18.それぞれの思いを胸に学園都市オーノスへ
リナ視点とカリバーン視点とリョウ視点です。
リョウと交代で見張りをしている私は今日の盗賊たちとの戦闘を思い出していた。
私は援護をメインにしていたのだけど、リョウの戦いぶりを見て少しだけ恐怖と嬉しさを感じた。
盗賊達から見た私は、容姿が良くて金になりそうな上玉のエルフなのだろう。
実際捕まっていたら、散々オモチャのように扱われ売り払われていたと思う。
でも、リョウは盗賊のリーダーと話していた時に自分の事を言われていた時は無関心だったリョウが、私の事が出た途端に雰囲気を変えて、戦闘前にはまるで別人のような怒気を纏っていた。
それだけ私の事を想ってくれているのが伝わってきたから凄く嬉しかった。
そして何の躊躇いもなく闇魔法を使っていた。
闇魔法は基本的に光魔法と無属性じゃないと防げないうえに、リョウの使ったシャドウは触れた範囲が消失もので、普通は人間に使うものじゃない。
他の魔法なら火傷や切り傷、内蔵への衝撃くらいで済むのが、触れたとこが消失するのだから防ぐ術も治す術も無くなってしまう。
しかも、リョウはそれを12発も用意していた。
リョウが、私のためにどれ程怒ってくれたのかがよくわかり、幸せだった。
だけど、同時に恐怖を感じた。
リョウ程の実力があればあそこまでしなくても、無力化させることもできたと思うが、リョウは12発の闇魔法を盗賊達に容赦なく叩き込んで、手足を全て消失させた。
しかもそのあとに1人1人に2、3発剣で切ってから止めをさしていた。
まるで、この程度で済んだことを感謝しろよと言っているみたいだった。
リーダー格の盗賊も、いくらか話しをしたあとそのまま置き去りにしていた。
相手がどんなに懇願しても、まるでリョウの意識から消されたみたいに無反応で私たちの援護に来てくれた。
その後も、すぐに馬車を出発させた。
モンスター達が血の匂いに惹かれてあの盗賊に近づいていたのに。
私もああやって容赦なく人を殺すこともある。
だけど、その時は捕らわれたエルフの仲間を救う時や、逃がした時に報復される危険がある時だけだ。
私のために躊躇なく人を殺すリョウに、私は確かに恐怖を感じた。
もし、この先に私の事を悪く言って力に訴えかけてくるような連中が現れたら、またリョウは容赦なく相手を殺すかもしれない。
そんな事をしていたら、いずれリョウは他の誰かに殺されてしまうかもしれない。
それは耐えられない。
リョウは私にとって大好きな人だから。
ただ、リョウは人殺しがしたくて容赦なく殺していたわけでは無さそうだった。
馬車に乗っていた時には、感情に流されていた事に気付いたのか反省しているみたいだった。
このままならリョウは、きっとこれからもやり過ぎてしまうだろう。
それを止めるのは私の役目だと思う。
私はリョウの側にいると決めたのだから、リョウが道を間違えそうなら、正しく導くのも私の役目だと思う。
たとえ、それが私の為だったとしても、私が大切なのはリョウだ。
他の誰にどう思われようが、リョウが無事でいてくれるならそれ以上に大切な事はない。
だからこそ私は決意する。
二度とリョウに道を踏み外させないために、これからもリョウの側にいられるように、誰よりも強くなる。
それが、私の大好きなリョウを守る近道でもあるはずだから。
だいぶ時間が経ったのだろう。
カリバーンが交代でやってきた。
今回の襲撃では、私は援護といいつつも、カリバーンとリョウが圧倒的過ぎて私の出番はなかった。
その分今働くと言ったのだが、カリバーンは真剣な表情で私を交代させる。
『いいから、俺に任せとけ、リョウの奴も今日のあれは初めての経験のはずだ、それなのにあいつはスキルのせいで心の痛みを感じることはねぇ。』
『だけど、それはわからないだけで確実に疲弊してるはずだ、それもリョウは気づいてねぇ、このままだとあいつは知らない内に心が壊れる。』
『心の痛みってのは、いわばリミッターでもあり、発散する機会でもあるんだよ、それを無理やり抑えつけたら、、、あとはわかんだろ?』
『それを癒してやれるのは、おそらくお前だけだ、俺じゃ話しを聞いてやる事はできても心の痛みまでは取り除いてやれない。』
『あいつとはまだ会ったばっかだが、俺はあいつの魔力から生まれて、あいつと意識を共有した。』
『ほんとのあいつは、もっと不安や焦りに包まれてるが、スキルがそれを抑えているから周りは気付けねぇ。』
『だから頼む!、あいつの、リョウの心の支えになってやってくれ!』
私は、カリバーンの成り立ちやリョウとの意識の共有をしている事実に驚いたが、それよりもリョウが自分も気付かない内に、心が壊れていっているという事の方が衝撃的だった。
私の中のリョウは、いつも楽しそうで、凄い勢いで成長していって、いつも私を楽しませてくれる。
それが、ほんとはスキルがあるせいで、負の部分を見せることができないなんて、気づけないよ!?
