81.アベルの別荘へ
リョウ視点です。
「リョウ、済まない、遅くなった!、んで、そっちの男が身分の高そうな男って奴か?」
「ああ、ちょっとそう簡単に紹介はできなくて申し訳ないが、俺に免じて追求しないでくれないか?」
「ああ、俺もそんな人物の前に普通に現れたら問題がありそうなのを見逃してもらってるからな、そんじゃこいつらは貰ってくぜ?、想像通りの連中だったからこいつらを使って、他の裏の連中も押さえられそうだ。」
「そうか、その辺は任せたぞ、その代わり何か協力できそうな事があれば連絡くれ。」
「ああ、そんときは頼らせてもらう。」
そんなやり取りを終えると、シャームはフリルに命じて、その場で魔方陣を書いてもらい、縛った他組織の連中をアジトへと転送させる。
残ったフリルはこちらへ一礼すると、シャームと共に裏通りへと消えていった。
おそらく、転移魔法の魔方陣がある場所へと向かったのだろう。
2人がいなくなった所で、アベルが俺に話し掛けてくる。
「リョウが信用するだけの事はあったね、実力もそうだけど、こちらの事情を詳しく聞かないのは高評価だ。」
「まあ、俺だって裏組織と関わろうと思ったなら、訳の分からない連中とは組まないさ、とりあえず納得してもらえて良かったよ、そんじゃ護衛を探しながら、滞在先まで向かおうか、ほらフラン、いい加減落ち着け、無いとは思うが、戦闘になるかもしれないんだから。」
《何でリョウ殿はそんなに落ち着いていられるんだ!、まあでも了解した、少し動揺していた、もう大丈夫だ。》
「それじゃ2人共よろしく頼むよ。」
こうして、俺とフランとアベルは裏通りから表通りへと戻っていく。
裏通りを歩いて別の組織の連中とまた鉢合わせたら面倒だからな。
俺がシャームと並び、後方はフランが守るように大通りを歩いていく。
アベルに滞在先の場所の指示を受けながら、大通りを歩き、やがて貴族区に着くと大分人通りが少なくなり、明らかに身分の高そうな人物やその護衛が増えてきた。
だからこそ、人通りは少なくなったが、全くいないわけではない。
そして貴族区に入って少し歩いた所で、鎧を着た集団が前から走ってくる。
その様子は焦燥感に溢れていた。
そんな中でアベルは鎧の集団を見て、ホッとしていた。
「リョウ、彼らは僕の護衛達だ、どうやら僕を探すために1度滞在先まで戻って人を集めてきたみたいだね、まあ、あまり騒ぎにするわけにもいかないから、判断としては間違いではないかな?」
「それじゃ声をかけてやれよ、あの様子だと俺達に気付かない可能性もあるからな。」
「そうするよ、おーいみんなー!、僕は無事だよー!」
アベルの声に、素早く反応した鎧の集団、そしてアベルの姿を発見すると、慌てた様子でこちらへと走ってくる。
「アベル様!、今までどこに居られたのですか!、こちらの落ち度もありますが、自身の立場も考えてください!、しかし、ご無事なようで何よりです、あれ、あなたはリョウ殿ではありませんか?」
俺の名前が呼ばれた事に驚いていると、アベルに声をかけていた、おそらくこの集団の隊長であろう人物が兜を外す。
そこにあったのはつい先日会った顔。
「ああ、あの女の人の時の、こんな形で会うとは思いませんでした。」
「ははは、それは私の方も同じです、ようやくお嬢様が落ち着いたので、お礼に向かおうとした矢先の出来事でしたので、それで、どうしてリョウ殿が?」
「ああ、それは僕が説明するよ、君たちと別れた後、ちょっと裏通りに入っちゃってね、男達に追いかけられていた所をリョウに助けてもらったんだよ。」
「それはまた、リョウ殿またしても私たちの手助けをしていただきありがとうございます!、感謝してもしきれません、よろしければアベル様の滞在先に上がっていきませんか?、改めてお礼もしたいですし。」
「それは良い案だね、僕もこのまま報酬を払って帰すのもどうかと思っていたんだよ、リョウどうかな?」
「えっと、1つ聞きたいんですが、俺にはフラン以外にも仲間が8人いるのですが、他の仲間達を呼んでも構いませんか?」
「あー、リョウ、ここは公の場じゃないからさっきまでと同じでいいよ、その方が僕も仕事を意識しなくて楽だし、リョウの仲間なら問題ないよ、けど、連れてくるのは時間がかからないかい?、流石に僕たちの都合上そこまで遅い時間には人を呼べないのだけど。」
「ありがとなアベル、その点は問題ないと思う、ついさっき転移魔法を覚えた所だからな、すぐにここまで呼んでくる。」
「転移魔法を使えるのかい?、流石はリョウだね、それじゃ仲間達を呼んできてもらえるかい?、それまで待っているよ。」
「すぐに戻ってくる、フランそれまで護衛は任せたぞ?」
《ああ、リョウ殿はリナ達を呼んできてくれ、こんな機会は滅多に無いからな。》
「そんじゃ行ってくるな!、転移、マイルーム!」
俺は今日3度目となる転移独特の不思議な感覚を味わいながら、学園で使っている俺達の部屋へと戻ってくる。
マドルによって料理が粗方完成していた所に戻ってきたようだったが、残念ながら部屋にはマドルしかいなかった。
『あら、旦那様、これからリンクイヤーで連絡しようと思っていた所でした、フランは一緒ではないのですか?』
「せっかく料理を作ってもらったところ悪いんだが、ちょっと町を歩いてたら、他国の王子を助けることになってな、食事に呼ばれたから、みんな一緒に行こうと思って呼びに来たんだ、せっかく料理を作ってくれたのに済まないな。」
『それは素晴らしい機会です!、それなら、この料理は明日の夕飯にしましょうか、幸いゲートに入れておけば作りたてのまま置いておけますし。』
そういって作った料理を次々とゲートに入れていく。
こういう時にゲートがあって良かったと思いながら、リンクイヤーでハーレムメンバー達の現在地を探していく。
幸い皆別校舎にいるようなので、早速連絡をする。
[みんな、とある事情で他国の王子の元でご飯を食べることになった、これから皆で向かうから体育館に集まっていてくれ。]
[他国の王子様!?、リョウの為にも失礼がないようにするね!]
