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第5話 秘密

 


「ジールお兄様?」

「うぉ!? はっ? おまえなんでここにいんだ!」


 勝手にドアを開けて勝手に忍び込んだ、そこはジールの部屋。

 もうすでに学院に通ってるジールは、宿題でもやってたのだろう、机の上にはなんだかよくわからない模様だとか文字だとかがびっしり書かれた紙が乱雑に置かれてる。

 危うく、開きっぱなしで床に転がってた本を踏みそうになって、慌てて足を踏み替えた。


「しーっですわ! お兄様には秘密でしてよ? ねぇジールお兄様。また、あたくしに魔法を教えてくださいな」

「はぁ? だっておまえ、兄上に教わってたんじゃなかったのかよ」


 そうだけど。

 でも、結局お兄様って相手にしてくれないし、今日だって出かけちゃった。

 元々私も弟妹いるからわかるけど、やっぱ好きじゃないとずっと優しくなんてできないんだよね。表面上はそんな素振りできるけど、都合悪くなったりメンドくなると続かない。

 ちなみに、お兄様はあの日一日だけで終了した。

 柔らかい微笑みはただの仮面でした。はい。

 あれぇ。エレナちゃんってお兄様に好かれてたんじゃないの?なんで?


「俺は忙し──」

「これはこれは、エレナお嬢様」


 唐突に割り込んできたのは、カートを押して隣の部屋から来た男の人。柔らかそうな栗色の髪といい、黒目がちな目といい、もろ外国人のオンパレードだった今までの人たちより日本人っぽくて一瞬で親近感湧いた。


「どなた?」

「失礼いたしました。ジール坊っちゃまの執事のウィリアムと申します」

「坊っちゃまって言うんじゃね」

「あぁ! あなたがウィリアム!」

「左様にございます」


 言われてみれば確かに、セバスチャンと同じような服着てる。


「先日はどうもありがとう」

「とんでもございません。またいつでもご用をお申し付けください。さぁ、どうぞこちらへ」


 にっこり笑う、いい人そーっな感じ。


「おい。おいウィリアム。勝手に迎え入れてんじゃねーよ」


 あ。ごめんなさい。つい。

 なんだかんだ、こうしてみるとジールもちゃんと小学生らしい。

 いや、八歳だからそれはそうなんだけど、なんていうか、年頃のガキ──失礼。子供みたく、人の失敗からかったりしなかったから。

 なんとなく、ウィリアムにあしらわれてる感じが、やっぱり子供らしい。これはいい意味でね。


「おや。申し訳ありません。しかし、坊っちゃまが先ほどまでお嬢様からの──」

「わー! ふざっけんな! 言ってんじゃねぇよ!!」

「ジール坊っちゃま。学院に馴染むためとはいえ、その口調、社交の場でお出しになったら──」

「知ってるっつーの! つか、坊っちゃまって呼ぶなって!」

「失礼いたしました、ジール様。ところでお嬢様。チョコレートはお好きですか?」

「好き!」

「おい!」


 食い気味に返事したのがだめだったか。

 いやだって、ちょうどおやつの時間だし、お腹もいい具合に空いてきたんだもん。お腹鳴りそ、


 ──ぐうぅぅぅ。


「……」

「……」

「……ウィリアム」

「はい」

「チョコレートと、あとプディングかスコーンかなんか持ってこい」

「かしこまりました」


 ……めっちゃ恥ずかしい!

 うっわ、すごい響き渡ったんだけど!

 それよりなにより、ジールちょっとイケメンすぎない!?八歳で!この出来のよさ!


「片付けるから、ソファに座って待ってろ」

「はぁい」


 やっぱり、私の知らない八歳だわ。

 なんだこの大人子供。




 ♯




 結局、チョコレートと、パンプディングとかいうフレンチトーストみたなデザートまで食べさせてもらって、ジールの部屋をあとにした。

 あ、なんだかんだで、魔法教えてもらう約束も取り付けた。やったね。

 ……と。ここで曲がらないと。

 くねくねと、曲がりに曲がって複雑になってる廊下は表の廊下じゃない。

 エレナのお部屋って可愛くて、探検してたらたまたま見つけた隠し扉。どこに繋がってんのかなぁとか、好奇心で進んでったらなんだか知らないけどジールの部屋に続く廊下に出た。

 ちゃんとしたとこに着いたからよかったけど、この複雑さ。迷って出られなくなったら最悪。今思えば迂闊にもほどがあるぞ、過去の私。

 まぁ、お兄様に見つからないでジールの部屋に通える方法見つかったから、結果オーライだけど。


 秘密の通路から行くと、表からより少し時間かかる。ロザリーの目も盗んできたから静かに戻らないと。


「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ヒッ!」


 だわぁぁぁ!!

 ビックリしたぁ!!

 突然声かけないで誰ロザリーか!


「お嬢様。このような場所でおひとり、何をなさっているのです?」


 怖い怖い怖い。

 無表情なのはいつも通りなのに、なんだか知らないけどめっちゃ怖い!


「いいですか、お嬢様。ここは、旦那様とごく一部の者しか知らない秘密の抜け道です。奥様ですら、ご存知でないのですよ」


 そんな所、なんで子供が見つけられるんですかね。子供じゃなかったわ私。

 まずいな、なんかこの短期間で馴染みすぎてて気抜いたらフツーに六歳児やってそう……。

 じゃなくて。


「その上、屋敷中に張り巡らされているこの通路、侵入者があれば攻撃魔法が発動するようになっているのです」


 ……攻撃魔法?

 え、なにそれ怖い。そんなのなかったんだけど?


「なぜかはわかりませんが、運良く発動しなかったようです。今は私がおりますから大丈夫ですが、とにかく早く抜けましょう」


 って、問答無用で抱え上げられた。

 いくらエレナちゃんが軽くても、ロザリーみたく細くて小さな女の人が、猫でも運んでるがごとく持ち上げれる重さじゃないと思うんだけどな……。

 一部の人しか知らない秘密の通路。それ知ってるロザリーって、なんか実は凄い人?え?こんな我儘娘のメイドさんなんかでいていいの?

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