第40話 バレた
ジールの部屋。春らしからぬ冷たい空気。恐ろしい視線。
「……」
「あの、その、申し訳ありませんでした」
「…………」
やばいやばいやばい。
確かにソッコーでバレるとか私おいって感じだけど、それ以上にもうジールの目が怖くて見れない。悪魔なんて目じゃないくらい。闇の精霊で怯えてた私に、ぜひともこのジールをぶつけてやりたい。
《そんなに怒ること? あの王子サマも言わないって言ってるんだから、大丈夫じゃない?》
おっまえは出てくんな!誰のせいでバレたと思ってんの!?あんたが大人しくしててくれれば、私もジールに怒られることなんてなかったんだから!
「……はぁー」
わぁぁ。ため息つかれた。しかも長い。額を抑えたジールの沈黙が長い。
何言われんのかなぁ……!
「まあ、お前が隠しきれるとは思わなかったけどな。俺がもっとちゃんと犬っころ縛っとかなかったのも悪い」
すいません、言われたこともできない奴で。
「バレたのが第二王子の方だったのが不幸中の幸いだな。第三の方だったらマジで最悪だ」
「あぁ……」
「あぁ、じゃねえよわかってんのか? 闇の精霊囲ってることがバレたら、下手すりゃ火刑だぞ」
「えっ」
待って、えっ?なにそれ、え、火刑って、火にかけられて殺されちゃうってこと?嘘でしょ?
「まあ、そうなったら俺も一緒だから」
だから!?だからなんだって言うの!?
ヤダよそんな死に方!絶対痛いし熱いし!
この国ちょっと大丈夫!?ヒロインの殺人未遂で死刑とか、闇の精霊と契約しても死刑とか、ちょっとバンバン殺しすぎじゃない!?誰かゲーム制作スタッフ呼んでこい!
「え、もうガチでほんと勝手に出てこないで!? お願いだから! 私が火であぶられたらアンタだって一緒の運命なんだからね!? 一心同体なの! わかる!?」
《あ……、いや、うん。ごめんね。善処する。だけど君ーー》
「善処?」
《気をつけます》
善処とかふざけないでほしい。こいつはいっときの解放のために命を危険に晒す気か。バカなの?
《えっと、うん、それよりね?》
「なに?」
「お嬢様……」
ウィリアムどうしたの声震えてない?そんな絶望的な目で見てきて。
「お嬢様。いえ、ジール様をお慕いしてらっしゃるのはよーっくわかります。しかし、しかしですね、お言葉遣いまで真似なさるのはよろしくありません。これは非常に悪い例ですよ、エレナお嬢様」
言われてようやく気付いた。やば。最近気が緩みすぎてたから……。いや、つい。
「俺のせいにすんじゃねぇよ。こいつ元々こんなだろ」
嫌そうに眉寄せるのやめない?え、ごめんね?てか、元々ってどういうこと?なんでバレてんだ?
「どこで学んできたのか知らねーけど」
「確実にジール坊っちゃまからかと」
「はぁ? 違ぇだろーが」
そうね、違いますね。違うけど口出すと面倒だから黙っとく。
ふと、遠くで事の成り行きを伺ってたロザリーを思い出した。
伺えばいつもの無表情だけどなんとなくがっつり見られてる気がする。
そばに寄って行って、メイド服のエプロンを握った。もちろん、シワにならないように気をつけて。
「お嬢様? どうなさいました?」
「驚かせてしまってごめんなさい、ロザリー。これからは気をつけますわ」
って謝れば、なんとなく複雑な顔された。
え、またなんか私変だった?もうお嬢様がわからなくなってきた。エレナちゃんになってもう五年になろうってのに。
……早くね。
もうそんなになる?あれ。気づかなかった。
「……お嬢様のお気を緩められるのなら、……。いえ、そうですね。どうか、外ではお気をつけを。特に旦那様の御前では」
言いかけた言葉はなにを言ってくれようとしたんだろう。結局注意されちゃったから、本気で気をつけるけど。
「ジール坊っちゃまもですよ。最近、慣れすぎてだだ漏れですから」
そんで、ウィリアムとジールの争論はまだ終わってなかったらしい。
「……うるせぇ坊っちゃまヤメロ」
機嫌を損ねてしまったらしい。それでもなにか思うところはあるのか、それだけ言ってふいとそっぽを向いてしまった。
ジールは最初に思ってたより感情の起伏が激しい。無表情だったから、あんまり感情ないんだと思ってたけど。
「そういえば、なぜジールお兄様はそのような話し方をなさってるんですの?」
お兄様やミザエラに対してはちゃんとした話し方(?)してたから、生まれつきってわけじゃないでしょ。いや、まあこの家に育って生まれつきだったら、ジールだけ育ち疑われそうだけど。
「…………」
「学院に通われている平民の方々と仲良くお友達になりたいからと、入る前から覚える努力をなさっていたんですよ」
「ペラッペラ喋ってんじゃねーよ!」
「その成果がこの乱暴さですよ、まったく」
呆れたように、面白がってるように、ウィリアムは肩をすくめて顔面目がけて飛んできた羽根ペンを指先でキャッチした。
ねえ危ないから物投げんのやめなよジール。ウィリアムじゃなかったら大惨事だよ。
それにしても、ジールがそんなこと考えてたとは。てっきりベンジャミンとかのことどうでもいいのかと思ってた。
なかなか私はジールのことをわかってないらしい。
「でも、ジールは私のことよくわかってるよねぇ……」
なんでだ。
《少年が小さな姫君のことを好きだからじゃない》
「あんたも人間のことよくわかってるよね」
《……ずっと昔にニンゲンの使い魔だったから。とてもずる賢く、冷酷で自分勝手な男だった》
呪いだの食べるだの言ってるあんたが言うか。
そう返してやろうかと思ったけど、金色の目が懐かしそうに細められてたからやめた。
「……私もジールのこと、大好きなんだけどな」
代わりにそう言えば、ぽんと背中を尻尾で叩かれた。
もふもふ。




