82.席決めあみだくじ
リョウ視点です。
屋敷へ入ると、迎えてくれたのは俺達の人数に合わせた執事やメイドさん達、その洗練された動きは優雅さ、気品もさることながら、全員が相応の実力を持っている事がわかる。
まあそれでも、俺やシュウ、シノグはもちろん、ハーレムメンバー達よりも実力は劣っているが。
そんな普段味あわない経験に何となくソワソワする俺だったが、ハーレムメンバー達の中でも、リナ、ルイ、リンダ、サクラ、マドル、エルンは慣れているような感じだった。
リナはエフォル村の村長の娘だし、その親友であるルイはそういった行事に着いていく事もあるんだろう。
リンダはいつも言っているが、あの暴走癖さえなければ非の打ち所のないスペックの無駄遣いさんだから何となく予想はできた。
サクラは会ったときから、何となくお嬢様なのかなという感覚はあったし、マドルとエルンに関しては少々特殊な種族なので尚更だ。
まあ、その他のスート、フラン、ソルンはやはり俺と同じようにソワソワしていたが。
それもそうだろう。
スートやソルンは亜人族だ、亜人族が全種族からどんな視線を向けられているのか考えれば、この扱いに慣れてないのも無理ないだろう。
というよりも、ここの鎧を着た人達や、アベルの反応の方がむしろ驚きだ。
アベル達は最初俺が連れてきたハーレムメンバー達の中に亜人族がいるのに気付いて驚いていたが、特に嫌悪感を表す事なく、むしろスートやソルンの俺との会話の様子や、他のメンバー達と楽しんでいる様子を見て、好意的な視線を向けていた。
そんな様子に俺はホッとしたし、アベル達の懐の深さに感心もした。
王族やそれに仕える人物達が、世間の流れに逆らうのは相当難しいことは容易にわかる。
それを当たり前に行える彼らは紛れもなく王としての資質があるんだと思う。
もし、俺が着いていくならそういう王が良いからな。
まあ、俺達の中で動揺が1番激しいのはフランなんだが。
ソワソワ所じゃなく、ガチガチといった感じで、まるでロボットのようだった。
そんなフランを見ると、俺達の動揺などかわいいものに感じられ、不思議と落ち着いてきて余裕が生まれたので、フランの緊張を解す事にした。
「ほらフラン、今更緊張しても仕方ないだろ?、それに良い機会になりそうだって言ったのはフランだぞ?」
《それはそうなのだが、やはり王族と食事というのはマナーとか、礼儀とかもあると思うと、どうしても色々と考えてしまうんだ。》
「フランのそういう真面目な所は尊敬してるし、好きだけど、それでも力を抜いて不真面目とまではいかないが、少し羽目を外すのが必要な時もあるんだ、そういった使い分けができるようになれば、もっと成長できるはずだ。」
《リョウ殿はそこまで私を信じてくれているのだな、ありがとう、リョウ殿のおかげで先程より少しは余裕が持てるようになった、すぐには出来ないかもしれないがやってみる、見守ってくれるか?》
「ああ、成長を楽しみにしてるよ。」
俺の言葉に嬉しそうにするフラン。
無事に緊張を解す事ができてよかった。
最も俺は思ったことを伝えただけなんだけどな。
そんなやり取りを終えて、案内された部屋で寛いでいると、アベルがやってきた。
俺たちとアベルの部屋が同じな訳がないので、別の部屋に行っていたのだが、どうやら準備ができたみたいだ。
「リョウ、食事の準備ができたから来てくれるかい?、もちろん、女性の皆さんも一緒に。」
「わざわざ呼びに来てくれてありがとな、みんな行こうか。」
そうして、俺達はアベルと共に広い屋敷を歩き、大きな扉の先にある場所へと向かった。
そこは、俺達の過ごしている学園の部屋の数倍は大きく、とてもではないがこの人数で使うには広すぎる部屋だった。
そんな部屋の中心に、大きなテーブルと、その上に大量の料理が並べられていた。
その料理は遠目からでも、まるでキラキラ輝いているように見え、食欲をそそる香りが料理への期待感を高めていく。
他のメンバー達も同様なようで、それぞれ料理が待ちきれないとでも言うかのように落ち着きがなくなっていた。
そんな俺たちを見て笑顔を浮かべるアベル。
「さて、みんな早く料理を食べたいみたいだし、席についてくれ、セバス、ミロールはまだかい?」
セバスと呼ばれた執事は申し訳なさそうにしながら、アベルへと頭を下げる。
「アベル様申し訳ございません、何分お客様が来るとは思っていなかったそうなので、慌てて準備を始めたらしく、もう少し時間がかかると思います。」
「うーん、せっかくの料理だから冷める前に食べたいんだけど、ミロールより先に食べでもしたら面倒になりそうだしな。」
「はい、アベル様もリョウ殿も申し訳ありませんが、もう少しだけお待ち下さい。」
そう言ってまた頭を下げるセバスさんを見て、執事の仕事の大変さを垣間見た気がした。
