3.訓練と亜人族
リョウ視点です。
さて、イルデとドーラと友達にはなれた。
ここからが難関だ。
この二人にどうやって俺のやり方を教えようか。
どっちにしろ、さっき試したのは(並列思考)のような物事を同時に考えられる能力がないと、おそらくできない。
それに、(魔力創造)があったからこそ詠唱無しで魔法を出せたり、複数属性を同時に出せたりするのだから、まあそこら辺は説明してみて試してもらおう。
もし今は出来なくても、いつかスキルを覚えて出来るようになるかもしれないからな。
「それでは、まず魔力を気体のような物と意識して、魔力だけを身体の中心から全身に流して見てください。」
俺のやり方を訝しむ二人だったが、まずは試してくれるみたいだ。
俺は二人の魔力の流れを観察する。
イルデは一方通行の魔力の流れを腕に作っていた。
しかし、魔力の流れから切り取って流しているので、すぐに消えてしまう。
ドーラの方は更に難しいらしく、もはや詠唱を始める前のように色が変わっていた。
しかも、魔力は切り取られ腕へと移動していくしかないため、行き場を無くした魔力に困ったのか魔法にしてしまった。
「我(竜)は求める、燃やし尽くす業火、ラ.ファイア!」
かなりの熱量と大きさを持った火の玉を壁に向かって投げる。
ドガーンというかなりの衝撃音と共に壁がそれなりの範囲黒焦げになった。
俺は二人の様子を見てどうしようか迷う。
このまま説明をしても、おそらくできないだろう。
というか、俺の説明一発でできたリナは天才かもしれない。
「えっと、二人とも魔法を使うときのイメージで魔力を流そうとしているみたいなんだが、少し違う、魔力を血液に溶かして循環させるイメージだ、それが出来れば次の段階にいける。」
二人は目を瞑って自分の魔力に意識を向けていく。
すると、二人の魔力が少しずつ体内を回っていく。
そうして、全身に無事魔力を流すことに成功し、身体の中心へ戻りそのままの流れを維持することに成功する。
二人は目を開けて身体の感覚を確かめている。
これは、俺の身体強化と同じなので今の二人ならおそらく今までの1.5倍くらいの動きが出来るようになるだろう。
「こいつはすげーな、いつもよりも身体が動く!」
「これは画期的だな、学園では教わらない知識だ!」
そんな感じで喜ぶ二人、だがまだ特定の場所に魔力を集中したりはできないみたいなので、魔力を見られるようになるのは少し先になるだろう。
それに、もし見えたとしても二人に情報を処理できるかは別の話だしな。
「二人とも上達早いね、これって俺の知り合いにも教えたんだけど、学園で教えてる知識と根本的に違うから難しいみたいなんだよね。」
「確かにな、魔力を血液に溶かすイメージなんて学園の教育じゃできないな。」
「学園の教えを忠実に守るなら、このやり方はどこかで躓くだろうな。」
二人はお互いに納得し合ったようで、俺に次はなんだ!?と無言で急かしてくる。
そんなに焦らなくても、ちゃんと教えるよ。
「次は魔力をそのまま手のひらで出す、それが出来たら全身のどこからでも出せるようにする、そのあとは魔法を同時に出すって感じだ。」
二人は全身に流している魔力を一度消し、さっきのイメージのまま手のひらに魔力を移動させる。
そして、これは魔法を出す時と同じようなものなので比較的簡単にできていた。
魔力だけを出すのは初めてなのか不思議そうな顔をしていた。
二人の魔力では触れても感触はないので、見えないけど何かがあるというような印象なのだろう。
手のひらから魔力を消したあとは、全身から出そうとしている二人だが、これは俺も通った道だが、コツを掴むまで難しい。
手や足などイメージしやすい所は簡単に出来るようだが、肩や背中、胸などは普段意識しないため苦戦しているみたいだ。
というよりも、どこから魔力を出せばいいのかわからないでウロウロした感じだ。
ここで、イルデが俺のように体内の状態を把握したらしく、全身から魔力を出せるようになった。
ドーラはそれを悔しそうに見ていたが、イルデの動きから何かを掴んだのか、もう一度意識を集中させ、全身から魔力を出せるようになった。
この次は魔法の同時発動だ。
これは、さっきまでのよりも遥かに難易度が高くなる。
流す魔力を切り離し、発動させたい場所に持っていき、魔法を詠唱する。
やはり、すぐには出来ないようでかなり苦戦している。
ここからは、俺の教えは役に立たない。
魔法の発動に必要なのはイメージであり、好きなところに魔力を持ってきて、それぞれの魔力に魔法のイメージを持たせ具現化させる。
自分にわかりやすいイメージにしなければならないし、それは人それぞれ違う。
なので、自分でやり方を見つけるしかない。
二人が苦労しているところで、カリバーンが1人の小さな女の子を連れてきた。
そして、俺に女の子を押し付けてくる。
『リョウ、金クラスの中1人でいたこいつをとりあえず連れてきた、あとはお前に任せた!』
そういってさっさと体育館を出ていくカリバーン。
あいつ、連れてきたくせに責任全部押し付けていきやがった!?
部屋帰ったら覚悟しとけよカリバーン!!