今日の盗賊達の時なんて、もしかしたら既に心が壊れる程のダメージを負っていたんじゃないか?
あの、魔法や剣はリョウの心の叫びだったんじゃないか?
そう考えたら、私はいてもたってもいられなくなった。
私は急いで部屋へと戻る。
部屋へ戻ると、気持ち良さそうに寝ているヒュニさんと、静かに寝るリョウがいた。
リョウの寝顔を見たのは初めてだったが、こうやってみると、いつもの常に何かを考えている様子もなくてとてもかわいい。
私は先程の話しを思い出して、リョウの頭を撫でてみる。
私が頭を撫でられた時は、とても心地よくて、幸せでドキドキした。
だから、リョウには寝ている今だけでも安らぎを得てほしいと思いやってみたのだが、リョウの髪は私と違って少し硬く、それでもふわふわして撫でてて気持ちよくなってきた。
それに、撫で始めてからリョウの表情が次第に安心した様子になり、だんだんと気持ち良さそうになっていった。
それを見たら、私はリョウを抱き締めたくなった。
今までリョウから抱き締められる事はあっても、私から抱き締めた事はなかった。
それが少し恥ずかしかったが、構わず抱き締めていると、無意識なのかリョウに強く抱き締められ、そのままベッドに引き込まれてしまった。
目の前にあるリョウの顔、抱き締められる力の強さにドキドキが止まらなくなるけど、やはり幸せで心地よい気持ちが強い。
きっと、心が悲鳴をあげた結果が今の状況なんだろう。
カリバーンの言うとおり、確かに私はリョウを癒せるみたいだ。
その事実に嬉しくなった。
私を抱き締め続けるリョウ、リョウは私を抱き締めるのが好きみたいで、これまでも私を抱き締めて凄く幸せそうな表情をしていた。
今も、絶対に離さないってくらい抱き締める手に力が入っている。
こんなになるほど、リョウの心は傷ついていたのかと考えると、自然と涙が出てきた。
きっとこれからも、リョウは心の痛みに気付く事はできないのだろう。
だけど、もっとリョウの事を見ていれば、変化がわかるかもしれない。
だからこそ、これからもリョウを側で見続けようと誓った。
しばらく抱き締められ続けていると、だんだんと眠くなってきた。
けれど、私が離れようとすると、リョウの身体が震えるのだ。
そんなリョウを見ていたら、離れることはできなかった。
だから、私はリョウの頭を撫でながらリョウの腕の中で眠りについた。
∨∨∨
『たく、世話がやけるぜ。』
リナと交代する際にリョウの現状を教えると、凄い勢いで走っていくリナを見て俺様は苦笑を浮かべた。
あんなにお互いに想い合ってるのに、何も進まねえとか俺様には理解できないな。
まあ、そんな二人を見んのは嫌いじゃねーんだけどな。
だが、今はそんな事よりもリョウの奴が心配だぜ。
俺様もあいつと(意識共有)したからわかった事だが、あいつの楽しさの裏にはおおよそ人間が耐えきる事ができないだろう心のダメージが蓄積されていやがった。
俺様は、後から(精神耐性)のスキルを手にいれたから気付けたが、初めから持ってるあいつはそのダメージに気づいてねぇ。
あのままじゃ、あいつは近いうちに壊れる。
俺様に魔力で身体までくれたんだから、何とか救ってやりてーが、こればっかりは俺様にはできねえ。
俺様が出来るとしたら、あいつの負担を減らすためにリナをけしかけたり、汚れ役を引き受けるくらいだ。
だから、そこはリナに任せよう。
俺様がいつ生まれたのかもう、随分前過ぎて覚えてねぇ。
だが、俺様を剣として利用するんじゃなく、仲間として扱ってくれたのはリョウが初めてだ。
