12.リナの答えとリョウの答え
リナ視点とリョウ視点です。
村に帰ってリョウ、私、お父さんの3人分の料理を作ったが、私は食欲が湧かなくて少し食べて自分の部屋に籠った。
そうやって何かが解決する訳ではないけど、自分の気持ちに気付いて、リョウに嫉妬してしまう暗い感情に自己嫌悪してしまう今の私は、リョウと顔を合わせられない。
このままじゃいけないのもわかってるけど、私たちはまだ会って2日しか経ってない。
だったら、私の今の気持ちに蓋をして、学園に戻ってしまうのもいいかもしれない。
リョウなら私がいなくても、きっと学園に入れるだろうし、そのまま私の事を忘れてくれれば、この思いもいつかは無くなるだろう。
そんな事を考えていると、ノックが聞こえた。
思わずドアを開けてしまった事に後悔した。
ドアを開けると、目の前にはリョウが立っていた。
おそらく、私を心配してリョウが来てくれたのだろうから、もちろん嬉しいけど、同時に今朝から嫉妬してしまう私もいるので、自然と表情が曇ってしまう。
そんな私にリョウは何かを決意した様子で
「少し話しをしたいんだけどいいかな?」
と聞いてきた。
私は迷った。
このままリョウを拒んで、部屋に籠って明日を迎えればおそらくリョウと離れる事を決意できると思う。
だけど、離れたくないという気持ちも私にはある。
だから未練は残るけど、これを最後にしてリョウと離れようと自分の離れたくない気持ちを抑えこみ決意を固め、私は部屋のなかにリョウを案内した。
戸惑っているリョウを見て、相変わらず可愛いなと嬉しくなりながら、どうやってリョウに心配させずに離れられるかを考えていた。
ベッドに座り、言葉を決めたから最後くらいリョウの近くにいたいと思い、私の隣に来てもらった。
これからリョウと離れると思うと、胸が張り裂けそうになったが、その気持ちを押し殺し、リョウに精一杯の笑顔を向けて
《リョウは優しいね、私の事心配してくれたんでしょ?
でも大丈夫だよ、ちょっと考え事してただけだから。》
とリョウの迷惑にならないように、心配をかけないように、私ははぐらかした。
実際に、考え事をしてたのは事実だし、明日にはリョウの元を離れようと思ったのだから、大丈夫も嘘ではなく、笑顔もちゃんと出来た。
これで、リョウも退いてくれるだろうと思っていた。
だけど、次の瞬間私はリョウの腕の中にいた。
何が起きたのか、すぐには理解できなかったが、徐々に状況を整理できてくると、私はリョウに抱き締められている事に気づいた。
今度は別の意味で頭が真っ白になった。
好きな人に抱き締められるのが、こんなに心地良いとは思ってもいなかった。
心地良すぎて、先程までこれで離れると決意していたのに、その決意をあっさり揺さぶり崩してくる。
もちろん抵抗できるはずもなく、リョウに身体を預けていると、リョウの心音が聞こえてくる。
私もかなり心拍数が上がっていると思うが、リョウはそれ以上に上がっている。
心臓が破裂してしまうのではないかと、こちらが心配してしまう位にリョウはドキドキしていた。
このままじゃ、リョウと離れられなくなる、そう頭ではわかっているのに、身体は動かない。
そんな私にリョウが優しく話しかけてきた。
「俺には、リナが何に悩んでるかはわからないし、もしかしたらこうやって心配するのもお節介なのかもしれない。
だけど、俺は本気でリナの事が心配だった。」
「俺が今こうして不自由なく生きていけて、この世界の知識を得られたのは、リナがあの時俺に声をかけてくれたからだ。」
「あの時、リナが声をかけてくれなきゃ俺は今頃森で死んでいたかもしれない。だから、リナには感謝してるし、俺が出来ることなら力になってあげたいと思う。」
「それに、こんな事を言われても信じられないかもしれないけど、知らない内に俺はリナの事を好きになってたみたいだ。」
「だから、リナの事をこれからもっと知りたいって思うし、好きな人を守りたいっていう気持ちは、どこの世界でも同じだろ?、だから良ければ俺に悩みを話してくれないかな?」
言葉の一つ一つが心に響く。
リョウなら、私が話しかけなくてもきっと一人で生きていくこともできただろう。
それなのに、こんな私の事を好きだと言ってくれた。
私の事が好きなのに、嫌われるかもしれない恐怖を持ちながらも、私を心配してこうして自分の気持ちを話してくれた。
私を守りたい、力になりたいと言ってくれた。
私は嫉妬する暗い感情を持っているとリョウに知られるのは嫌だった。
もちろん、好きな人に暗い感情を持ってしまう事への自己嫌悪もあったけど、リョウに嫌われるのは何よりも嫌だった。
だけど、今の素直な気持ちを言葉にしてくれたリョウなら、私の暗い感情も、好意も全て受けとめてくれるような気がした。
