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第35話 団長

 


 剣は支給されるんだけど、大抵の人は自分で作ったり買ったりするんだって。

 作るって何。


「さすがに本職がいるけど、自分の魔力を注入すんだ。そうすっと、自分以外には扱えない魔法剣ができる」


 すらっと抜いて見せてくれたのは、昨日の例の暗殺者が持ってた金属でできたナイフと全然違くて、半透明。だけど色もついてる。

 ベンジャミンの綺麗な翡翠の目が剣に透けてチャコールグレーに見えた。


「まぁ俺は金も充分な魔力もないから支給品でよかったんだけど、隊長が用意してくれたんだ。しかも、自分の魔力で補ってね」


 嬉しそうに話すベンジャミンは、本当にカルロ様を尊敬してるらしい。

 そんな風によくしてもらったら当然なのかもしれないけど。


「素敵な方ですのね」

「おう! ……あー、まぁ、そう、なんだけどさ」


 唐突に微妙な顔になったベンジャミンに首かしげた。


「エレナちゃんさ、もしかしなくとも隊長のこと、」

「え?」


 だけど、口を開く前に扉が開いて鎧を外したカルロ様が入ってきた。


「ベンジャミン、準備ができた。手合わせといこうか」


 ジールが迎えに来るまでの間、暇だろうからって演習場でカルロ様とベンジャミンの模擬試合を見せてくれるらしい。


「手に持っていらっしゃるの、それは本物ですの?」

「? はい」


 そんな不思議そうな顔しないで!えっ、模擬試合でしょ?本物?本物でやるの?


「……斬れない剣、とか?」


 そしたらハハッと軽快に笑われた。


「ベンジャミンが持っているのと同様、私のも魔法剣ですので、斬れ味も抜群ですよ」


 ベンジャミンのより細めの鞘から抜いたのは、薄紅の光を纏った、やっぱり半透明の剣だった。

 それぞれ瞳の色と一緒?でもベンジャミンのは……。

 あ、そういえば混ぜたって言ってたっけ。何それ、絵の具か。

 じゃなくて。


「本物の剣で、危なくないんですの!?」


 練習なのに!

 って必死なこっちのことを、一瞬呆気にとられたあとに、ふたりして笑いはじめた。

 えっ、ちょっと!


「あはは! エレナちゃん、可愛いな! あのジールがご執心なのも頷けるわ、こりゃ」


 なにー!?

 失礼じゃない?ねえ!

 心配してるってのに、カルロ様まで笑うし。こっちはすぐに抑えたけど、それが演技なことぐらいわかる。肩の震えは隠せない。


「大丈夫ですよ。我々もそれなりに鍛えておりますから。むしろ、模擬剣の方が危険ないくらいです」

「……そう、ですの?」


 にわかには信じらんない。

 てか、なんでそういう理論になるのかも理解できない。

 カチャン、と剣を鞘に戻したベンジャミンが、ぽんぽんと私の頭を撫でてくれた。そのまま自然な仕草で手を繋がれる。


「そーそー。こんなことで怪我する隊長なら、俺がすぐにその地位奪ってやるって」

「ほう? ならば、奪ってみるか?」

「げ。いや、今のはエレナちゃんを安心させるためであって……」

「外で待っている。ゆっくり来い」

「ちょっと、隊長!」


 叫び虚しく、生き生きとした笑みを浮かべて、カルロ様はさっさと出て行ってしまった。


「はー。ったく、隊長の冗談か本気かわかんねぇからタチ悪いってのー」

「あたくし、大人しく待ってられますわよ?」


 見たいは見たいけど。一応言ってみたら、だけど肩をすくめられた。


「いやいや、気にすんなって。久々に隊長に相手してもらえて、むしろエレナちゃんに感謝してんだぜ? 留年者は相手しないとか言うから」


 留年しなければいいのでは、なんていうブーメランは口が裂けても言えない。

 私の歩調に合わせてゆったりゆったり歩いてくれる優しい少年相手には、余計に。


「そーだ。俺らがやってる間は団長がそばにいてくれっから。放っぽり出したりしねぇから」

「団長?」

「そ。むさ苦しいけど、すっげー強くて面白いおっさんなんだぜ!」




 ♯




 熊かと思った。いや、ガチめに。冗談抜きで。

 ベンジャミンがグラウンドのような丸い場所に降りて行ったあと、ぽつんとひとり椅子に座ってたら突然現れた大きな影。

 私としたことが、思わずガン見してしまった。


「魔法騎士団団長を務めちょります。ベンジャミンの奴から事情は聞いてます、しっかり護衛に徹するけん、安心してくださぁな、お嬢」


 少しきつめの訛りに若干宮廷言葉が混じってて、さらに聞き取りづらい。だけど、満面の笑みを見せてくれる人に悪い人なんていない。


「それにしても、まぁ、あの坊ちゃんの妹君がいらっしゃるなんてなァ」

「お兄様をご存じですの? ……えっと、どちらを?」

「おっと、こりゃ失礼した。お二方いらっしゃるんだっけかな」


 がっはは、と豪快に笑う団長さんは、なぜだか実に好感が持てる。可愛いちょびひげのせいかもしれない。私のお父さんに似てるんだ、ここだけ。


「おチビさんの方じゃけん」

「おチビさ、」

「誰がチビだぶっとばすぞ」


 誰それって聞き返そうとしたら、ご本人が降臨された。え、待って私言ってない言ってないよまだ!


「おぉ! やっと我が騎士団に入る気になったか坊主!」

「うっるせーな、回収しに来たんだよそこのを! 帰るっつの速攻で!」


 てか、ジールはどっから湧いて出たの!?突然来て普通に話してるけどさ、え、歩いてきたとかじゃないよね。急に現れたよね!?


「むさ苦しいんだよ寄るな!」


 いつも以上に言葉遣いが荒いジールを前に、団長さんは一歩も引かない。どころか、ジールの肩にがっしりとたくましい腕を回して大口で笑った。


「帰すと思うか? んなわきゃァいかんば、ンだって、こんからあのジミー坊とチョコ坊が手合わせするんさ。ホレ、あすこにおる」


 チョコ坊?って、もしかしなくともカルロ様のこと?

 やっぱバレンタインって……。てゆか、バレンタインの概念この世界にあんの?


「興味ない」

「お嬢もめんこいしなァ」

「帰んぞエレナ!!」

「チョコ坊のこと、キラッキラした乙女の瞳で眺めちょるとこなんか、特に」

「……!?」


 乙女……!

 えっ、この人今私のこと乙女って言った!?待って言われ慣れてないそんな言葉!


「………………カンケーねぇ」

「言っちょる割には座るんさな」

「うるせー」


 どかっと隣に座ってきた。え、そこ団長さんが座ってたとこ……。


「おんもしろくなるなぁ!」


 何が?

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