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第7話 友達もどき

 


 王子が校内に消えたあとも、私の苦難は終わらない。ジールの追求が物凄くしつこくて、あしらうのが大変なんだ。


「なぁ、おい。さっきのどういうことだ」

「あ、ジールお兄様。入学式ってどこで行いますの?」

「ンなもん、この際どーでもいい」


 いや、あしらえなかった。一切誤魔化されてくれない。どうでもいいってあなた……。

 第一王子のおかげで、周囲の視線はそそくさと逸らされていくから、さっきよりだいぶ歩きやすくなったけど、隣のジールがうるさいのなんのって──。


「ジール! よぉ!」

「あ"!?」


 救世主!

 誰だか知らないけど、後ろからジールを呼んだ、その声に意識と視線が一瞬逸れた。それを逃す私じゃない。


「あっ、エレナ!!」


 ジールの手をすり抜けて、そのまま一気に走り出した。


「お前、なんで今日来て」

「テメェ、邪魔すんじゃねーよふざけんな!」

「えっ、ちょ、今日いつにも増して攻撃的……!?」


 誰だか知らないけど、とばっちりごめん。

 破裂音みたいのが背後から聞こえたけど、うん。大丈夫だと勝手に結論付けて人混みに紛れた。




 ♯




 ドレスが重い。低いとはいえヒールが邪魔。そしてそして、エレナに体力などなかった。


「つ、疲れた……!」


 限界。

 ちょっと走っただけで、この息の切れよう。子供は底なしの体力なんじゃなかったの!?

 あぁ……。ジールって、めちゃくちゃないじめっ子かと思いきや、優しさの塊マンだったらしい。もうちょっと、言葉と行動には気をつけよう。またうっかり変なこと言って、質問攻めにされるのは勘弁。


「はぁー……。……さて」


 なんとか息を整えて、さらっと辺りを見回した。そんで。


「ここどこ?」


 後先考えない結果がこれです。

 入学式どころか、なんか学校裏っぽいとこにいる私。薄暗い。

 ちょこっと離れるだけのつもりだった。そんですぐジールのとこに帰るつもりだった。だけど、その帰り道がわからない。


「やっちまったぜ……」


 やっちまったぜってか、体力なくて大した距離行ってないはずなのに、迷う私の記憶力が終わってんなって感じだけど。誰もいないし、道聞くこともできない。


「あ、いましたわ! いましたわよ!」


 高い女の子の声だった。

 わぁ人だ!

 って喜んだのもつかの間。ぞろぞろ、列をなしてやってくる女の子たちの集団と、こちらをギッと睨みつけて歩いてくる、派手な身なりの先頭の子。なんか予想つく。それも嫌な予想。


「えぇ、えぇ。わたくし、存じておりましてよ、あなたのこと。エレナ・グレイフォード侯爵令嬢様」


 まっきまきなピンクの髪を、これみよがしに背中へ払って、ツンと顎を上げた先頭のその子。私のことを知ってるらしい。だけど。


「えっと……。誰? で、したかしらね?」


 ごめん。私はもちろん、エレナちゃんの記憶にもいらっしゃらない女の子。瞬間、ぐっとその綺麗な眉がつり上がって、彼女の顔が怒りに震えた。ごめんて。


「まぁぁぁ! なんて言い草!」

「ご自分が一番偉いおつもりなのかしら!」

「女王様気取って、なんて傲慢!」

「ここは学院、あなたが威張れる場所ではなくってよ!!」


 いや、あの、うん。ごめんね。謝るから、そんな凄い勢いで責めなくったってよくない!?てか、早く名前教えてよ!!


