときに黒い異物が身体を乗っ取ってモンスターとなるのだろう。
問題は、あれを取り除いてスートに悪影響はないのかどうかだ。
黒い異物を取り除くのは危険はあるだろうが何とか出来るだろう。
ここはスートの意思に任せるとしよう。
「スート、今までさっきみたいな魔法の暴走みたいなことはあったか?」
《うん、私が魔法の訓練をしようとするとさっきみたいに魔法が勝手に完成して制御できなくなるの。》
「スート、受け入れ辛いかもしれないがその魔法の暴走はおそらく、スートの身体でモンスター化が進んでいるせいだ、このまま放っておけばスートはこのままモンスターになる、だが今俺に任せてくれれば上手くいけば暴走の危険を無くせると思う、その代わり命の保証はできない、どうする?」
スートは顔を真っ青にして震えている。
そして俺にすがってくる。
《リョウ、私まだ生きていたい、せっかく私を化け物としてではなく人として見てくれる人に会えたの、だからお願い、私を助けて!!》
俺は覚悟を決めた。
人の命を背負うんだ、失敗はできない。
俺はスートの身体に手を当て、自分の魔力を流す。
そして、このままでは俺の魔力と反発してしまうかもしれないので、慎重にスートの魔力と同調していく。
(魔力創造)で相手の魔力を測る魔力を形成、測った魔力と同質の魔力をスートの身体に流し、異物のあるまでたどり着かせる。
そして、周りの魔力も使い異物を閉じ込め、身体の器官を把握する魔力を同時に形成し、身体に悪影響を与えていない事を確認しつつ、影響のない場所から黒い異物を取り出す。
スートの身体から出た瞬間一気に魔力を黒い異物に吸い込まれていく。
慌てて魔力を消そうとしたが間に合わなかった。
包んでいた魔力全て吸収し、身体を作り始める黒い異物。
スートは黒い異物が抜けたからか身体が光り始め、光が消えると獣人の強靭な肉体とエルフにしかない耳を持ち、人族の整った容姿、魔人族の強大な魔力、竜族の鱗と尻尾、ドワーフの小柄な肉体の全てを合わせ持った女性がいた。
同時に先程のスートを全身黒くしたような者が生まれた。
黒い方が異物に飲み込まれたスートで、全種族の特徴を持った女性がスート自身なのだろう。
突然の出来事に驚いた俺だが、呆けている場合ではない。
黒いスートは、先程の小さく弱々しかったスートとは違い、かなりの圧力を放っている。
俺が戦闘準備を始めようとすると、スート本人が俺にお願いしてきた。
《リョウ、あれは私が生み出したものだから私に任せてほしい。》
俺は身体が変化したばかりのスートが心配だったのだが、スートの意思は固いようなので、彼女の決意を尊重する事にした。
「わかった、その代わりスートの危険を感じたら即座に手を出すからな、もし自分の力だけで勝ちたいならあんなやつ圧倒してやれ!」
スートは頷き、黒いスートと向かい合った。
そして、黒いスートは魔法の詠唱を始めていた。
俺は魔力が見えるため、あれがどのような物か簡単にわかる。
先程放ったグラン.ファイアだろう。
対する本物のスートを見て俺は驚愕した。
俺のやっていた身体強化を使い、魔力剣をカリバーンのように武器として作っていたからだ。
しかも属性は光と闇である。
さらに身体強化も俺が元の3倍程度に対して、スートはおそらく5倍ぐらいに強化できているだろう。
俺と違い、全種族の特徴を持ったスートの身体能力を5倍にしたのなら尋常ではない強さを持つだろう。
準備を終えた本物のスートは黒いスートが魔法の詠唱を始める前に、俺がかろうじて見える程のスピードで間合いを詰め、魔力剣で斬りかかる。
魔力を見える目に作り替えた俺の目は、以前目に魔力を集中していた時よりも更にパワーアップしている。
それは、魔力の判別能力だけでなく視界の広さや動体視力も含まれている。
その俺がかろうじて捉えられるスピードということはかなりの速さだろう。
そんなスピードの本物のスートの攻撃を黒いスートは完全に避ける事はできなかったようで、肩から腹までばつ印の剣の跡が残っていた。
だが、実際に斬った跡ではなく、闇の消失と光の熱で焼けてできた跡のようだ。
だが、相手は痛みを感じないようでそのまま詠唱を続けていた。
〈ワァレェーハァァーモトメェェール、ジャグネヅノゴヴガ、グラン.ファイア!〉
魔法名以外はかなり聞き取りづらい詠唱だったが、先程発動された魔法よりも遥かに強力になった炎が発動される。
俺はすぐに助けに入ろうとしたが、スートは俺の方を向いて微笑み光と闇の剣を合わせる。
銀と紫の剣が合わさり、単体では比べ物にならない程強くそして綺麗な金色の光が溢れ出す。
