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第45話 泣きっ面に



 ダンスを一曲踊り終わったところで、私が音をあげた。

 不満そうなお顔をなさっているところ申し訳ないのですけど、フレデリク殿下。私の、いやエレナちゃんの体力的にダンスは一回が限度なんですよ。今後の為に覚えておいてくださいませ。あなたとまた踊るかは置いといて。


「まだ、周囲に十分な披露をしていないというに」


 披露って何ですか。多分もう十分だと思います。

 これ見よがしにホールのど真ん中で踊る片や第三王子と片や金持ち侯爵令嬢に周りの人たちが注目しないはずがない。

 むしろ場所を譲ってくれちゃったからね。遠巻きに円を作って見物されてたもん、この私の拙いダンスを。

 恥ずかしいことこの上ない。


「来てくれたのか、僕の天使ちゃん」


 ざわっと、一段と大きくなった騒ぎと黄色い歓声、とふざけた呼び名。


「兄上!」

「……ごきげんよう、ロベルト様」


 明らかに喜色と緊張を声に含ませたフレデリクにあーあ、という気持ちを漏らさないようにするのに必死だった。

 やっぱり第一王子か。いや、わかってたけど、振り向く前から。

 お辞儀をして、それからおやと思う。

 キラキラと光る上品な靴。第三王子よりも大きなそれは明らかに腹黒王子のものだけど、その後ろにあるフレデリク殿下と同じくらいの大きさの靴が視界に入った。


「今日は花の妖精となって僕たちの前に舞い降りてくれたのかな、愛らしいお姫様。こんなにも美しいものを目にしてしまったら、君がまた空へ帰ってしまった時に全てのものから色が抜け落ちてしまいそうだよ」


 色が抜け落ちるって……。

 今日の格好、そんなに派手な色かしら。

 幾重にもドレープを重ねたふんわりとしたドレスは、宝石こそふんだんに散りばめられているものの、白から淡いピンクになってだんだん濃くなっていく、今までのエレナちゃんからしたら割とシンプルなものだ。

 なおも歯の浮くようなセリフが続いてるから、もうそろそろ顔あげてもいいかな。

 失礼だとか何とか後から言われないように、そっと静かに顔を上げて、さっきから気になっていた靴の持ち主に目を向けた。そしてそこには、緊張と戸惑いの視線を遠慮がちに横へと投げている──。


「エド! ……ワーズ殿下」


 慌てて言い直した。あっぶな。

 だけど、私の声にロベルト殿下の流れるような口上がピタリと止んで、さらに隣から驚きの視線がビシバシ飛ばされた。わあ〜、失敗したぁ……。


「こんばんは、エレナ」


 ふんわりと、それでも笑顔を向けてくれたエドに、私の心臓が撃ち抜かれた。

 はぁ〜!なにその天使な笑顔!ふんわり綿菓子も目じゃないくらい、はにかんでちょっと目元染め上げて、その上硬かった表情まで私を見て解いてくれるとか、私をどうしたいの……!


「…………エドワーズ兄上」


 不機嫌そうな声に、現実へと引き戻された。

 発生源は私の隣、エドと同じ顔を盛大にぶすっとさせてる第三王子様。

 あーっと、その……どうしよう?


「あ、フレデリク、その、久しぶりだね」

「おれのエレナと、いつの間に仲良くなったんです?」


 勘違いではなく、『おれの』という部分を強調して、さらにはその小さな背中で私のことを彼から隠してしまった。

 何となく察してたけど、ここも兄弟仲問題ありなのか……。

 ちょっとそこのお兄様。笑ってないでどうにかしてくれません、この状況。私のこと褒めちぎった口で面白がらないで。

 ジールとお兄様との関係を悪くさせた(?)フレデリク殿下を私が責められる立場になかった。

 ……いや、私が悪いのか?私なにもしてないよね?


「いや、えっと、その」


 気まずそうに、申し訳なさそうに、視線を彷徨わせるエドの様子は、ますますフレデリク殿下を不機嫌にさせた。

 腹黒王子はついに肩まで震わせて笑いをこらえはじめた。ねえ、絶対わかってて連れて来たんでしょう、嫌がるエドを。いい加減にしてくんないかな。


「フレデリク。エドワーズは天使ちゃんと同じクラスなんだ、接点ぐらいあるだろう」

「兄上、しかし!」

「弟の婚約者と仲良くするのがそんなに悪いことか? 将来義妹になるのに?」

「それはっ、…………。婚約者。義妹」


 何かを抗議しかけたフレデリク殿下が、不意にピタリと口を閉じ、そのまま思案すること数秒。


「……仕方あるまい! おれの嫁と良い関係を築いてくれ、エドワーズ兄上!」


 手のひら返しがひどかった。

 さっきまでの不機嫌顔は何処へやら、盛大に照れを入れて盛大に手順を飛ばしたワードを交えて胸を張り出した。ちょっと、ねえまだ私あなたの嫁じゃないから。


「義兄としてだがな! それ以上は許さん」

「わ、わ、わかってる、よ……」


 ああ〜……。

 視線を完全に下に向けてしまったエドが、かわいそうで見ていられない。だけどここでエドに声をかけるなんてこと、せっかく第一王子がうまいこと言いくるめた後にできない。元はと言えばこの腹黒がいけないのだけど。

 今も、なにがそんなにおかしいのか、私と目があった途端口元を崩しやがった。すぐに真顔に戻ったけど。なんなんだ、なにがしたいんだこいつ。顔がイケメンじゃなかったら一発で嫌いになってたぞ。


 ああ、早く終わらないかなこの舞踏会。

 私はなんで呼ばれたんだろう……。



 後日、学院に行くと、私が三人の王子に色目を使う尻軽女として噂が広められていた。嘘だろちょっと待て。



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