他の奴らは俺様の力に溺れ、道を踏み外していきやがる。
しかも、リョウは俺様が今まで考えたこともなかった方法で、俺様に命を与えてくれた。
口には出さなかったが、俺様はリョウに忠誠を誓った。
今は、リョウの魔力で生まれた命だから、そこまで圧倒的な力はねーが、嬉しいことにリョウには強くなる才能があった。
それを俺様も受け継ぐ事ができたし、俺様の力をリョウと共有することもできる。
よーするに、俺様が強くなりゃリョウを守れるし、リョウ自身も強くなる。
だからこそ俺様は、強くなろうと思ってる。
それが俺様にできるリョウを支える事だからな。
俺様は決意を新たに見張りの仕事を続けた。
∨∨∨
何かに包まれて、とても幸せな気持ちを感じながら俺は目を覚ました。
目を開けると、目の前には見たことのある金色の髪、整った容姿、俺の大切で大好きなリナが気持ち良さそうに寝ていた。
俺は驚き過ぎて思わず飛び起きそうになったが、あまりに気持ち良さそうにリナが寝てるので、起こすのも悪い気がしたので、俺はそのままの体勢でリナの頭を撫でることにした。
頭を撫でると凄く幸せそうな表情を浮かべていたので、俺は嬉しくなった。
何となくホッとして、癒されるような気がする。
いつもリナと一緒にいると、安心できて楽しくて癒される。
それがとても心地よくて、よく分からないけど、嬉しかった。
俺がこうやって毎日を楽しく過ごせるのは、色んな人のお陰だろうけど、そのなかでリナの存在はかなり大きいと思う。
そんなリナをこれからも大切にしていこうと思う。
頭を撫でていると、リナが身じろぎする。
《う、、ん、、、》
そういってゆっくりと目を開けると俺に笑顔を向けるリナ。
《リョウおはよー!》
至近距離でそんな笑顔を見せられると、どうしたらいいかわからなくなった俺は、とりあえず照れながら挨拶を返した。
「お、おはようリナ。」
そんな俺の様子を見て笑っているリナ。
もちろん俺の腕の中で。
そろそろ俺の理性が限界を迎えそうだったが、とりあえず今の状況をリナに聞いてみた。
「それで、何でリナが俺のベッドで添い寝してるの?」
俺が聞くと、リナは改めて自分の状況に気付いたのか照れていたが、照れながらも教えてくれた。
《見張りをカリバーンと交代して、戻ってきたらリョウが気持ち良さそうに寝てたから、思わず抱き締めちゃったんだ、そしたらリョウからも抱き締められて、今にいたります。》
詳細を聞いた俺は声もでなかった。
そして、悶え死にそうだ。
え、なに!?知らない内にリナを抱き締めてベッドに連れ込むってどういうこと!?
アワアワしていると、リナは俺を見てまた笑顔になった。
《私は嬉しかったから気にしないで、それともし辛かったらいつでも私に言ってね、リョウと一緒で私も大好きなリョウの力になりたいから!》
それを言われた俺は、知らない内に泣いていた。
自分自身何で泣いているのかもわからなかったけど、止めることはできなかった。
そんな俺を見てリナは、俺の頭を撫でてくれた。
もしかしたら、知らない内に心のダメージを抱えていたのかもしれない。
俺自身では気づかなかった。
これからも、こういう事は多くあるかもしれない。
あまり迷惑はかけたくないけど、リナにもう少し頼ってもいいのかもしれない。
いつまでもこうしているわけにはいかなかったので、俺は名残惜しい気持ちを切り替えて起き上がった。
リナさん?そんな名残惜しそうな顔しないで、離れられなくなるでしょ!?