本来反発するはずの二つが合わさって、新たな反応が生まれ金色の光が出来たのだろう。
その金色の魔力の剣で炎を切り裂く。
見た目にはわからないほどの強いエネルギーが内包されているようで、切り裂かれた炎はあっという間に霧散した。
その勢いのまま黒いスートを斬ると強い衝撃が広がって黒いスートを跡形もなく消す。
だが、剣を扱っているスート自身や俺たち3人には衝撃波の影響はなかった。
そして、辺りを金色に染め、剣が金色の粒子となって消えていく。
目の前に広がる幻想的な光景に目を奪われた俺だったが、かなりの疲労を感じている様子のスートの元に駆け寄る。
スートは俺を見ると安心したようで、俺に寄りかかってくる。
《リョウ、私を助けてくれてありがとう、リョウのおかげで私は暴走の恐怖に怯えながら過ごさなくてよくなった、ねえリョウ、私はあなたに助けられた、私もあなたを助けたい、私をあなたの側にいさせて下さい。》
俺は返答に困った。
俺にはリナと言う大切で大好きな人がいる。
けれど自分勝手かもしれないが、俺はスートをこのまま放っておくことも出来そうにない。
少なくともこれは俺一人で決められる問題ではないだろう。
まずは、スートを連れてリナと合流してから決めよう。
だが、これだけは言わなくてはならない。
「スート、俺にはもう大切で大好きな人がいる、この先何があってもこの気持ちが変わる事はない。」
《それでもいい、私はリョウの側でリョウの力になりたい、だから側にいさせてほしい。》
スートの決意は俺の思いを伝えても変わらなかった。
男としては嬉しいのだけど、今の俺の状況としては複雑だ。
仕方ないが、これで諦めないなら俺から言える事はもうないだろう。
そうして俺はイルデとドーラに挨拶する。
「イルデ、ドーラ、ちょっと用ができた、また明日俺は体育館に来るからその時にわからないことは聞いてくれ、それじゃ訓練頑張ってな!」
「わかった、今日はありがとな、俺はいつもこの時間にここにいるからな、嬢ちゃんも入れてまた一緒に訓練やろうな!」
「俺も感謝する、イルデと同じでいつもこの時間にここで訓練している、スートも連れてまた一緒に訓練してお互いに切磋琢磨しあおう!」
俺たち3人はお互いに笑顔を向け合った。
スートも2人に笑いかけて俺たちは体育館を出る。
だが、ここで俺は問題に気がつく。
俺はリナのいる寮を知らない。
かといって俺が女子寮の方に行くわけにも行かないし、スートを行かせるのはもっと駄目だ。
あのイルデとドーラの反応を見る限り確実に問題が起こるだろう。
とりあえずは俺たちの部屋に戻る事にした。
個室に着くと、既にカリバーンは帰って来ていたようで俺を見て、大笑いしていた。
『ハハハハ、早速女を連れ込んでくるとか俺様に喧嘩売ってんのかよ!、リナも悲しむだろうしな!、そんでそのかわい子ちゃんは誰だ?』
俺はとりあえず身体強化して、一気に距離を詰めてカリバーンの腹に一発いれておいた。
まあ、手加減はしたしちょっと痛いくらいで済むだろう。
案の定蹲ったカリバーンを見て俺は文句を言う。
「彼女はお前が連れてきて俺に責任ごとぶん投げてきた女の子だよ!、さっきまで色々あって大変だったんだよ!、これで済んだだけありがたいと思え!」
『あの女の子はもっと小さいやつだったろーが!、嘘言ってんじゃねーぞ!、それと一発は一発だ!』
そういって殴り合いを始める俺たちだったが、スートから恐ろしい程の怒気を感じたので動きを止める。
《リョウ私の事を忘れないで!、それからカリバーン!、リョウに手を出さない!》
俺とカリバーンはその場で大人しくして、スートに謝っていた。
もちろん土下座だ。
『「すいませんでした!!」』
俺とカリバーンは声を揃えて謝った。
そうして謝ったおかげでスートの機嫌を何とか治す事ができた。
そして、俺は(意識共有)でカリバーンに先程の出来事を伝える。
理解できたようで、とりあえずこの件は終了した。
そして、早急にリナと会わなければならないが、今はもう夜になってしまったので、今日は寝ることにした。
スートの分のベッドを用意して俺らはそれぞれのベッドで寝る。
今日も色々とあったが、無事に1日が終えられて良かった。
あとはリナとスートの今後について話せばいいだけだ。
それが1番大変な気がする。
自業自得だが、俺は胃がキリキリしているのを我慢しながら眠りについた。
次回は5月1日に更新予定です。
ゴールデンウィーク開始は水曜からと言うことで次回は1話更新にします。
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