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第33話 呪返し

 


 入学式のときにジールに言われた、先輩の塔には行くなってこと、今その理由がわかった。


 避けに避けられる。

 歩いてる遥か先まで道が出来てる。みんな私と目を合わさないようにしつつも、好奇心を隠しきれてない。

 ただ今は、目指す場所が遠いことに苛立ちと体力の限界がきていてそれどころじゃない。

 もはや走ることもできずにやっとの事でたどり着いた教室に、なんにも考えずに飛び込んだ。


「ジールお兄様! 遠いのですけれど!」


 クラス中の視線が集まった。

 いくら成長期とはいえ、年上の人たちに囲まれたジールは、やっぱり年相応に小さく見えた。ある意味目立って見つけやす、


「てめぇ今思ったこと面と向かって言ってみやがれ」

「ごめんなさい」


 なんでわかっちゃうのー!?


「なにしに来た。兄上のことだ、もう終わったんだろ。報告とかいいからさっさと自分とこに戻れ」


 もー冷たいー。

 絶対に認めないけど、ジールは拗ねてんだろうか。サイラスお兄様に任せようって言ったこと。


「おい」

「ごめんなさい」


 だからなんでバレる。

 って、そうじゃなくて!


「ジールお兄様、助けてください!」

「はぁ?」


 もう、なんでここはわからないのっ!

 メンドくさそうにドアまで来てくれたジールの腕に、すがりつくように自分の腕を絡めたら、目元が余計に険しくなった。

 だがしかし、今日ばかりは負けてられない。


「とにかく、あたくしと来てください!」

「すぐ授業はじまんだろ」

「ジールお兄様に授業って必要なんですの!?」

「お前だよ、必要なのは」

「………………いらっしゃって!」

「誤魔化すんじゃねぇよ」


 だって!

 確かにヤバイけど!


「そのようなことより、大変なんですもの!」

「兄上が呪返しでもしたか?」


 えっ。

 なんだかんだ廊下までついてきてくれたジールは、すでにゆったりと足を止めて、どうでもよさそうにこっちを見返してきた。


「なんだよ。兄上ならそれぐらいはするだろうし、呪返しだったら呪いじゃねぇから、兄上にもお前にも被害はねぇよ」


 え、なにそれ。それって、呪いだったらヤバいってこと?

 さっき聞こえたミザエラの声に似た悲鳴がまだ耳にこびりついてる。


「呪返しをされた方は、どうなるんですの?」

「自分を呪った奴の心配してんのかよ」


 呆れたように言うけど、いやだって。


「だって、ミ、ミザエラが……」

「ミザエラ……って、前に言ってたニュールの娘か? 」

「ニュールってやめてください」

「……はぁ。ニュールでも黒魔法使えたりすんだ、な……、……あ?」


 ふっと、口を閉ざしたジールは、そのままピタリと動きまで止めてしまった。


「聞いてます? それにミザエラはちゃんと魔法使えますわよ。……ジールお兄様?」

「……」


 何かを考え込んでるジールには、何を言っても通じない。最近ちょっとわかってきた。

 といっても、どうしていいかわからんけどな。

 そうやって廊下の真ん中でただ立ってたら、不意に影が落ちた。


「グレイフォード……、と、君は下級生かい?」


 異様に背の高くて、体格のいい男の人が私たちを見下ろしてた。名簿を持って、教師であることを示すローブを羽織ってる。

 肩の筋肉、すごいんでしょうね。分厚いローブの上からわかるんだから相当だと思う。


「もうすぐ授業がはじまりますよ」


 見た目に反して優しくそう声をかけられた。

 えー。顔はいかついのに、笑顔が柔らかいだけでこんなにも違うのか……。ジールも見習ってくれればいいのに。


「グレイフォードはまた、なにを考察してるんだい。聞こえてないや。全く」


 担任の先生かな。ジールの扱いを心得てるようで、仕方がないなぁ、と持ってた名簿を小脇に抱えた。そうしてジールに近づくと。


「よいしょ」

「えっ」


 腰のあたりを持ち上げて、まるで荷物でも運ぶかのように肩に担いだ。


「君も早く教室に戻りなさい」


 そうまでされても気がつかないジールは、集中力がすごいってよりも、なんかどっか欠けてるんじゃないかな……。協調性とか。




 ♯




 取り敢えず戻った教室に、ミザエラの姿はなかった。

 やっぱり、あの悲鳴って……。


 王子の絡み方も気にならないほど悩んで、もちろん授業内容も頭に入らなくて(いつもだけど)、そうしてやっと一日が終わった。


「今日はこれで終わりにする。各自、真っ直ぐに帰宅するように」


 ダグラス先生が荷物をまとめて出て行こうとしてる。もう一度ジールのとこに行こうと思ったら、バタン、と教室のドアが開いた。

 ダグラス先生の手はまだドアにかけられてない。つまり外から開けられたわけで。


「エレナちゃーん!」


 現れたのは、真っ赤な髪に負けないくらい満面の笑みの。


「ベンジャミン!?」

「久しぶりー! お? エレナちゃんダグラス先生なの? いいねー!」


 え、知り合いなの?


「ベンジャミン、進級はできそうなのか」

「いやあ、ダメっすね! またお願いします」

「お前というやつは……。これではいつ騎士団に入れるか……」


 痛みをこらえるようにこめかみを押さえたダグラス先生と、ケラケラと楽観的に笑うベンジャミンの差ね。


「そうだそうだ。エレナちゃん!」

「あっ、はい」


 パッとこっち向いたベンジャミンの手元、あれ、何持ってんの?細長くて黒い。

 ……なにそれ、剣?


「軍の演習場、一緒に行こうか!」

「はい?」

「ジールには了承とってるからさってか、ジールから頼まれたから」

「ベンジャミン、それは本当か」

「いや待ってくださいって先生、俺と何年付き合ってんすか。何もしませんって。したら俺がジールに殺られる……」


 ベンジャミンの代名詞とでもいうべき笑顔を全消しして遠い目をした。けど、それも一瞬で、すぐにニッと白い歯を見せてきた。


「てワケだからさ!」


 ……どういうワケ??

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