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第24話 予感

 


 今日、授業中に物を浮かせる魔法使ったときの話だ。


 中庭に出て、配られた宝石みたいな結晶を浮かばせる、という授業内容だった。その結晶は魔力が込められてて、私たちの足りない分を補ってくれるらしい。

 ただ、このクラスの人たちはそんなものを使ってやる生徒なんてごく少数しかいない。みんな自分の力で簡単にできちゃう。

 もちろんフレデリクはつまらなそーに指一本でひょいとやってのけた。

 ドヤ顔もするのも馬鹿らしいらしい。だけど、自分が終わったからって、絡んでくるのやめていただけませんか。私まだなんです。


 救いは、私みたく結晶使ってる子が二、三人いたことかな。よかった。

 幸運は続く。なんと、私も成功したのだ。それも、三センチとかじゃなくエレナの目線まで浮かばせたのだ。

 魔法学の先生であるダグラス先生は想像以上に褒めてくれた。


「グレイフォード、そうだ、よくできたな」


 無表情ながらそう言ってくれた。

 いや、本気で嬉しい。遠巻きに見てたクラスメイトたちの顔が驚きに染まったことよりも。


 しかし、幸運はそこまで。


 ふと、違和感があった。足元がおぼつかない。

 あれっと思った時には遅かった。

 ぐんっといきなり身体が引っ張られて、気づけば結晶が遥か下にあった。


「グレイフォード! なにを遊んでいる! 危険だ、早急に降りたまえ!」

「おお! さすがおれのエレナであるな!」


 ダグラス先生の叫び声が小さく聞こえた。フレデリクの聞き捨てならない感嘆の声が聞こえた。けど、そんなことに構ってられない。

 生まれて、そして生まれ変わって、はじめて知ってしまった。知りたくなかった。


 私はどうも、高所恐怖症らしい。


「……ッッ!! ぃっ、ぎゃあぁぁぁぁっ!!!!」


 エレナとしてどころか、私としたって死ぬほど恥ずかしい叫び声をあげた気がする。フレデリクも、私の女子力の「じょ」の字もなければお嬢様の「お」の字もない、悲鳴というか雄叫びに、溢れるんじゃないかってくらい目を見開いてた。

 まぁ、それのおかげで、私がふざけてるわけじゃなくどういうわけか本気で、無意識に、浮かんでるらしいことを理解してくれた先生が、下でなにやら呪文を唱えた。

 でも、そしたら逆に、またさらに上へと行ってしまった。それも、急速に。


「っやだ、いやいやいや、いやぁ…!!」


 だんだん、悲鳴をあげる余裕もなくなってくる。


 怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイ。


「エレナ!?」

「ッッ!?」


 ハッとして、ほんの少し余裕が生まれた。

 生まれた余裕で視界に入れたのは、驚愕の表情でこっちを見上げてるサイラスお兄様だった。


「お、にぃ……」

「待ってて、すぐに降ろしてあげるからねっ!」


 持ってた教科書が落ちるのも気にせず、走って私の真下に来た。両手を大きく広げて向けたお兄様は、ダグラス先生と同じ呪文を唱えた。

 途端、足を下に向けて浮かんでた私の身体が、ぐるんっと百八十度回った。


「ヒッ!?」

「な……っ」

「ええい、なにをやっておるのだお前たち!」


 フレデリクの苛立ちの声と、お兄様の焦って呪文を唱え直してるのが重なった。


「ちょっとま──、ぁっ、いやああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ヤな予感は見事的中した。

 私はまるで木の葉みたいにギュワンギュワン宙を舞った。もはや高所恐怖症なんて関係ない。これは、誰でも……、死ぬ。


 やばい、キモチワルイ…………!


 吐く、と思った瞬間、ガラスが粉々に割れるような音がして、やっと身体が止まった。

 よ、かった。あとちょっとでも動いてたらこのまま吐くとこだった……。

 最悪な事態を避けられて、私の、いやエレナお嬢様の沽券は守られた。

 けど問題はなにも解決してなくて、うつ伏せになるみたいな感じで浮かんでて、思いっきり地面が見えて……。


「目ぇ閉じろ馬鹿ッ」


 ヒュッと喉が鳴った瞬間、恐ろしい速度で目の前に突っ込んできたのは、ジールその人だった。

 そして、言われた通りに目を閉じる前に(というか、驚きで閉じるどころの話じゃなかったけど)両腕を伸ばされて、乱暴に抱きしめられた。


「ッ、ジールぅ」

「いいか、このまま降りるからな! しっかり掴まってろ!」


 エレナと大して変わらない細い身体に密着され、雑ながらも早口でそんな風に言われ、つい全身の力が抜けてしまった。

 ジールは、自力で掴まれなくなった私をぎゅうっと抱き直して、そのまま耳元で呪文を唱えた。それはさっき習った、浮かせた物を降ろすやつではなく。

 えっと思ってるそんな間に、切実に願った地面の感触が両足にきた。


「……瞬間移動魔法、だと……?」


 ダグラス先生の驚愕のひとことをかき消すように。


「う、うわあぁぁぁぁぁぁん!!」


 赤ちゃんみたいに泣き喚いた。

 沽券もなにもない。ジールはなにも言わずに、私が落ち着くまで抱きしめてくれてた。




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