「気にしないでください、そもそも突然押し掛けたのは俺達の方なので、それじゃアベル、そのミロールさん?が来るまで雑談でもしてようか。」
「そうするしかないか、それじゃあリョウ何か特技のような物はないか?、あれだけの実力を持っているのだから、きっと僕の想像もできない事ができそうだし。」
「いや、それ雑談じゃないし、そういうの無茶振りって言うんだけどな、、、まあ仕方ないか、楽しませられるかはわからないが、いくつか見せるよ。」
特技と言って見せるのだから、やるなら戦闘関係がいいんだろうけど、あんまり派手にやり過ぎるのはまずいからな、室内だし。
やるなら、道具生成かな。
うーん、どんなのを作ればいいか。
無難にリンクイヤーでいいか、俺は慣れた魔力、生命力操作でリンクイヤーを完成させる。
今ではこのくらいの物なら戦闘中でも作れるくらいの余裕と慣れができた。
だが、端から見てるアベルやリナ達にそんな感覚はわかるはずもなく、リナ達はいつも通り俺が産み出す装備品に目を奪われ、アベルは魔力から物を産み出すという自分の常識の到底届かない光景に目を奪われるだけでなく、言葉すら出なかった。
それは、見ていた護衛達や執事達も同様だった。
そしてもう1人。
《その神秘的な光景はどうやっているのかしら?》
その中でも唯一声を出せたのはその女の人だけだった。
ピンクの髪に整った容姿、今は平民風の服ではなく、高級でしかし、気品を失わない洋服を着ている。
そう、裏通りで会った女の人だった。
護衛の人物が同じだったことから予想はしていたので、それほど驚きはない。
だが、相手はそうではないらしい。
客人が来るとは言われていたらしいが、俺がいるとは思っていなかったみたいで、驚愕に包まれていた。
しかし、今は俺に恨み言を言っていたのは既に忘れ、純粋に俺の道具生成に興味が湧いたらしい。
最も目を奪われ、言葉を失っているアベル達よりも立ち直りが早いのには俺も驚いたが。
「いるとは思っていたけど、こんな再会になるとは思わなかったな、んでこれだけど、魔力で作ったイメージに生命力を流して具現化させた物だ。」
《いや、あなた確かリョウとか言われてたわね、私に説明する気無いでしょう?、そんな説明でその光景を産み出せるのなら私だってこんなに興味を持たないわ、まずは魔力と生命力から教えて。》
俺はそう言われ、このまま放っておいても解放されないと思い、説明しようと思うが、名前を聞いてなかった事を思いだし、どう切り出そうか迷ってしまった。
そんな俺を不思議そうな目で見ていたピンク髪の女の人、そして思いついたかのように話しかけてきた。
《そういえば、自己紹介をしてなかったわね、私はグランバニア第1王女ミロール=ドラクよ、それよりも早くその作るやつを教えなさい。》
「第1王女と第1王子が一緒にいていいのか?、何か権力争いとか起きそうなんだが。」
《その心配はないわ、私には王としての器がないのは周知の事実よ、だからこそ私は兄さんが王になるのに何の不満もないわ、むしろ王という立場に縛られないだけ自由でいいと思ってるわ。》
「いや、王女も自由じゃないだろう、まあそれならいいか、俺としても2人の争いは見たくないしな、それじゃ魔力と生命力から説明するか。」
《そう、だから安心して私に説明しなさい。》
そうして俺が1から教えようと思っていると、今まで言葉を失っていたアベルがようやく我に返ったようで、俺達の会話を中断してきた。
「ちょっと待ってくれないか?、さっきのやつの説明は僕も聞きたいが、2人とも今食事前だったのを忘れていただろう、せっかくの料理なんだ、冷める前に食べよう。」
それを聞いて俺とミロールはようやく現状を思い出し、アベルの言葉に頷く。
ミロールは渋々、本当に渋々と言った感じだったが。
そして、いよいよ食事を食べようとしたのだが、ここでいつも通りの戦いが起こる。
俺の隣の席をかけて。
その様子を呆れながら、それでいて楽しそうに見ていたアベルとミロールだったが、リナ達があみだくじを用意すると、興味を惹かれたらしく、リナ達にやり方を聞いていた。
そして、どうせなら参加すると言い張り、何故か俺の隣の席を巡って、リナ達とアベル、ミロールがあみだくじで争った。
その結果、俺の隣はアベルとミロールという状況が生まれた。
王族として生きてきただけあって、もっているな、と思ったが素直に喜べなかった。
何故なら、この中で唯一マナーが出来てないのが俺だと理解していたからだ。
しかも左右は王族として育ってきたアベルとミロール、対面にリナ達と訳の分からない席配置になったのだから。
俺は食事を楽しめるか不安になりながら席についた。
次回更新は7/18です。
引き続き、評価、レビュー、感想、ブックマークをお待ちしております!