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第25話 きっかけ

 


 最近、ついてない気がする。


 教科書を忘れるとか、カバンを教室に置いて帰っちゃうとか。


「物忘れだろ」

「断じて認めませんわ、そんなこと」


 興味なさそうな顔して答えるジールに、思わず頬を膨らませた。齢十歳にして物忘れなんて、今からそんなんでどうするのよ。


「そ、それに今日の授業でしたって」

「あれも、お前の天邪鬼に結晶魔力が加わって、暴走しただけだ」


 魔力を増幅させる効果が私には相性最悪だったらしい。

 ダグラス先生やお兄様の魔法に、ちょうど私が浮かせた結晶の魔力が加わった。

 ふたりともそれに気づかずうまく調整できなかったらしい。その結果が、あのエレナ木の葉事件だ。

 そして、ガラスが割れる音。あれはジールが結晶を割った音だった。

 ジールはそのあと自ら飛び上がって私を捕まえ、降りるときの不快感と負担を私に与えないように、地面へ瞬間移動魔法を使った。


 あとから聞いた話じゃ、実は飛ぶことや瞬間移動は、普通の魔法使いじゃ魔力量の限界でできないらしい。

 結晶を壊すのだって、魔力を増幅させるアイテムなだけあって相当の魔力を使うらしいのだ。

 いや、どんな理論なのか、説明してもらえなかったし教えられてもわからないだろうけど。まぁ、それこそダグラス先生でもやっと割れるかってぐらいらしい。

 ましてやその全てをやってのけるなんて、自前の魔力だけじゃとてもじゃないけど保たない。ジールって一体。


 ──と、思ったけど、やっぱりジールも普通の男の子だった。


 私が泣き止んだ瞬間、ジールは気を失ってばったり倒れてしまった。抱きしめられてた私も巻き添え。

 しかも、どうしても離れないぐらい両腕がきつく巻きついてたために、私ごと医務室に運ばれた。

 そんなこんなで、ジールが目を覚ましたのはもう日が沈んで月が顔を出してからだった。

 授業は朝だったから、実に半日以上眠ってたわけなのだが、医療担当の先生に言わせれば、「こんな短時間で回復できるような魔力の消費量じゃない」らしい。


 ベッドに横たわったまま、起き上がる様子もなくぼんやりと天井を見つめてるあたり、ジールもさすがに疲れてるのか……。


「そういや、おまえ俺のこと呼び捨てで呼んでんのかよ。心の中で」

「んっ!?」


 マジかよ、とそのままの状態でぼやく兄の姿に慌てる。

 えっなんでバレてんだ!?じゃなくて、否定しとかないと!


「いーけどよ、別に」

「えっ、いやあの、な、なぜ……」

「俺が助けに行ったとき、『ジール』って呼んだろ」

「アッ」


 あーーーやってしまった!

 テンパっててそこまで頭回ってなかったー!


「しかもおまえ、地面に降りたあと、」

「な、なんでしょう……?」


 だけど、そこでピタリと言葉を切ると、ちらりと私を見てから「なんでもねぇ」と呟いた。

 えっなになに!?気になるんですけど!まだ他になにか口走ってた!?


「……あっ。そういえば、口走ってたといえば」

「なんの流れだよ。お前の脳内の会話出すんじゃねぇよ」

「あたくし、その、あのときの、泣いてたこと、誰にも指摘されませんでしたの」


 気遣われてんのかって思ったけど、どうもそうじゃないらしく、まるでまったく聞いてなかったみたいな感じで接してきた。

 いや、まぁ、そうはいっても、あれからずっと医務室にいた私は、様子見に来たダグラス先生にしか会ってないんだけど。


「あ? ……あー。まぁ、俺が結界張ったかんな」

「けっかい……?」

「防音魔法と顔見えないように濃霧の魔法」


 待って。

 相当の魔力使ったあとなのに、そんなことまで私のためにしてくれてたの?もしかして、すでに限界だったんじゃないの?思い返せば、そのときからちょっとジールの体重かかってた気がする。


「じ、ジールお兄様」

「んー」

「ありがとうございます」


 ちょっとウルっときちゃった。

 ぺこりと頭下げて、ちらりとジール見たら、ポカンとした顔でこっち見てた。無表情気味のそれが崩れる瞬間って、すごい謎の達成感があるんだけど、今回の場合はめっちゃ複雑。


「……あたくしが感謝を申し上げることが、そんなにも意外でしょうか」

「あー……」


 もー!エレナちゃぁん!

 感動が台無しなんですけどー!





 それから、医務の先生に回復魔法をかけてもらってからまた眠ってしまったジールを、迎えに来たウィリアムに抱えてもらって、いつもより遅く家路についた。



 これが、はじまりの第一とは、私にはわからなかった。

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