ヒュニさんはもう起きていたようで、部屋には俺とリナだけだった。
今思えば、ヒュニさんは俺たちが同じベッドで寝てる様子を見ていたことになる。
気付きたくなかった現実に頭を抱えたくなったが、幸せだったから良いとする。
俺たちは準備を整えて馬車に向かう。
馬車の前ではヒュニさんとカリバーンが楽しそうに話していた。
すると、ヒュニさんとカリバーンはこちらをニヤニヤとしながら見てきて、カリバーンが俺たちをからかってきた。
『その様子だと昨日は楽しんだか?』
どんな様子だよ!?とツッコミたくなったが、何とか抑えて、俺が誤解を解こうとすると、リナがカリバーンに爆弾を落とす。
《朝までしてもらって満足で幸せな気分よ!》
照れながらわざと誤解を招くように言うリナに、俺は開いた口が塞がらない。
確かに、俺は朝までリナを抱き締めていたけども。
これを聞いたカリバーンは、一瞬驚いた様子を見せたが、俺の表情を見て色々と察したらしく、男の俺でも惚れそうな笑顔で笑っていた。
『そいつぁ良かったな!、リョウお前は一人じゃねーんだから、俺のことも少しは頼れよ!』
リナとカリバーン、二人の気遣いに嬉しくなった。
ヒュニさんの指示で、俺たちは馬車に乗った。
森の中のような盗賊達との遭遇も、モンスター達との遭遇もなく、無事に学園都市オーノスにたどり着いた。
学園都市というだけあって、中央にはまるで城のような建物があり、あれがエジマリフ魔導学園らしい。
それ以外にも学園を囲うように、様々な建物が建ち並んでいる。
それなのに、雑多な感じが全くなく、むしろ適当に建てられてるように見えながら、実際はかなりバランスにこだわっている事がわかる。
これを開発した人達は天才だなと考えながら馬車は町の中を進んでいき、ヒュニさんのお店である道具屋へと到着した。
町の中を馬車から軽く見ただけだが、アルスはかなり大きかった。
リナに聞いてみると、やはりこの街で一番大きな道具屋で品揃えも豊富なようだ。
俺たちが馬車から降りると、ヒュニさんがお礼を言ってくれた。
「いやー、みんなが居てくれて助かったよ!、無事に荷物をオーノスまで持ってこられた、リョウくんとカリバーンくんはこれから試験らしいね、君たちなら大丈夫だと思うが、油断せずに頑張ってね!、学園に入れたら是非うちを利用してね!、それじゃまた機会があったらよろしく!」
そういって店の中へと入っていたヒュニさんを見送り、俺たち3人は学園に向かう。
学園に着いた所で、俺とカリバーンはまだ学生ではないため、校内に入れないため、表の受付で入学試験の手続きをして、ゲスト証をもらう。
会場に試験官がいるそうなので、そちらで指示をもらうそうだ。
試験はいつでも受けられるが、1度落ちると1ヶ月受けられなくなる。
ここに来て1ヶ月無駄にするわけにはいかないので、何がなんでも受からなければならない。
俺とカリバーンは覚悟を決めて、リナに試験会場へ案内してもらう。
会場に着くと、そこは体育館のようだった。
ただ、俺の世界の体育館とは比べ物にならないくらい大きな所だった。
そこには1人の試験官がいるだけで他には誰もいなかった。
リナは、学園の生徒であるため中には入れない。
なので、ここには俺とカリバーンと試験官だけだ。
俺とカリバーンは試験官に挨拶する。
「こんにちは、今回試験を受けさせていただくリョウ=テンジンと言います、本日はよろしくお願いします。」
『同じく、試験を受けさせてもらうカリバーン=ツルギだ、よろしく頼む。』
いつの間にか、名字も作っていたカリバーンに笑いそうになったが、気を緩める訳にもいかないので、改めて気合いを入れ直す。
すると、試験官は俺たちの挨拶を聞いて満足そうな笑みを浮かべながら自己紹介してくれた。
「いやー、元気があっていいなー、俺が今回の試験官を務めるレイ=ライデンだ、試験の間よろしくな!」
レイさんは、異世界らしく容姿が整ったイケメン人族さんだった。
まあ、カリバーンの方が目を引く程のイケメンではあるが。
早速レイさんから試験内容の説明をされた。
「うちの学園は魔導学園の名前通り魔法や戦闘などの実技の評価を優遇している、他の教員がどうかは知らないけど、俺は座学の評価はおまけだと思ってるから、とりあえず実戦形式のテストで実力を見させてもらうよ。」
そういうと、さっきまでの優しい雰囲気とはうってかわって、半端ないプレッシャーをかけられた。
色々とツッコミたい所があったが、ここで逃げる訳にはいかないため、俺とカリバーンはしっかりとプレッシャーを受け流した。
それを見て、更に笑顔を浮かべるレイさん、そうして俺らに試験開始を告げる。
「いやー、久々に根性ある子達が来て、俺は嬉しいよ、話はここまでにしてあとは実力を測らせてもらおう、それじゃ二人でかかっておいで、試験開始!」
こうして、俺とカリバーンの入学試験が始まった。
次回更新は4月28日です。
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