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第47話 上っ面



 なぜか第三王子が温室から飛び出してきた。

 そこまではちょっと驚いたぐらいで、特におかしいことでもないかと思い直す。エドにしか会わなかったからついつい私たちだけの場所だと思っちゃったけど、実際誰が使っててもいいわけだし。


「エドワーズ兄上、いつまでおれのエレナと共にいるつもりか」


 いやいや、なんて言い草だあなた。

 エドもエドで、小さくごめんと謝ってるし。どうしてそこで謝るの、何も悪いことしてないでしょう。

 なんだか、エドは弟であるフレデリク王子に対してめちゃくちゃ下手に出るし、フレデリク王子はフレデリク王子で当たりが強いし。ついでに長兄は弟たちに対する態度が若干不気味だし。

 ほんと、なんなんだここの兄弟は。


「おれが直接呼びに行けぬからと頼んだというのに、いつまで待っても戻って来ぬし」

「そんなに時間立っていないと思うけど」

「もうすでに紅茶を二杯は飲み干したぞ」

「……」

「あの、」


 申し訳なさそうに眉を下げてしまったエドが、その上、瞳の光が消えてしまっているように見えて、思わず口を挟んだ。

 それにいち早く気がついたフレデリク王子が、不機嫌を極めてた顔に大きな笑顔を浮かべてこっち向いた。

 同じ顔でも、笑顔には性格が出るなぁ。


「ああ、このような場所で、立たせたままであったな。本当なら学院の屋上にあるサロンへ迎えたかったのだが、なにぶん行くまでに人目がつきすぎる。あの温室で我慢をしてくれ」

「はあ」


 温室で我慢って、どういうことだろう。

 というか、屋上にそんなものまであるのか。いや、きっとこの王子が一人で使ってるんだろうな。

 


「さあ参れ」


 人に命令することに慣れていらっしゃる、そんな王子様然とした態度で腰に手を回されて、必然的にくっついて歩くことになった。

 この子。まだ九歳だよね?何この紳士的なエスコート。

 そういえば、ジールもこのぐらいの歳のときにやたらと素晴らしい仕草の数々を披露してたな。どうしよう、この国の少年たちの将来が怖い。彼氏いない歴イコール年齢の女には立ち向かえる気がしない……。


「全く、忌々しい噂話のせいで、おれとエレナの時間が減ってしまった」


 言っているうちに、そんなに離れていなかった温室の前に立っていた。そのドアがすぐに誰かに開けられて──。

 って、エドじゃん!かばんも持たせっぱなしだし、なんでこんな使用人みたいなことを王子が率先してやってんの!?

 対する第三王子は、まるでそれが当然という態度だし。人様の家庭事情に首突っ込みたくはないけど、ちょっとおかしくないかい。


「ああ、茶でも飲みながらこれまで寂しい思いをさせたことの理由について語ろう。安心せよ、おれがエレナに愛想を尽かした訳では決してないからな」


 いえ、寂しい思いは特にしてませんが。

 席に座らされて、正面にフレデリク王子が。そしてエドはそのまま茶器が置いてあるカートへと向かった。

 紅茶まで淹れるんですか。ねえ本当にいいのこんなんで。


「あ、あたくしは紅茶は結構ですわ」

「そうか? おれは飲みたいから、兄上淹れてくれ」

「うん。エレナは、本当にいいの? 遠慮しないで?」


 遠慮じゃないけど。

 エドを見つめるけど、彼は何度か瞬きしたのちにちょっと微笑んで肩をすくめただけだった。

 エドまで何も言わないんじゃ、私はどうにもできない。


「……エレナ、噂話だが」


 ああ、はいはい。

 慌てて視線を元に戻した。その直前に、エドもまた手元の茶器に目を落とした。

 フレデリク王子は眉を顰めて何も言わずに、だけど私のことをじっと見つめていた。


「おれの気持ちに変化はない。変わらずエレナが好きだ。だが、エレナはどうなのか」


 え……。

 そんな、真剣に訊いちゃう?


「……噂話は、嘘ですわ」


 さすがに否定すれば、フレデリク王子は大仰に頷いてみせた。


「それはそうであろう。あのロベルト兄上を相手にしておるのに他の男にまで目移りするような女、一瞬で潰されるわ」


 怖、え、何それ怖…………。

 ちょっとまじであの腹黒王子に今後一切関わりたくないんだけど、何か方法ないですか。

 王子が噂話信じないでいてくれるのは、私としても家としても助かるところだけど、その理由がやばい。


「噂を信じる馬鹿者が多いからな、おれが今まで通りエレナに接していたらそのうちその馬鹿どもにおぬしが傷つけられるやもしれん。だから会いに行くのを控えたのだ」


 すごいちゃんとした説明がついてきてビビる。

 ちょっと、小学生のレベルとは思えないし、普段の第三王子とイメージ違いすぎるし、今日は脳内処理が追いつかないんですけど。


「噂の元は今調べさせている。が、いつ断てるとも知れぬものを待っていられるほどおれの気は長くない故、こうして連れて来させたわけだが」


 第三王子の目の前に紅茶を置いたエドを、じっと見上げるその目はとても鋭い。

 ロベルト王子との関係は疑わないけど、こっちはどうなんだってことか。

 確かに、二人きりになったり推しだからってやたらに仲良くしすぎたのかもしれないって今更ながらに気づく。その上、さっきの質問。

 どう答えようか。

 正直フレデリク王子自体に恋愛感情はない。よくてお友達くらい。関わりたいかどうかは別として。その上、私の推しはエド。

 そもそも私が知ってるゲームにフレデリクというキャラは存在しない。顔が同じ双子だっていなかった。エドは見た目も性格も知っている『エドワーズ』だけど、魔法の才で言ったらエレナちゃんと同じクラスにいる時点でお察しって感じ。いや、事実とはいえこんなこと思ってて申し訳ないなって感じてるけど。

 ここはゲームじゃなくて現実世界。

 つまり第三王子と侯爵令嬢の関係は、ただの親同士の目論見で政略的結婚。なぜだかフレデリクはエレナちゃんをめちゃくちゃに好きでいるみたいだけど、私にもエレナちゃんにもそんな気持ちはない。

 ──と、思う。少なくとも私にはない。そしてエレナちゃんの六歳以前の記憶に彼は登場して来ない。


 はあ……。さて、どうしたものか。



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