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第31話 呪い

 


「おいエレナ、呪い解くぞ」


 いつもと逆、ジールが突然私の部屋に扉を蹴破るようにして入ってきた。あの、もうちょっと優しく開けて……

 ロザリーがジールを見て、ちょこっと眉を寄せた。あら珍しい。


「ジール坊ちゃま、いくら妹君とはいえ女性の部屋に断りなく入室なさるものではありませんよ」

「うるせぇ次その呼び方で俺を呼んだら」

「ジール坊っちゃま、女性の部屋にそう乱暴に入ってはいけませんよ」

「ウィリアム、てめぇ……」


 あとから来たウィリアムに、思わずあっと声を上げてしまった。


「ウィリアム!」

「お嬢様、先日は誠に申し訳ありませんでした。あのメイド達にはきつく言っておきました故」


 先日、なんだっけ。

 と思ったら、メイド達にはってとこで思い当たった。ウィリアムを探してて、うっかりメイドさんの話を立ち聞きしちゃったときのことを、多分ウィリアムは言ってるんだな。


「気にしてませんわ。あたくしが立ち聞きしてしまったのが悪いんですもの。彼女達にも謝っておいてくださいな」


 後ろのロザリーまでもがひどく肩身狭そうにしちゃってるから可哀想になってそう言った。

 だというのに、目の前のジールは「こいつらなに言っちゃってんだ」みたいな目で見てくる。


「なんの話してんだ。ンなことはいいんだよ、こっちのが重大だっての」


 いや、あの、私としたら、あなたの方がなんの話してんだってカンジなですけど。

 そこらへんの説明もないまま、ジールはつかつかと部屋に入ってくると、自分が持ってるのとウィリアムに持ってこさせた大量の本をテーブルに広げた。

 というか、私は昨日あんなことあったから学校休んだんだけど、ジールはどうしたの?

 って聞けば、顔も上げないでなにやら準備しながら、


「行ってられるかっつーの」


 あ、はい。そうですか。


「あの、ジールお兄様?」

「ンだよ」


 あの優しさは幻想か、はたまた私の妄想か。

 まぁとにかく元に戻ってしまったジールだけど、別に私もひるんでないから、いいのかな。ちょっと悲しいけど。はい。


「呪いって、なんのことですの?」

「お前、最近ついてねぇって言ったろ」


 言いましたね。ジールにはサクッと否定されましたけどね。


「あんときは確信が持てなかったが、昨日ので確実んなった。……お前、誰かに呪術かけられてんだろ。しかも厄介なやつ」


 呪術……?

 呪い……?

 え…………?


「俺はこっちは専門外だからな。いろいろ調べてたんだが……、」


 一瞬、作業の手を止めて、なにかをボソッと呟いた。


「……? なんですって?」

「なんでもねーよ」

「間に合ってよかった、とジール坊っちゃまは申しておりました」

「言ってんじゃねーふざっけんな!! あと、いいかげん坊っちゃまヤメロってんだよクソが!!」


 ジールによって思いっきり投げられた分厚い本は、ウィリアムの綺麗な顔にぶつかる前にその彼の手によってキャッチされることで阻まれた。危なっ。


「あーもー、だから、あれだ、呪いだよ」


 あ、あぁそうですね。思わぬデレに吹っ飛んでた。


「とりあえず、どうにかして術者を探さねーことにははじまんねぇからな。つっても、俺も、ウィリアムですらわかんねぇんだよなぁ」

「お役に立てず」

「まぁ、お前の魔法は期待してないから、大丈夫」


 え、うわぁ、なんだその言い方!いくらウィリアムがにこにこ優しいからってあんまりじゃないの!?

 ちらっと見上げれば、ちょうどウィリアムと目が合ってしまった。


「あぁ。お気になさらず。私がジール様ほど高度な魔法を使えないことは事実ですし」

「でも」

「あれがジール様ですから」


 仕方のないお人ですね、なんてのんびり言いながら紙の束とペンを前に差し出した。

 見れば、ジールがちょうどそれらを受け取ってるところだった。どうも文句が飛んでこないなって思ってたら、すでに集中真っ只中だったらしい。

 ほんとにやりはじめると全部シャットアウトなんだなぁ……。


「お嬢様、お茶でもお召し上がりますか?」


 いつの間にか、ロザリーが別の机と椅子にティーセットを用意してくれてた。

 うーん。

 ジールはもうなんか数式みたいのとか、複雑な模様みたいの書きはじめちゃって、たぶん絶対なに話しかけても返事してくれないしな。


「そう、いたしますわ」

「承知いたしました」


 私、数学とは一生わかりあえないんだ。




 ♯




 紅茶をもう五杯は飲み干して、クッキーも食べ尽くしちゃった頃、カタンとペンを置く音がした。

 隙間なくテーブルに散らばってた本は、すべて綺麗に脇に積まれ、文字や図で埋め尽くされた紙はちょうどウィリアムが回収し終わったとこだった。


「なるほどな……」


 そうして手元に残った一枚を眺め、ジールが関心したようなため息を吐いた。


「ジールお兄様? お分かりになったの?」

「いや、ダメだなこれは」


 えっ。


「俺は本当に、呪いだのなんだのは専門外だったらしい」


 え、あのごめんなさいちょっとわからないんだけど、なんでそんな満足そうなの……?


「お嬢様の呪いの方は」

「どうすっかなぁ……」


 キラキラした目で新たな発見を見つめる年相応なジールに、ふとひとつの可能性が浮かんだ。


「あたくしに、いいアイディアがありましてよ」


 ジール以外の全員が私に注目したところで、にっこり笑った。


「サイラスお兄様にお願いいたしましょう」


 ジールの顔が元の、いやそれ以上の無表情へと降下した。

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