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第48話 違和感と



 ただ第三王子に向かって微笑んでみせて、「私はいつまでもあなたの婚約者であり続けますわ」とのたまっただけで、結局質問にははっきり答えずに温室を出てそのまま逃げるように迎えの馬車に飛び乗った。


 その時に、くしゃりと目元を歪ませたフレデリク王子はそっくりそのまま、同じく痛みを堪えるようにしていたエドワーズの表情になっていた。

 ああ、双子なんだなって。

 初めてそう思えたけど、あの時はそんな表情はしないで欲しかったなぁ。心が痛む。まあ、私が悪いんだけど。

 やっぱまずったかなあ。

 もっと気の利いた答えを返してあげれば、可愛い少年たちを傷つけることもなかったのかもしれない。あの子達よりも、一応、何年も長く生きていたというのに、情けないわぁ〜。

 でも、何よりもそんな返事しかできなかった理由に、第三王子があそこまでまっすぐ私──ごめん、エレナちゃんのことを好きだと言う理由がわからないというのもある。

 おそらく、私が入る前に何かあったんだろうけど、肝心の六歳以降の記憶には基本的に綺麗なドレスや宝石しかなくて、人が全くといっていいほど出てこない。

 エレナちゃん〜、頼むよ、もう少し人に興味持っといてくれ。


「──……様、お嬢様、エレナお嬢様」


 考え事にふけっていたせいか、ハッとしたときにはすでに馬車が停まっていて、外から御者さんに声をかけられていた。

 わあ申し訳ない!一体何回声をかけられてたんだろう!


「今参りますわ」


 努めて冷静に声を出して、慌てて馬車から飛び降りた。

 ごめん御者さん。そんなにびっくりした顔しないで。

 

 屋敷に入って、家令が私の帰りを告げる。

 いつもならそのタイミングでロザリーが来るんだけど、今日は誰も来ない。というか、シンとしてる。え、何でだろう。


「エレナお嬢様、本日は私がお部屋までご案内いたします」


 そう声をかけてきてくれたのは執事のセバスチャンだった。こうして話すのはお久しぶりですね。

 じゃなくて。


「何か、ありましたの?」


 普通じゃない様子に尋ねるけど、セバスチャンは変わらない笑顔で「ご心配されるようなことは、何もありませんよ」と言うのみ。いや、絶対あるでしょ。

 あからさまだけど、私に知らせるつもりはないみたい。一体なんなの?

 玄関から大きな階段を登っていくセバスチャンについて、私も仕方なしに続く。登りきったところで部屋への廊下を曲がった時。


「エレナ、帰ったのか」


 一階から声がかかった。

 見やればジールがいつもの無表情で見上げていて、だけどどこか何かの雰囲気が違う気がして。


「ジールお兄様?」

「ん。おかえり」


 いや、そういうことで呼んだんじゃないんだけど。

 て、あれ?なんで帽子を被ってるんだろう。ジールの方が早く家についてたとしても、帰って間もないはず。出かけるのかな?


「お出かけですの?」

「ああ。今日は帰らねえ」


 え、待って何それ。帰らないってどういう……。


「あっ、ジールお兄様!」


 だけど今度は振り返らずにそのまま出て行ってしまった。

 その日の夕食は私一人で、お父様もお母様もいなかった。




 #




 次の日の朝もジールはいなかった。

 ロザリーには「昨日は申し訳ありませんでした」と言われるばかりで、何を聞いても教えてくれないから諦めた。

 そうして、学校で予習をしているサイラスお兄様とは時間が違うから、一人で馬車に乗って学院へ行く。


「エレナ様」


 馬車から降りると、すぐにミザエラが駆け寄ってきて私のかばんを御者さんから受け取る。

 ほんと、そういうことしなくていいって言ってるのに、「私が他のご令嬢にやらせたくないんです!」と聞いてくれない。私はあなたとお友達になりたいんだけどなぁ……。

 そのミザエラが、どことなく硬い表情をしている。


「ミザエラ? どうかいたしまして?」


 きょどきょどと、口を開けたり閉じたりしている。

 アリスさん曰く『取り巻き』のご令嬢が近づくのを、いつもキッと睨んで牽制しているのが今日はないからか、四方八方から声がかかって、挨拶を返すのが大変すぎる。途中からわけわかんなくなって、そこでやっとミザエラが防波堤になってくれて嵐がやむ。


「申し訳ありません、考え事をしてしまいました! すぐに邪魔な方々を一掃してまいりますから!」

「い、いえ、よろしくてよ! このままそばにいてちょうだい」


 一掃ってあなた。

 そう言えば、ちょっと頬を染めて笑いながら大人しくなってくれた。かわいいな……。


「あの、エレナ様、これはその、とても失礼な質問かもしれないのですが……」


 そうして、けれどまた硬い表情に戻ってモゴモゴと口を開いたミザエラは、先をなかなか続けようとしない。仕方がないので促してあげれば、ついに決心したようにオレンジ色の大きな目で私を見上げてきた。


「ジール様とサイラス様、何か問題があったのでしょうか?」

「え?」

「いえ! すみません、出すぎたことを申しました! 忘れてください!」


 思わず立ち止まった私に、ミザエラが慌てて首を横に振っている。

 泣きそうな顔がまた、ほっぺをぐにぐにしたくなるような衝動に駆られてなんとも……、じゃなくて。


「エレナ様、申し訳ありません! 上級学年の先輩方がとても戸惑っていらっしゃるご様子で、その原因がもしかしたら……と、いうだけでしたの。お気になさらないでくださいませ」

「ミザエラ? あの、少し落ち着いて? そしてそのついででよろしいから、私にも考える時間をくださらない? どういうことですの?」


 ミザエラが言ってることが頭に入ってこないし、もちろん理解もできない。

 上級生が戸惑ってて、それでなんでエレナちゃんのお兄様方が出てくるわけ?昨日のジールの様子や、それから家のいつもと違う様子に、今のミザエラの言葉。

 あんまりいい予感はしない。


「その……、ジール様が、サイラス様に決闘を申し込まれたと……」


 ……………………。


「なんて?」




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