表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/68

第32話 笑顔

 


 あたくし呪われてるみたいなんですの。

 ジールお兄様には解呪できないんですって。

 サイラスお兄様は優秀だと、どの先生方も仰ってましたの。


 サイラスお兄様にまくし立てた。学校から帰ってくるのをずっと待ってて、部屋に入ってしまう前に飛び込んで行って。

 なにもかもほんとのことだけど、サイラスお兄様は快諾してくれた。


「エレナのことは僕が必ず助けてあげるからね」


 ふんわりいつも通りの笑顔で頭を撫でてくれた。


「明日、一緒に学院へ行ってそこの魔方陣を使って解呪しよう。そのほうが確実だからね」


 サイラスお兄様は私が暗殺されかけたことを聞いて、めちゃくちゃ心配してくれた。

 忙しかったのは男が言った通りだったようで、そのせいで危ない目にあったことを謝られた。

 誰が悪いわけでもないからサイラスお兄様は謝らないで。

 そう言ったら、エレナは優しい子だねってまた撫でてくれた。


 やっぱ、サイラスお兄様も優しいお兄さんなんだな。いろいろあるし、考え方とかは違うかもしれないけど、ジールと同じように私のことを、エレナちゃんのことを大切に思ってくれてる。

 どうにか、ふたりが対立しないで丸く収まる方法はないのかな。




 ♯




 次の日、いつもより早く登校すると、教室には行かずに入ったことのない上級生が使う塔に向かった。

 サイラスお兄様とか、高等科の先輩達が使う塔らしい。先生の研究室とかもあるらしく、私たちが使うものより大きかった。


「さあ、おいで」


 階段を上じゃなくて下に降りて、ひとつの地下室をサイラスお兄様が開けた。

 中は明るかったけど、地下ってのもあってなんかやだ……。


「それじゃあ、エレナは円の真ん中に立っておいで」

「はい」


 元から描かれてる大きな円の真ん中に立つ。

 お兄様は魔方陣使うって言ってたけど、これがそうなの?なんの模様もなくて、私が知ってるのと全然違う。


「ほんの数分で終わるからね。少し辛抱してくれ」


 そう言って、柔らかい声で呪文を紡ぎだした。それは聞いたことのない言葉だった。たぶん、ジールも先生もつかったことないとおもう。私が勉強不足とかではなく。

 魔法にもいろいろあるらしい。

 そんなこと思ってたら、ふいに床から黒い靄みたいのが立ち上ってきた。まるでそれは、以前私が出した闇の精霊みたいで。

 気づけばただの円だったはずの魔方陣に、黒く光る文字が浮かんでた。


「お、お兄様!」


 慌てて呼べば、呪文を唱えるのはそのままに、いつも通り微笑まれた。

 えっこれは大丈夫なの?大丈夫っていう微笑みなの?

 でもでも、なんかもやもや私の方きてるし、取り囲まれてるし、サイラスお兄様見えなくなってきてるし、あっあっ……!



『きゃあぁぁぁぁぁぁあぁぁああああ!!!!!!!!!!』



 …………ぇ、


「……レナ、エレナ、終わったよ」

「さ、サイラスお兄様、サイラスお兄様」

「うん、大丈夫だよ、どうしたの?」

「今、今なにか……」


 女の子の悲鳴みたいのが、聞こえた。


「あぁ、聞いたのかい」


 サイラスお兄様はそれでわかったみたいに、ただ笑って私の手を引いた。

 ドアを開けて先に通してから自分が部屋から出ると、カチャン、と鍵をかけた。


「これでよし」

「サイラスお兄様」

「あぁ、そうそう。悲鳴か、唸り声が聞こえたのだろう?」


 サイラスお兄様の表情は変わらない。たぶん、いつどんなときでもこんな表情をしてるんだ。ジールと同じように、これがサイラスお兄様のポーカーフェイス。


「大した実力もないのにエレナを呪った、愚かな女の子の声さ。人を呪わばなんとやら。僕が返してついでにプレゼントも付けたからね」


 きっと、面白いことになってるよ。


 ゾクリ、と背筋が凍った。

 サイラスお兄様の笑顔が、はじめて安心できない『なにか』に変わった気がした。

 この世の終わりのような悲鳴。

 あれを発したのは誰だったのか。

 サイラスお兄様の言うプレゼントって、なんのことだろうか。


 ──そのときふいに頭をよぎったのは、ミザエラの強い橙色の目だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