94.アベルvsミロール
リョウ視点です。
コインが落ちるのと同時に距離を詰めようとしたアベルはミロールから飛んできた矢を処理することから始めた。
アベルもミロールも俺やリナ達から軽く教わったのと普段嗜み程度に剣や魔法を学んでいただけらしいので、俺達から見れば矢のスピードも身体の使い方もなっていない。
それでも、教えた身体強化と俺の渡した武器によって普通に模擬戦として成り立っている。
それが無ければただ単に剣を振り回したり、矢をあらぬ方向に飛ばしたりするだけになっていただろう。
アベルに向けて矢を放つミロールは矢のスピード的にはそれほど速くないが、角度を変えるタイミングが上手いうえに、矢をいくつも操れる処理能力があるおかげで、アベルを近寄らせない。
それに、矢の強さ、スピードも変えているおかげでアベルも対処に困っている。
だが、それでもミロールは勝負を決めきれない、ということは、いずれアベルがこの攻撃に慣れてしまうと一気に不利になると思う。
対するアベルは矢を処理し終えて距離を詰めようとすると、威力の高い矢が、かと思いきや次には威力の弱い矢がとミロールに良いように翻弄されていた。
けれど、アベルの方が身体強化の扱いは上のようで、威力の高い矢でも問題なく剣で対処している。
そして、初めは処理しきれずに回避するしかなかったアベルも戦いを続けているうちに感覚が磨かれていっているようで、徐々に剣だけで対応出来るようになっていく。
ただ、ミロールも矢をあらゆる角度から放ったり、思い通りに操っているため、膠着状態となる。
何か時間を追う毎にどんどん戦闘のレベルが上がってる。
今まで微笑ましいというような表情でアベルとミロールの模擬戦を見ていたクラスメイト達も、戦闘が長引いていくにつれ、2人の戦い方に釘付けとなっていく。
何しろ、元は戦闘とは関係ない暮らしをしていた2人だが、その分頭の回転は早く、俺達が考えないような攻めかたをする。
まあ、その内のいくつかは相手との実力が拮抗している場合は悪手になるものが多いのだけど。
それでも、それだけ工夫した戦い方を模索する様子に、思うところがあったのだろう。
次第にアベルとミロールの戦いをそれぞれ応援する人が出て来て、今ではクラス全員が半々に別れて応援していた。
まあ、当の本人達は戦闘に集中して気付いてないみたいだけど。
それでも、こうして他人を惹き付けるのは、流石王族だなと改めて感心した。
そのまましばらく戦っていると、さすがに体力が限界に近づいてきたのか、2人とも動きに精彩さが無くなり始める。
それでも、くらったら負けるかもしれないという戦闘を続けてきたアベルと、攻撃をいかに当てていこうと考えていたミロールでは、同じ戦闘でも得るものが違う。
そのため、遂にアベルがミロールの矢を防ぎながら距離を詰めていき始める。
まあ、ここまでアベルを完封していたのも十分凄いけどな。
やがて、両者の距離が詰まり、いよいよアベルの射程圏内にミロールが捕まる。
ただ、アベルも剣は素人なのでどこを攻撃しようとしているのかはわかりやすく、ミロールは何とか攻撃をくらわずにいた。
それでも、ミロール不利は変わらず、いずれくらうのも時間の問題といった状況だが。
回避と攻撃をお互いに繰り返し、いよいよ体力が互いに尽きそうな所で、2人は示し合わせたかのように、最後の攻撃として技の構築を始める。
技については見せただけなのだが、一応の説明はしたので、何とか形になっているのだろう。
それに、模擬戦とはいえ、2人とも戦闘経験を積んだわけだし。
「オルキンスラグ!」
《アシュロー!》
アベルとミロールの技がぶつかり合い、衝撃が生まれ互いに吹き飛ばされる。
俺達から見たらまだまだイメージの甘い技だが、それでも、2人の勝ちたいという思いがイメージとなって反映された良い技だった。
まあ、残念ながら2人とも技を放って吹き飛ばされると気を失ってしまったようで、技も同時に消え去った。
要するに引き分けってことだな。
俺は吹き飛ばされたアベルとミロールを集め、魔力と生命力を送り込む。
すると、気を失っていた2人は目を覚ます。
「あれ?、僕は確かミロールに技を放って、吹き飛ばされて、、、」
「2人ともお疲れさん、結果は2人とも技を放って吹き飛ばされて気絶したから引き分けだな、それでも初めてとは思えない良い戦いだったよ。」
そう俺が言うと、クラスメイト達がアベルとミロールに拍手を送る。
そう、予想以上に2人の戦いはちゃんとしていて、自然と拍手が起こるのも当然だった。
そんな様子に一瞬驚いていた2人だったが、そこはさすがに王族だけあって、すぐに落ち着きを取り戻し、クラスメイト達へ起き上がって頭を下げていた。
「さて、模擬戦は終わったけどこの後どうする?、流石にそろそろ良い時間だし屋敷まで送るか?」
「そうだね、そろそろ帰ろうか、僕もちょっと疲れたし。」
《リョウお願いします、あとリナ達も連れていってもらえないかしら?、せっかくだし、また一緒に食事したいわ。》
俺がリナ達に目を向けると、皆が親指を立てて笑顔で頷いていた。
「わかった、それじゃ行くか、みんな俺達はアベルとミロールを自宅へ送ってくる、明日また顔を出すだろうからよろしくな!、転移、アベル邸!」
こうして俺達は再びアベル邸へと戻ってきた。
次回更新は7/30です。
引き続き、評価、レビュー、感想、ブックマークをお待ちしております!