だから私も、勇気を持って1歩を踏み出す事にした。
これで、嫌われてしまうなら、私とリョウは結局それまでの関係だったって事だ。
確かに、悲しい気持ちは残るだろうけど、何も言わないでリョウと離れるのと比べたら後悔はない。
私の気持ちを全部話した結果だから。
こうして、しばらくの間リョウと私、お互いに抱き締め合いながら心を落ち着かせ、話す決意を新たに、リョウと離れリョウと目を合わせて、私の思いを話す。
《私もリョウの事が好き。だけど、リョウの成長の早さに私は嫉妬してしまってる。》
《リョウの魔力の扱い方は、私にとっては衝撃的だったし、私は考え付きもしなかった。》
《私も、訓練をサボった事もないし、努力も重ねてきたけど、最近は伸び悩んでるの。》
《だから、どんどん成長していくリョウを間近で見てて、嫉妬の感情がどんどん大きくなっていったの。》
《好きな人に、こんな暗い感情をぶつけてしまう自分に自己嫌悪するんだけど、リョウを好きな気持ちもあるから、リョウを見るのが辛かった。》
《それに、リョウに私の嫉妬が原因で嫌われたくなかったから、部屋に籠った。》
《だけど、リョウの気持ちを聞いて、私の嫉妬も好意も全部受けとめてくれるんじゃないかって思って、勇気を出して全部話すことにした。》
《これが、私の悩みと気持ち。リョウの答えを聞かせて?》
言いたい事は全部言った。
あとは、リョウの答え次第だ。
そうして私は不安と期待の両方を持ちながら、リョウの答えを待った。
∨∨∨
リナの悩みを聞いた俺は、どうしようかと悩んでいた。
もちろん、リナが俺に好意を持ってくれていて、それが原因でこんなに悩んでくれていたのは、男として嬉しい限りだし、その思いに答えるつもりだ。
だが、嫉妬の内容は俺の成長スピードのようだ。
俺としては、レベル1が少ない経験値でも大きくレベルが上がって、レベル99が100に上がるまで膨大な時間がかかるのは当たり前なので、リナはそんなに気にする事はないと思う。
だけど、そんな薄っぺらい言葉ではリナは納得しないだろう。
かといって、リナの努力を見ていない俺が、努力が足りないからだというのは、リナへ対する侮辱だ。
だから、俺は慎重に言葉を選ぶ。
おそらく、リナは今スランプに悩まされている。
ただ、この世界での知識がほとんどない俺には、スランプを抜け出す方法はわからない。
じゃあ、どうするか。
俺の元の世界の知識を引っ張り出してくるしかない。
伊達に小説読んだり、ゲームをしてきた訳じゃない。
こういう時に伝わる言葉を探して、俺の言葉に変えて伝える。
著作権なんか知ったことか!、ここは異世界だからそんなもんはねえ!
そうして、俺はリナに答えを聞かせる。
「俺は、この世界に来たばっかでまだわからないことも多いから、リナの悩みの全ては理解できてないと思う。」
「だけど、これだけは言える、リナを見て努力が足りないとは思わないし、俺を見て成長が早いとリナが思うのは当たり前なんだ。」
「リナにもあっただろ?、魔法を覚えたての頃色々できるようになって楽しかったり、前に倒せなかったモンスターが倒せるようになったりする。」
「この世界に来たばっかの俺が今その期間なんだ。しばらくすれば、壁に当たってどうやって乗り越えようか悩む事もあると思う。」
「色んな事を覚えたリナと、何も知らない俺じゃ、そもそもの始まる場所が違うし、覚えられる知識も違う。」
「それに、自分より上だと本人が思うなら嫉妬するのは仕方ない。嫉妬できるって事はまだ、自分の可能性を完全に諦めていないって証拠だ。」
「自分の可能性を完全に諦めてしまったら、嫉妬を持つことなんてなくて、持つのは無関心だ。」
「だから、リナがまだ伸びる可能性はあるはずだ。俺はこの世界についてもっと知って、そんなリナを助けていきたいと思ってる。」
「だから、嫉妬を向けられても構わない、嫉妬も好意もリナの全てを受けとめる!」
「だから、これからも俺の側にいてくれ!」
これが俺の答えだ。
うまく伝えられたかはわからない。
それに何か、今思えばプロポーズに聞こえないこともない。
今更ながら、恥ずかしさが込み上げてきたがそんな事は今は後回しだ。
俺の答えを聞いたリナは、涙を流していた。
そして、俺にこう答えた。
《ありがとう、リョウ、あなたの気持ちちゃんと伝わったよ。これからもこうして迷惑かけちゃうかもしれないけど、私を側にいさせてください!!》
そういって俺に笑顔を向けたリナは、今まで見たことがないくらい素敵で魅力的だった。
こうして、俺とリナはカップルになった。
次回更新は4月23日です。
土日はできれば2話くらい更新していきたいと思っています。
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