俺は心の中で愚痴をいいながら、小さな女の子を見る。
女の子は俺の事を困った目で見ている。
それはそうだろう、何て言われて連れてきたかわからないが、この感じだと特に説明もなく連れてきたのだろう。
それで着いてきてしまうこの子もこの子なのだが。
だが、この女の子、魔力の流れが他の人たちと全然違う。
何というか、魔力に別の異物が混ざっているような感じだ。
それが何なのかはわからないが、異物はそれほど大きくないため、何か影響があるわけではなさそうなので、とりあえず会話をしてみることにする。
「俺は自己紹介されたかわからないけど、さっき君を連れてきた青髪の兄さんの友達のリョウ=テンジンと言います、君と同じ金クラスで今日入ってきたばかりなんだ、良かったら君の名前を教えてくれないか?」
《私は、スート=ノウン、亜人族です、よろしくお願いします。》
俺は彼女の種族に驚いた。
まさか、亜人族の子が学園にいるとは思わなかった。
亜人族は亜人族を作り出した神であるノトンの暴走により、モンスターとなって人を襲う存在になってしまう者が現れてしまう。
その結果、亜人族は歴史から抹消され、モンスターとならなかった亜人族も迫害されてしまう。
だからこそ、こんな他種族が集まる学園にいるとは思わなかったのだ。
もちろん、機会があれば会ってみたいとは思っていたけど。
案の定、俺の後ろにいるイルデとドーラなんかは敵意を剥き出しにしている。
スートは恐がっているが、同時に全てを諦めたような目をしていた。
とりあえず俺はイルデとドーラに注意する。
「イルデ、ドーラ、いきなり敵意全開にしてんじゃねーよ、スートが恐がってんだろ!」
「そいつは亜人族だぞ!、あいつらはモンスターだ、今ここで殺すべきだ!」
「そうだ、やつらがいなければこの世界にモンスターが生まれる事はなかったんだぞ!」
こいつらは今、冷静を失っている。
とりあえず少し落ち着けないとスートが危ない。
さすがにこの二人と戦いになったら勝てる可能性がはかなり低い。
そして、スートにいたっては殺意を向けられるとやはり何もかもを諦めて、それが当然といった様子で立っていた。
俺はそんな彼女を見て、よくわからないが悲しい気持ちになった。
だからこそ、俺はスートに俺の思いを話す。
「スート、君がどんな生き方をしてどんな扱いを受けていたのか俺には想像でしかわからない、だけど、俺はスートの事をもっと知りたいと思うし亜人族の事も詳しく知りたい、だからこそ殺意を向けられたりするのに慣れなくてもいいんだよ、俺は亜人族だからといって見下したりしないし、その人の人となりを見てから全てを判断する。」
そして、イルデとドーラを戒める。
「なあイルデ、ドーラ、二人は亜人族の事をどれ程知っている?、実際に会ったことは?、モンスターになってしまった亜人族の話は入学するために勉強するし有名だけど、実際にモンスターにならず静かに生きている亜人族もいるんだよ!、そいつらにお前らはモンスターだから死ねというのか?、大して相手の事を知ろうともしないでいきなり殺そうとするとか間違ってるだろ!」
俺の言葉にしばらく黙るイルデとドーラ。
この沈黙は苦痛だ。
昨日も同じような感じで罵声を浴びせられた。
だが、昨日も今日も俺は間違ったことをしたとは思っていない。
俺のように人となりを見てから相手の評価を決めるやり方はきっと全員が出来るものではないのもわかっている。
だが、本人は何も悪くはないのに理不尽な評価を向けられてしまう人たちを放っておくことはできない。
だからこそ、俺は自分が救える範囲の人たちは出来るだけ救っていきたいと思う。
今回はスートがその一人だ。
俺はイルデとドーラとこれからも友達でいたいし、もっと仲良くもなりたい。
だが同時に理不尽な扱いを受けているスートの事も放っておくことはできないので、今回はスートを助ける事にする。
あとは、イルデとドーラ次第だ。
二人は俺を見て話してきた。
「俺はリョウの言いたい事はわかったし、すごく正しいと思える、だが今すぐにリョウと同じ考えを持つことはできないと思う、すまねえ、だが反省する気持ちはあるんだ、これから少しずつ変わっていこうと思う、嬢ちゃん悪かったな。」
「俺もこの考えが当たり前だと思って育ってきた、確かに実際に見たこともないのに見下すのは間違えだったと思うが、中々治すのは難しい、だからこそこれをきっかけに変わろうと思う、亜人族の子よすまなかった。」
俺は二人の言葉を聞いて嬉しく思った。
さっきも言ったように俺の考えがすぐに相手に伝わるとは思っていない。
だが、俺の考えを聞いて少しは改善しようという意志があった。
今はそれだけで十分だと思った。
スートもそんな事を言われたことはなかったらしく、俺と二人の言葉に涙を流していた。
俺はそんなスートの頭を撫でる。
すると、泣いていたのがよっぽど恥ずかしかったのかスートは顔を赤くして俯いてしまった。
そしてこのままただで別れるのも気がひけるので、スートに先程二人に教えていた内容をやってもらおうと思った。
「スート、せっかく体育館に来たから一緒に訓練しないか?」
スートは暗い顔をしていた。
《私が訓練するとみんなに迷惑かける、だから訓練に参加できない。》
俺は迷った。
ここで強引に訓練させる必要はない。
嫌がっている中で無理矢理やらせても効果はほとんどない。
だが、スートを見ているとほんとは訓練をやりたそうにしていたが、何か理由があって遠慮しているように感じた。
だが、俺とイルデとドーラの3人がいて防げない問題はほとんどないだろう。
俺はスートに笑顔で話しかける。
「スート、この二人と俺は腕に自信がある、だから迷惑をかけられても問題はないよ、やりたくないなら無理しなくてもいいけどどうする?」
スートはかなり迷ったあと、覚悟を決めて俺に話してきた。
《私も強くなりたい、だから迷惑かけるかもだけど訓練やりたい!》
こうして俺はスート、イルデ、ドーラの3人と訓練を再開するのであった。
もう1話書きます!