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第36話 知的好奇心

 


 正直、言葉も出なかった。


 ベンジャミンは普段の性格からは考えられないほど、静かに静かにカルロを睨み続けていた。

 かと思えば、だっと地面を蹴って飛び出すと、豪快に上から剣を振り下ろした。

 対してカルロ様はそれを危なげなく受けると、派手な音を立てて跳ね返し、一歩踏み込んだ。

 私はそれをぼんやり見てただけだけど、その瞬間、隣でジールが「勝負あったな」ってぼそりと言った。


「え?」


 どういうこと?

 って聞く前に、向けようとしてた顔を押し返されて、無理矢理視線を戻させられた。

 瞬間、カルロ様がベンジャミンに斬りかかり、それを避けられるとそのまま半身を翻して鋭く空をきった。


「そこまで!」


 団長さんの声に、ハッとした時にはすでにベンジャミンの首筋に鈍く光る剣が当てられていた。

 何がどうなったのかさっぱりわからない。かろうじてわかるのは、ベンジャミンよりもカルロ様の方が息を乱してることと、ベンジャミンが余裕そうな顔で負けたらしいってこと。


「……あーゆうのがいいのか」

「え?」

「なんでもねぇ、行くぞ」

「え、もうですの? カルロ様にご挨拶をしたいのだけれど……」


 途端に嫌そうな顔された。なぜこんなときばっかり表情筋働かせるのかな。


「ジールお兄様は、カルロ様がお嫌いなんですの?」


 唯一思いついた可能性。でも、なんの返事も返ってこなかったから、どうやら違うらしい。うーん、やっぱジール難しい。本格的にウィリアムに弟子入りしようかな。


「お、ジールじゃん! 早かったなー!」


 ジールに気がついたベンジャミンが、元気良く手を振ってきた。その持ってる剣を置いてからにして。隣のカルロ様が慌てて避難してるから。


「貴様のその底なしの体力はなんなんだ……」

「隊長が貧弱なんじゃないスか?」

「そんなわけがあるかっ」


 素知らぬ顔のベンジャミンは本気でそんなことを思ってんのか……。


「カルロ様ー! 素敵でしたわ! お強いんですのね!」


 驚いたようなワインレッドの瞳が、次いで柔らかく微笑んだ。


「光栄にございます」


 あぁ素敵。強いしかっこいいし、その上勢いがある。素敵すぎて声も出ない。今叫んだけど。


「三十五」


 え、なんの数字?最近のジールって発言がぼそぼそしすぎじゃない?聞こえないんですけど。

 そんなジールの手には、なにかの紙束が握られてた。強く掴んだのか、ちょっとぐしゃってなってる。


「ジールお兄様? 書類が潰れてしまいますわよ」


 言ってあげたのに無視された。

 なんだその態度。可愛くないんだけど。


「坊主、過保護は嫌われるだけだぞい」

「うっせーよおっさん」


 いつもよりなんだかイラついてるみたい。なんでだ。

 まぁ、ただ私のためにいろいろ調べてくれたみたいだし、ここはひとつ労ってあげないと可哀想かもしれない。


「ジールお兄様、お迎えに来てくださってありがとうございました」


 そう言ったら、何当然のこと言ってんだって目で見られたから、にこって笑いかけてみた。

 エレナちゃん特製愛想笑いはどうでしょうか。あ、お気に召しました?少しお顔が赤い気がする。やっぱ可愛いわ我が兄上様は。


「…………お前のこと、聞いてきた。学院で十の指には入るらしい実力の男に」


 唐突な話展開は照れ隠しかなぁ。

 後ろで団長さんがにやにやしながら遠ざかっていく。気を使ってくれたらしい。ジールにわからないようにぺこりと頭を下げた。ら、驚いたように目を見張られた。

 だれもかれも驚きやがって。そんなに意外か、エレナが感謝したりなんだりすることが。意外だろうなぁ。すいませんねうちのエレナちゃんが。


「同じクラスの男だ。俺には及ばないが、一応、学院的に能力は高いらしい」


 基準がジールじゃ、誰も及ばないんじゃない?

 ふと浮かんだのはフレデリクの言葉。マシューを格下呼ばわりしてたけど、やっぱり天才的にはそういう風に周りが見えてしまうのかな。


「とにかく、そいつ曰く、お前が相性のいい闇の精霊を使って呪いを行った悪魔を引きずり出して、それと契約してミザエラの解放を」

「あ、あのあの、少し待っていただけませんっ?」


 いろいろ話が飛びすぎてついていけないんだけど、まずさ。


「あたくしと、闇の精霊が、なんですって?」

「相棒」

「そこまでおっしゃってましたさっき!? もっと混乱したのですけれど、え、大丈夫ですの!?」

「俺は今はいたって冷静だ。ダメなのはお前の理解力」


 待って?


「というか、なぜ闇の精霊が出てくるんですの?」


 もはやジールは私を見てない。手を握られて、そっと引かれた。


「ニュールの娘が、自力で呪えるほどの魔力を持ってるわけはない。てことは、闇の精霊を使ったんだろう。ついでにお前が、前に光魔法を使おうとして闇の精霊を呼び出した。つーことは、相性いいからどうにかなんだろう。……的なことを奴に言われた」


 やけに棒読みなセリフだなと思ったら、例のクラスメイトに言われたのね。

 なんとなく悔しそうな感じってことは、ジールは気が付けなかったらしい。凄くない?その人。天才と肩並べるよ。自信持ってほしい。


「とりあえず、闇の精霊を呼び出す方向で準備する」


 って、いやいやいや、ちょっと待て、何言ってんのこの人は。だって、あんなに怖かったじゃん!怖い思いしたじゃん!ジールだって還すのに必死になってたじゃん!


「大丈夫だから、俺を信じろ」


 …………そっ、

 そんなこと言われて、言い返すなんて不可能の芸当じゃんか……。


「万全の対策して迎え撃てば、俺に扱えねぇ魔法も精霊もねぇってこと、証明してやる」


 キラッキラした目で、ねぇ、もしかして、あなたの知的好奇心と対抗心が入ってます?ミザエラがどうのとかではなく?


 空気読んでもらっといて申し訳ないけど、団長さん戻ってきてくれないかなぁ。

 もうこの際ベンジャミンでもいいからさ。 

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