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第22話 立ち聞き


 二回級生から先は、能力別にクラス編成がされるらしい。実力主義社会って怖い。先生方から聞いた話じゃ、もう一度留年してたら退学だったんだって。ほんと怖い。


「おはようエレナ! 今日から同じ教室に通えるとは、なんとすばらしいことか!」

「どうして?」


 そして、教室に入って真っ先に声をかけてきたのはフレデリク王子さまだった。

 今朝、クラス分け表をワクワクして見ていた私の目に、飛び込んできたのは『特待クラス』の文字とその下の私とフレデリクの名前。そんな恐ろしい場所で、そこでギリギリ合格点を出して退学免れた落ちこぼれと、自称天才魔法使いが同じクラスとかありえないでしょう。

 私が頭いいから天才と一緒のクラスなんだとか、そんな夢を見るほど子供でいられない見た目子供の私。

 

「俺が学院側に申し出たのだ。嬉しいだろう?」


 いや、なんでそんな思考回路になるのかまったくもって謎なんですが。

 そして職権乱用すぎる。誰かこの王子止めろよ!止めてください!私がどれだけ醜態さらすことになるか、わかってないでしょう去年特別室でお勉強だったこの王子サマは!


「授業をはじめる……──」


 ローブをはためかせて教壇に立ったその人は、なんとダグラス先生だった!

 私見て一瞬動き止まった。手に持ってる名簿を確認した。そうしてまた私に目を向けた。

 わかります。わかりますけどそんな、『なんでグレイフォードがこのクラスに?』みたいな目やめて!私が一番よくわかってますから!そしてさようならできなかったダグラス先生、三年目も宜しくお願いします!

 

「やっと手のかかる生徒から解放される」


 みたいなこと言ってたの、知ってるんだ私。なんでって、それはその、ちょうど職員室通りかかった時に聞こえちゃったというか。

 立ち聞きの趣味はない。断じてない。そんな悪趣味なことはしないけど、でもだってタイミングよくなんかそういう場面にたまたま出くわしちゃうからさあ!

 

 メイドさんたちの休憩室のときもそうだった。

 めっちゃ知らないふりしたけど結局、なんとなく気まずい空気が流れたのでさっさとその場はあとにしました。ウィリアムには未だ報告できずじまいです。


「えー、では、席について教科書を開きなさい」


 なにも言わないダグラス先生は、そうして授業を開始させた。よかった。


 なぁんて、言ってもいられなくて。

 その内容はめちゃくちゃ難しかった。二回生だから、とかではなく、「ここはみんな知ってるよな」的な感じで進められてしまう。え、知らない!わからないんだけど!

 とも言えずに、とにかくノートをとるのに必死になって一日が終わった。


「無理だ、これ」


 ぐったりとするしかないでしょう。

 授業終わりの学校で、ひとりになるのは難しい。どこもかしこも生徒で溢れ、アリスさんいわくの取り巻きが現れ、どうしようもできない。

 そんな中、都合よく見つけたガラス張りの綺麗な温室。そこにはなぜか誰もいなくて、だけどかわいらしいケーキと紅茶が用意されていた。

 ジールに訊いたら、自由に使っていいらしいので最近のお気に入りの場所になりつつある。

 そこで、細かな細工が施されたテーブルに突っ伏しため息をを吐く。こんな姿は誰にも見せられない。


「しかも、ミザエラもいたなぁ。当たり前だけど。一回も目合わせてくれなかったけど」


 悲しすぎて涙も出ない。

 人がいないのをいいことに、ぶつぶつ文句を言ってた。なんて、油断してるから。

 かたり、と扉が開いた音。やばい、と思った時にはもう遅い。はっと視線を投げたそこには、立ちすくんでこっちを見つめる人影が。


「……そこにいらっしゃるのはどなた?」


 やばい!聞かれてたか今のエレナではあり得ない言葉!誰?逆光で見えない!

