表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/68

第23話 健気

 


 私が温室に逃げ込む日々は変わらない。


 あの日あの時、エドに会ったのが運命だった。

 彼の話は特に面白いというわけではなかった。むしろ、どもりどもりで全く進まず、最終的にはなんの話をしてたのかわからなくなる始末だった。

 正直、エドワーズってこんなだったっけと思ってしまった。

 私の悪い癖だなこれは。すぐゲームとかぶせたがってしまう。気をつけなければ、いつか口に出してしまう日も遠くない。そんなことしちゃったらエレナちゃん、頭おかしいやつと周りから距離置かれまくるの必然だ。


 まぁだけど、やっぱりエドは変わらず私の可愛いエドだった。優しく気遣ってくれて、やたらとこちらの機嫌を気にしてた、いじらしい子。

 ちょっと気にしすぎかなって思ったり、あとなんだろう、なにか言いたげに口開いて閉じちゃうことが度々あったけど。


 温室に逃げ込む理由のひとつがこれ。

 あの日から、エドは私が行くと必ず現れた。そうしてのんびり、沈黙という名のお喋りを楽しんでる。

 ……あれ、楽しんでるの私だけか?

 いや、いやいやいやそんなはずは。だって私が行くと来るのって、嫌がってるわけじゃないってことでしょ?

 あっ。

 それとも、エドの場所を私が取っちゃったってことなのかな?え、やだ今度ジールに確認してみないと。


 あ、あと理由、もうひとつの理由ね。

 とにかく取り巻きとかいうお嬢さん方がうるさいのなんのって。

 それに、取り巻きもそうだけど、フレデリクがやたらと絡んでくる。それだけならいいんだけど、話す内容といえば、


「全く、天下のソフィア王立魔法学院というこの場で、この程度の魔力しか持たぬのか」

「おれはもう、五回生が習うような魔法も扱える」

「魔法も勉学も剣術もそつなくこなす。それでこそ本当のエリートだ」


 などなど。

 ごめんなさいそれ私にぐさぐさ刺さりまくるんですけれど。

 苦痛、とまでは言わないけれどいたたまれない。


「学年二位はロッド子爵家の三男なのであろう?」


 え、誰それ。と思ったら、びくっとした目の前に座る少年。それは、あの目が綺麗な可愛い子だった。


「マシュー・ロッドと言ったな。全く、おれとは比べ物にならない程度の能力だ」


 いやあなた、目の前に本人いるっての。


「それでおれの次席など、おこがましいにも──」

「フレデリク様」

「なんだ?」


 いい加減にしろよという意味も込めてだったんだけど、イマイチ正しく伝わらなかったようで、期待したような目を向けられた。うーん。


「あたくし、そろそろ馬車の迎えが来る時間ですの」


 まだだけど。

 でも、そう言えば残念そうに肩を落とされた。


「そうなのか……。おれは、これからロベルト兄上に呼ばれているのだ」


 ロベルト兄上かぁ。

 あのお茶会以来会ってないけど、相変わらず


「そうだ! エレナもどうだ!」


 いえいえいえ。どうだ、ではなくてですね。

 一緒に行けというのですか。嫌ですよ、イジられるのがわかってるのに。


「ロベルト殿下も、フレデリク様にご用がおありなのでしょう。あたくしがお邪魔するわけにはまいりませんわ」

「う……む」


 非常に残念そうに、ええ、もうそれはそれは残念そうに頷いたフレデリクは、しぶしぶといった様子で教室のドアへと向かった。


「そうだ! エレナ、俺をフレッドと呼ぶことを許そう!」

「お時間、大丈夫ですか?」


 彼は今度こそお兄様の元へと旅立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