「ふ、ふん! いいわ! きっと、頭があまりよろしくないのでしょうね。わたくしの名はマルガレータ・テスラ。『冷徹伯爵』ハロルド・テスラの娘よ!」


 一転、自慢げに胸を張って叫んだマルガレータちゃんと、囃し立てる取り巻きたち。結構なドヤ顔してるところ申し訳ないのだけど、やっぱり記憶にない。


「……そう。覚えておきますわ」


 こう言うのが精一杯だったんだけど、それもまた気に入らなかったみたい。綺麗で可愛いレモン色の目が一気にまたつり上がってっちゃった。


「その態度ですわ! ロベルト殿下へのあの無礼な態度!! ご自分が特別だとでも思ってらっしゃるの!? 自惚れないでちょうだい!」

「そうですわ! マルガレータ様だって、まだきちんとお話できていらっしゃらないのに!」

「それに、腕までも掴むだなんて!」

「この方が話しているところ、お聞きになりまして? とても下品な話し方でしたわ! 本当に侯爵令嬢なのかしら!」


 すいませんね、下品で。残念ながら、ただのずぼらゲーマー女子大生なんですよ、中身。

 にしても、こっちの世界でもかよ、ロベルトクラスタ。ほんと、ちょっと過激派ファン多過ぎやしませんかね。やだわー。これだから関わりたくなかった。関わり持ったの私からだけど。


「少し、わからせて差し上げないといけないようですわね」


 待て。何する気だ子供のくせに!目が据わってるんですけど、じりじりじりじりこっち来ないで十年ほど早くないですかねこの展開!!


「おい」


 と、ここでまたしても救世主!!


「なにしてやがる」

「ジールお兄様!」


 ざっと、周りの女の子たちの顔色が変わった。取り繕うように髪をいじったり、視線をそらしたりしている彼女たちを一切無視して、私の方へ真っ直ぐと歩いてきて。


「これ以上俺に手間かけさせて何してぇんだよおまえはフザケんな入学式出んだろうが遅刻してぇのかよ」

「えっ。あ、あ、はいごめんなさい!」


 救世主に畳み掛けられて腕を取られて、ほぼ引きずられるようにその場から連れ出される。あれぇ。


「うわぁ…… 。ジールお前、学院内だけかと思いきや、家でもそんな口調なのか……」


 集団から抜け出した先には、背が高い男の子が呆れ顔で立ってた。ジールの、友達?あ、さっき声かけてきた人かな。真っ赤な髪がすごく目を引く。

 ジールよりは年上そうだけど、それでも少年と言えるくらいの男の子。なのに、その肩や制服から見える首筋にはがっちりした筋肉がついてる。


「女の子、しかも妹にそんな言い方なくねぇか」

「うるせぇ、テメェが話しかけてきたからエレナが脱走したんじゃねか」


 そんなペットみたいに言わないでくれます?

 無表情ぎみな顔も相まって、不機嫌なジールは非常に怖い。

 だけど、それをへらっと笑って無視した男の子は私の方を興味深そうに見遣った。あ、綺麗なエメラルドグリーンの目。


「こんにちは。俺、ベンジャミンっていいます……って、平民風情とは話したくないかねぇ」

「平民とか関係ねぇ話しかけんな近づくな」

「ひでぇ」


 ケラケラと明るく笑い飛ばすベンジャミンは、全くもって酷いとは思ってない様子。一切目を向けずに前を通り過ぎたジールのあとを、のんびりついてくる。

 止まってくれそうもないから、仕方なく首だけ後ろに回した。


「どうぞよろしくお願いいたしますわ、ベンジャミン様」


 そしたら、ぽかんとした顔された。足も止まった。

 あれ、なんか私やらかし、


「わっ、た!」


 ドンッと軽い衝撃が前方からあって見れば、同じく急に立ち止まったジールの背中に思いっきりぶつかってた。


「えぇー……」


 思わず漏れた文句の声は、途中で消えた。

 振り返ったジールまでもが、ひどく驚いた顔してる。あぁ、年相応の表情。可愛いな。


「エレナ、お前……」

「なんですの? さっきから、どうなさったのですか」


 途端、背後で笑い声が聞こえてびっくり。

 え、なに、ほんとなんなのちょっと大丈夫この人。


「はぁー。ジールも変わってるけど、まぁ、ふぅん……。さすが兄妹だな! あ、エレナ様、俺に『様』なんて必要ねぇですよ。気軽に呼んでください」


 そう?じゃあ、お言葉に甘えて。


「それでは、ベンジャミン。あたくしのことも、ただエレナと呼んでもよくってよ」

「お、やったね。どうぞよろしく、エレナ!」


 まさか、こんなにも早くお友達(?)ができるだなんて、思ってもみなかったわ。

 問題解決してないけど、とりあえずはやってけそう……か?


「おい」

「ごめん。いや、ごめん調子乗った。謝るからそんな怖ぇ目で睨むんじゃねぇ……!」


 ねぇ、ところで入学式は大丈夫?

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