19.Epilogue.
天使クラディルと戦いを終えた、翌日。
ウルとアリシアは晴天の下、真新しい墓の前に立っていた。
ミランダと娘の二人を埋葬したばかりで、アリシアは涙を流している。町の人たちも、それぞれ花を手にして二人の冥福を祈ってくれた。
もうこの町に天使はいない。十字星騎士団の残りもいつの間にか消えていた。
教会の人間とは関わりたくなかったが、昔から町にいるアリシアも知っているこの地元の人だったこともあり、埋葬の手続きを頼んだのだ。
町の人たちはアリシアをとても心配してくれた。次々にアリシアに声をかけ、元気づけてくれた。その中には商店でウルと会話をした女性もいた。
これからどうするのかと尋ねられたアリシアは、ウルと一緒に町を離れると言い、驚く人たちにウルは遠い親戚ですと心苦しいが嘘をついた。
一応は信じてくれた人たちが、家は綺麗にしておくからいつでも戻ってくるようにと言ってくれたのがアリシアは嬉しかった。この町が故郷だと思えたから。
ウルは町の人たちからアリシアを頼むと言われ、もちろんと頷き返事を返した。
そして、弔いにきてくれた人たちが帰り、ウルとアリシアだけが残される。
二人ともこのまますぐに旅立てる出で立ちで、荷物も地面へと置いてある。昨日の今日で町を出るのは若干躊躇われたが、消えた十字星騎士団がどう動くかもわからないので早めに行動することにしたのだ。
アリシアは改めて、墓の前で目を瞑る。
なにを思っているのかはわからない。
ウルはただ、声をかけずアリシアを待ち続けた。
しばらくしてアリシアがゆっくりと立ち上がる。
「もう、いいのか?」
「はい。お母さんとお姉ちゃんに、ちゃんといってきますと言いましたから」
はじめてアリシアから、二人にことを家族とひとまとめにするのではなく、お母さん、お姉ちゃんと聞いた。
もしかすると、アリシアの中でなにかしらの変化が起きたのかもしれない。ただ、本人たちの生前にそう言うことができなかったのは、残念だとウルは思った。
多くの花に囲まれた墓を見て、ウルは思う。
みんなが死を悲しんでくれていた、涙を流してくれていた。死んでしまうには早すぎたと口々にみんなが言い、ウルもまたそう感じた。生きていれば、アリシアとの関係も変わったかもしれない。
そう思うと悔いだけが残る。もっとなにかできなかったのかと考えてしまう。だが、もうそれは後の祭りだ。ウルは思考を切り替えるように首を横へ振る。
「そっか……。もう少しここにいようか?」
「いいえ。そうしたら、いつまでもここに留まってしまうと思います。だから、もういいんです」
そう目を伏せたアリシアにウルは手を差し出す。
アリシアはゆっくりとウルの手を握った。ウルはアリシアを守ると決意を改め、アリシアの手を握り返した。
二人は手を繋ぎ、荷物を持つ。
アリシアはもう一度墓を振り返り、
「いってきます。お母さん、お姉ちゃん」
最後の挨拶をした。
「さあアリシア、目指すは王都だ。そう遠くないけど、たくさん歩くぞ?」
「はいっ!」
こうして若き魔王と幼い勇者の末裔は、手を繋いで母親探しのため旅立ったのだった。




