第28話 権威
ジールがいないってだけで、別に日常が変わるわけじゃない。
まあつまり、私の危機も去ってはない。
ジールの成績出たってことは、私の成績もそろそろ出るってことで。
「本日は成績発表をする」
ダグラス先生が、教室に入ってきて早々に口火を切った。
うわあ!心の準備!
「クラストップはフレデリク王子」
しかもクラス中に知れ渡るタイプ!え、待ってよそんなことってある!?去年は違ったじゃん!そんなことしなかったじゃん!なにこの公開処刑!
「次席にマシュー・ロッド、ミザエラ・ホワイト」
ミザエラってクラストップ三に入るんだぁ知らなかった。とてもひとつ下とは思えないな……。
「続いて、進級者を発表する」
えっえっ待ってどういうことなの。いや、全員分の順位発表じゃなくてよかったけど、進級者って今ここで発表されるの?え、ここで名前呼ばれなかったら辛すぎて泣くどころの話じゃないんだけど。お父様に痛いこと言われたばっかなのに!
「──……以上だ」
おっと待ってくれ動揺して聞いてなかった私の名前呼ばれた?
「待ちたまえ! 今、エレナの名が呼ばれなかったが、なんの冗談か!」
あー呼ばれなかったー!?
嘘でしょ嘘でしょまた留年!?
「続いて留年者だが」
「おれを無視するとは!」
いいよちょっともう黙ってくれない?フレデリク様。先生の声が聞こえない。
「このクラスに……、留年?」
代わりに後ろから呟き。振り返らなくてもマシューくん、君のことはもう覚えた。そしてそんなこと口に出して言わないでください傷つく。
あぁここで名前は呼ばれたくなかった……
「今回はゼロだった」
「嘘でしょ本当に待ってください」
「なんだ、グレイフォード」
「いえ、あの、あ、あたくしは……?」
するとダグラス先生、ほんの少し眉をひそめて、ぱたんと名簿を閉じてしまった。
「グレイフォード、君は通常クラスに変遷される。手配は私がした。文句ならば私に──」
「ダグラス先生!」
勢いよく立ち上がって、みんなが目を丸くするのを尻目に駆け寄った。そうして、その意外と大きな骨ばった手をガッシリと両手で握る。
「ありがとうございます! このご恩は一生忘れませんわ! 何かあったらすぐおっしゃってください、全てのことをどうとでもいたしましてよ!」
「いや、私にそのようなものは」
「ダグラス先生ならわかってくだだると、信じてましたわ」
ああー!これで私の苦痛は取り除かれた!今年の授業、なにひとつとして覚えてないからね、私。よくもまあ進学できるなって感じ。
「納得いかん!」
「……え」
だがしかし。
異議を唱えるは我が婚約者(仮)。つかつかと詰め寄ってくると、ぐいっと手を引かれてダグラス先生から引き剥がされた。
「お、おれというものがいるというのに、おぬしは他の男とベタベタしおって……!」
「え。いやそん…………、いえ。申し訳ございませんでした」
えーちょっと手を握ったぐらい、しかも感謝の感情が高ぶったからだというのに、心狭いなぁ、と。
そんな単純なことじゃなかったらしい。ダグラス先生に小さく首を振られ、慌てて謝った。
「それに、クラスが変わるだと!? そのようなこと、誰の許可を得て決めた! おれは許可しておらぬぞ!」
「学院長であらせられる、フレデリク王子の母上様に」
「……!」
えっこの学院ってフレデリクのお母さんがやってるの!?あれ、ってことは王妃様!?
し、知らなかった……。
「……ふ、ふんっ! そのようなもの、おれが直接母上にお申し立てをして撤回してやる。そして、おぬしはクビだ!」
えっえー!
なんか一番権力ふりかざしてるんだけど!学院長の息子が!ちょっと困るやめてよそういう権力の使い方!私の安寧を奪うなぁ!
だがしかし、ダグラス先生は一切動じていないようにただフレデリクを見つめて言った。
「授業をはじめる。席に着きなさい」
はあい、と心の中で返事をして、フレデリクとは逆の方向へ戻る。ダグラス先生が配慮して席を離してくれたんだ。マジ感謝しかない。ガチで私はダグラス先生のためなら全ての権力を使うことも厭わない。
ふと視線を感じたのは気のせいか。
なんとなく巡らせた先では、ミザエラが食い入るよう私を見つめてた。
えぇ……。まだ根に持ってるのかな……。まぁ確かにフレデリク好きなミザエラには申し訳ないと思うんだけど、それこそ欲しいならあげたいぐらい。いや、物じゃないんだけどね。
ただ、ヒロインに取られちゃうからどうなんだろう。
ゲームの中のエレナちゃんも、今のミザエラのような目でヒロインを見てたんだろうか……。




