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第37話 契約

 

 闇の精霊を呼び出すからと、ジールは家に帰り着いてすぐにウィリアムを呼びつけた。私も着替えもそこそこに連れ去られる。

 ジャケットだけじゃなくて制服も着替えたかったな……。

 ウィリアムに手を引かれて、先頭を行くジールについて屋敷の奥へ奥へと入っていく。

 こんな所あったのかってくらい、グネグネと曲がって見たことない場所に連れてかれてる。今手を離されたら、確実にのたれ死ぬなここで。


「なぜロザリーは一緒に来ないの?」


 手を引いてくれたのはウィリアムで、ロザリーは部屋の出入り口でただ頭を下げて見送ってきただけだったのだ。

 前を見つめるウィリアムは、私の質問にちょっと苦笑したみたい。

 もはやこの距離ですらほとんど表情も見えないほどの暗さだ。思わず握る手に力を込めた。


「闇の精霊と相性最悪なんだよ」


 聞いてないと思ってたのにジールが割り込んできた。


「闇の魔法使うときにあいついると、真っ先にあいつが殺される」

「えっ」


 待て今非常に衝撃的な問題発言聞こえた気がしたんだけど。

 えっ精霊って殺しにくるの!?

 今から何呼ぶって言ったっけ!?


「ジール様」

「ンだよ。本当のことだし、ロザリーはこいつのメイドなんだから問題ねーだろ」

「いえ、そうではなく。お嬢様が怯えてらっしゃいます」

「ハァ?」


 心底呆れたって感じの「ハァ?」が来ました。待って。


「俺がいんのにびびってんじゃねーよ馬鹿なのか」

「はー……」


 ウィリアムが、駄目だこいつって心の声が聞こえてきそうなため息をついた。

 幸い、ガコッと壁の何かを開けることに集中してたジールには聞こえなかったみたいだったけど。


「おー。やっぱここにあったな魔法陣! 父上め、隠してたんだろうが残念だったな! この魔力を俺が感じ取れないと思ったか!」


 珍しくテンション上がってんのか、どっかの悪役みたいなセリフ吐いてる。

 ジールの背中で見えないけど、どうやら壁の向こうは部屋があるらしい。隠し扉ってやつ?


「何も感じ取れませんわ」

「ご安心ください。あのような非常人的感性はジール様のみがお持ちですから」

「聞こえてんだよ」


 だけどジールは興奮冷めやらぬ様子でそれ以上追求してこなかった。


「エレナ! そこの魔法陣の真ん中立っとけ」


 同じようなことを前も言われた気がする。

 ジールが部屋に入ったことで見えた魔法陣とやらは、やっぱりただの円だった。


「……大丈夫でしょうか」

「ジール坊っちゃまは本物の天才です。そこは信用していただいてもよろしいかと。それに、恥ずかしがっておっしゃりませんが、ジール坊っちゃまはお嬢様のことが大好きですから」


 ……突然のジールの間接的デレに、全私が死んだ。


「何してんだ早くしろ」

「は、はぁい」


 もう何を言われようが、たとえそれが完全無表情だろうが気にしない。

 こんだけ感情豊かな男の子が、よく鉄壁の無表情貫いてられるよね。表情筋どうなってんの。


「よし。じゃあ魔力解放しろ」

「…………え? ……えっと、え?」

『我が名はジール・グレイフォード。我が血と肉と、魂により』


 いや待って、呪文唱えはじめないで見て見て!私首かしげてるでしょ!

 魔力解放ってなんだ、やったことないやり方わかんないんだけど!?


「っしゃ、顕れよ呪いし愚かな闇の精霊!」


 軽快な呼びかけと共に、ブワッと湧き上がった真っ黒の煙が私を取り囲んだ。


「ジールお兄様!?」

「来るぞ。ハハッ、やっぱり俺は天才だった!」


 ねえちょっとなんかいっちゃってない!?そんなキャラだっけあなた!

 なんて言ってるうちに、煙はどんどん大きくなって、人型のようなものをとって、そんで──。


《ェケケケケッ! 子供ガフタリ、今日ハ御馳走ダ》


 ギラリと真っ赤な目が見下ろしてた。

 わぁ出た!何これ精霊!?精霊なの!?なんか言ってるー!

 大丈夫なのこれ!ねえちょっと!私たちのこと食べる気だよこいつ!


「言葉喋れるくらいそこそこ高位な精霊でよかったと言うべきかなんていうか」


 感心してる場合かっての!


《……生意気ナ小僧ダ。人間ハ女ガ美味イガ、オマエカラ食ッテヤロウ》

「やれるもんならな」

《ナニ?》


 いやに冷静なジールは、すでにさっきまでの興奮も興味も失せてるらしい。早くね。どうしちゃったのねえ。


「俺とてめーは契約したんだ。つまり、俺が死ねばてめーも死ぬんだよ」

《なん……、そ、そんなことこどもにできるわけが、》

「よく見ろよ。体も縮んで、なんだそれ、犬っころになってんだろ」

《あぁ!》


 ザワザワと聞き取りづらかった声が、ジールの言う通り、真っ黒な犬の形になって普通に聞き取れるようになった。

 犬って言っても、大きすぎて狼っぽいけど。


「エレナもそうだぜ。っつーか、エレナが主人だからな、感覚も共有されてる」

「えぇ!?」


 主人!?私が!?


 《バカな! ワタシは高位精霊なんだぞ! それが、子供の、しかも二重契約を結ばされたいと言うのかい!?》

「そうだっつってんだろ、理解力低いな。高位ってほんとかよ。自称か?」


 せせら嗤うジールの顔ね。完全に悪役だわ。エレナちゃんより悪役っぽい。


「二重契約?」

「抜け目ないですね、ジール様」


 いつのまにかそばに来てたウィリアムに、自然な動作で抱き上げられた。


「お疲れでしょう」


 え、いやいやいや、ただ立ってただけで疲れるわけ……、あれぇ。足が震えてるー。嘘でしょ?立ってただけで?エレナちゃん、え、大丈夫?やばくない?


「魔力を解放されて、ほとんどあの精霊に持って行かれたようです。大部分はジール様の魔力で呼び出したようですが」

「魔力解放……、あたくし、いつしました?」

「おそらく、ジール様が勝手になさったのかと」


 なんだ、よかった。エレナちゃんの体力はまだちゃんとしてた。

 闇の精霊だとかいうわんちゃんと、言い合いという名の一方的な暴言を続けてるジールを見て、ウィリアムは息をついた。


「特定の闇の精霊を呼び出すばかりか、契約までしてしまうなんて。まったく、無茶をなさる」


 いろんな感情が入り混じってるんだろうけど、なんとなく言葉の端々から尊敬の念が感じ取れた。

 なんだかんだ言ってからかってたりするけど、ジールを敬って仕えてるんだ。それ考えると、ロザリーはほんとなんでエレナちゃんのそばにいるんだろう。

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