[やったー、そんな機会は滅多にないよー!]
[わかった、楽しみ!]
「私の王子様はリョウ様だけです!」
[相変わらずとんでもないことをサラッとやるわよね、リョウって、とりあえず分かったわ。]
[流石はマスターだな、他国の王子か、どんな人物か楽しみだな。]
[りょーかい!、体育館で待ってる!]
いつも通りに暴走しているのが1人いたのだが、とりあえず気にしないことにした。
ちょっと連れてくのに不安はあったのだが。
ハーレムメンバー達が体育館へ移動したのを確認した所で、マドルと共に体育館へと向かう。
もちろん、転移魔法で。
「転移、別、体育館!」
再び転移独特の不思議な感覚を味わい、体育館へと移動してきた俺とマドル。
マドルは見てはいたが、初めての経験に驚いてはいたが、そこは俺への信頼があったようで、特に問題なく転移できた。
突然現れた俺達に驚きを浮かべるハーレムメンバーと金クラスのメンバー達。
とりあえず、ハーレムメンバー達には説明が必要だと考え、金クラスのメンバー達には後日教えることにした。
「突然で驚いたか?、実は今日転移魔法を教わってな、それで移動してきた、まあそれは時間のある時に教えるとして、これから転移魔法で王子の元へ向かう、準備は出来てるか?」
俺の言葉に、主に転移魔法について全員驚いていたが、後日教えるという言葉でとりあえず置いておく事にしたようで、準備万端なようだ。
「それじゃ行くぞ?、転移、フラン!」
俺とハーレムメンバー全員の魔力に俺の魔力を同調させて、フランの元へ飛ぶ。
飛ぶ場所の明確なイメージが無いと駄目な転移魔法だが、魔方陣のように目印があれば問題ないため、今回はフランをその目印とした。
これには、何回か使った転移魔法による慣れもある。
更に使いやすくなった転移魔法、独特の感覚に包まれ、気づくと先程アベルやフラン達と別れた場所へと到着する。
初転移を経験したハーレムメンバー達は不思議な感覚を楽しんでくれたようで、テンションが上がっていた。
一方でアベルは、俺が連れてきたのが全員女の子であり、それも容姿が整っていることに驚いていた。
鎧を来た人達にいたっては、隊長以外はそれぞれ誰かしらに目を奪われているようだった。
いつまでもそうしていて、血迷って口説いたりされても困るので、俺はアベルに話しかけることにした。
「アベル、待たせて悪かった、自己紹介は後でするから、とりあえず滞在先に向かわないか?」
「あ、ああ、僕も王族だから女性を多く連れる事に思うところはないけど、それにしてもリョウの連れる女性はみんな魅力的だね。」
「ああ、全員俺には勿体ないくらいに魅力的な女の子達だよ。」
俺の言葉に顔を紅く染めるハーレムメンバー達、その様子にアベルは微笑ましそうに、鎧を着た人達は隊長は俺の苦労を想像したのか、感心したように、他の人達には羨ましく、そして妬ましいといった視線が送られる。
俺はとりあえずその視線を見なかった事にしてアベルの指示を待つ。
「さあ、リョウの言うとおりだ、リョウも戻ってきたことだし、早く屋敷に戻ろう。」
「ほら、みんなも行くぞ?」
俺の言葉にようやく我を取り戻したのか、俺に着いてくる。
そうしてそのまま貴族区を少し進むと、周りの建物と比べても明らかに気品のある、そして大きな屋敷が建っていて、そこへアベルが俺たちを招く。
「ようこそ、僕の別荘へ!」
本来は使用人とかが言うであろう言葉を、王子自身がやるという不思議な状況ながらも、自分の別荘を自慢するかのような表情をアベルが浮かべていたため、そういうものだろうと納得することにして、俺達はアベルの別荘へと入っていく。
次回更新は7/17です。
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