 人影は、ゆっくりと部屋の中に入ってきた。そして見えた、光に反射する薄紫色の髪に、暗くてもわかる月影の目。その左側にある泣き黒子。

 すごくそっくりだけど、全然違う驚いた顔した少年。見間違えるはずもない。

 

 第二王子、エドワーズだった。

 

 ……うっそでしょ。学校通ってたんだ。じゃなくて。


「あ、あたくしが何処かへ行きますから、どうぞお気になさらず!」


 表向きのキャラを前面に出して、さっさと踵を返して早足。

 確かもうひとつ出入り口あったよね!?てか、なんで私逃げてんの!?


「あっ! ま、待って!」


 なんで呼び止めた!そしてなんで止まった私の足!

 ……止まってしまったのはしょうがない。聞こえないフリできなかった。

 そおっと振り返れば、右手が私の方へ伸ばされた状態で止まる王子の姿が。そんな不自然な格好でも様になる王子が恐ろしいこんな状況じゃなければいくらでも眺めていたいのに……!


「少し……、その、は、話しができないだろうか?」


 話しって?なにが?だれと?私とですかそうですか……!

 え、いやあの、私たち初対面ですよね?私は初対面じゃないけどね?だって推しキャラだものこんな状況でなかったら発狂してる生エドワーズまじ可愛い!え、呼吸困難で死にそう!

 って叫ぶ前に、叫ばないけど、ふと代わりに口をついた無駄に冷静なエレナの言葉。


「あの、女性恐怖症なのでは?」


 確かそんなことをフレデリク言ってたよね。

 実際、腕を伸ばした状態のままでいるエドは、指先を震わせ、声を震わせ、その、ショタ──失礼。少年にしては美しすぎるかんばせを青ざめさせている。


「えっ! あ、あぁ。そ、そう……だな」


 ……しまったー!

 口にしなきゃよかった!遠回しに断ってるみたいじゃん!!

 いやそれで間違いないんだけどそのために言ったんだけど、でも言い方ってもんがあったでしょう!

 ちょ、エド、肩落とさないで! かわい──じゃなくて、えっと、えっと!


「申し訳ありません! そのようなつもりではなくて、ただ、勝手に心配をしてしまったというか……。あっ、決して嫌とかではありませんわよ!」


 誤解は解いとかないと好感度が危うい……!

 …………って、あ。これゲームじゃないんだっけ。つい思考回路の癖が。


「……心配?」


 キョトンとした顔かわいい。

 ……なに言ってんの私やめろ。


「ええっと、その、王子が混乱して咄嗟に仰ってしまったのかしらぁ〜、とかって思いましてぇ……」


 ほんとなに言ってんの私。なんか余計なことばっかスラスラ出てくるんだけどどうしよう。

 焦りまくって顔色を伺うと、エドは目をパチパチさせて──笑った。


 うっそ、マジか。エドの生笑顔!第一王子の笑顔は麗しくて大好きだけど、これは天使だわ! 天使が降臨なされた!


「つまり、俺が勢いで貴女を誘ってしまい困っているのでは、と心配して下さったのか?」


 あー!『俺』!子供のときは一人称俺なんだ!ゲームでは『僕』だったんだけど、やっぱり違うのかな?これはこれで新鮮でむしろイイけど!


「貴女は俺が接してきた女性の中で、一番不思議な方だ」


 ……ん?

 こ、これは、褒められてるの?貶されてるの?


「へ、変な意味ではない。褒めたかっただけで、その、……ああ、言葉が見つからない!」


 今度は私がきょとんとする番だった。

 なんだこの人。誰だ女性恐怖症とか言ったの。それとも無理してんの?これ。


「とにかく! あの、座って話さないか?」


 まぁ、あの、嬉しいです嬉しいけども、私とエレナは別の人間でして、つまりエレナ的には、第三王子だけでもどうにもならないのに、またさらに王族と付き合うのはまっぴらだとそういうことでして。


「喜んで」


 私の口ー!!

 誘惑に勝てなさすぎる!どうして、心の声を我慢できない!


 ぱっと表情が明るくなったエドがあまりにも無邪気で可愛かったから、己への苛立ちは綺麗さっぱり消え去りました。

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