第23話 健気
私が温室に逃げ込む日々は変わらない。
あの日あの時、エドに会ったのが運命だった。
彼の話は特に面白いというわけではなかった。むしろ、どもりどもりで全く進まず、最終的にはなんの話をしてたのかわからなくなる始末だった。
正直、エドワーズってこんなだったっけと思ってしまった。
私の悪い癖だなこれは。すぐゲームとかぶせたがってしまう。気をつけなければ、いつか口に出してしまう日も遠くない。そんなことしちゃったらエレナちゃん、頭おかしいやつと周りから距離置かれまくるの必然だ。
まぁだけど、やっぱりエドは変わらず私の可愛いエドだった。優しく気遣ってくれて、やたらとこちらの機嫌を気にしてた、いじらしい子。
ちょっと気にしすぎかなって思ったり、あとなんだろう、なにか言いたげに口開いて閉じちゃうことが度々あったけど。
温室に逃げ込む理由のひとつがこれ。
あの日から、エドは私が行くと必ず現れた。そうしてのんびり、沈黙という名のお喋りを楽しんでる。
……あれ、楽しんでるの私だけか?
いや、いやいやいやそんなはずは。だって私が行くと来るのって、嫌がってるわけじゃないってことでしょ?
あっ。
それとも、エドの場所を私が取っちゃったってことなのかな?え、やだ今度ジールに確認してみないと。
あ、あと理由、もうひとつの理由ね。
とにかく取り巻きとかいうお嬢さん方がうるさいのなんのって。
それに、取り巻きもそうだけど、フレデリクがやたらと絡んでくる。それだけならいいんだけど、話す内容といえば、
「全く、天下のソフィア王立魔法学院というこの場で、この程度の魔力しか持たぬのか」
「おれはもう、五回生が習うような魔法も扱える」
「魔法も勉学も剣術もそつなくこなす。それでこそ本当のエリートだ」
などなど。
ごめんなさいそれ私にぐさぐさ刺さりまくるんですけれど。
苦痛、とまでは言わないけれどいたたまれない。
「学年二位はロッド子爵家の三男なのであろう?」
え、誰それ。と思ったら、びくっとした目の前に座る少年。それは、あの目が綺麗な可愛い子だった。
「マシュー・ロッドと言ったな。全く、おれとは比べ物にならない程度の能力だ」
いやあなた、目の前に本人いるっての。
「それでおれの次席など、おこがましいにも──」
「フレデリク様」
「なんだ?」
いい加減にしろよという意味も込めてだったんだけど、イマイチ正しく伝わらなかったようで、期待したような目を向けられた。うーん。
「あたくし、そろそろ馬車の迎えが来る時間ですの」
まだだけど。
でも、そう言えば残念そうに肩を落とされた。
「そうなのか……。おれは、これからロベルト兄上に呼ばれているのだ」
ロベルト兄上かぁ。
あのお茶会以来会ってないけど、相変わらず
「そうだ! エレナもどうだ!」
いえいえいえ。どうだ、ではなくてですね。
一緒に行けというのですか。嫌ですよ、イジられるのがわかってるのに。
「ロベルト殿下も、フレデリク様にご用がおありなのでしょう。あたくしがお邪魔するわけにはまいりませんわ」
「う……む」
非常に残念そうに、ええ、もうそれはそれは残念そうに頷いたフレデリクは、しぶしぶといった様子で教室のドアへと向かった。
「そうだ! エレナ、俺をフレッドと呼ぶことを許そう!」
「お時間、大丈夫ですか?」
彼は今度こそお兄様の元へと旅立った。




