第20話 取り巻き
これは一体どういう状況だろうか。
「エレナ様、今日も素敵な装いですわね」
「まぁ、そのブレスレット! 今、王宮で流行しているデザイナーのものですわよね!」
「さすが、エレナ様は身につける物までも洗練されていらっしゃいますわぁ!」
まてまてまて。なんだこの急に出現したハーレムは!
教室に入った瞬間、いや、学院の門をくぐった瞬間から、わらわらと集まってきた可愛らしい女の子たち。そうして口々に今日の私を褒めちぎる。
ごめんなさい、このブレスレット流行ってるの?ロザリーが持ってきた中で一番可愛いかったから着けてるだけなんだけど。
それからも、歩いてる間ずっとその状態が続き、荷物持ったり準備手伝ってくれる子まで出てきた。それだけならまだしも、授業中に私が当てられると教室の端に一斉に逃げてたのに、逆に寄ってたかって私の代わりになろうとしはじめた。
「エレナ様のお手を煩わせるほどのものではありませんわ!」
「そうよ、このような低級魔法。……そこのあなた」
「えっ」
教室ではわらわらいた子たちがいなくなって、残ったのはクラスメイトだったらしい女の子ふたり。
その内のひとりがぴしりと指差し指名したのは、いつだか目があったあの男の子。今日も順調な怯え具合ですね。
「クラス一魔法が得意なそうじゃない。エレナ様の代わりができる、とてもありがたい機会よ」
いやいやいや。ちょっと待って私やる気満々だったから!べつに代わって欲しいとか思ってないから!むしろお前できないんだろって思われるのがつらい!
そして、クラス一番だったんだ、名前を知らない綺麗なスカイブルーの目の少年。代われとか言ってないし、そんなつもりで見てないから涙目にならないで。仲良くしよう?
「……全員席に戻れ。グレイフォードも座りなさい」
黙ってことの成り行きを見守ってたダグラス先生がついにため息を吐いた。
結局、誰も当てずに先生が自分でやっちゃって、その日の授業はさっさと終わってしまった。
「エレナ様! お食事に参りませんか?」
「あぁ〜……、あたくしジールお兄様とお約束がありますの」
ないけど。今勝手に私が作った約束だけど。
「あ。申し訳ありません」
「そうですわよね、エレナ様にはフレデリク王子がいらっしゃいますものね」
え、いや、あれ?私、ジールって言ったよね?ん?
「あぁ、素敵ですわ! 第三王子とランチだなんて!」
だからちが……。うん。もういいや。
なんか盛り上がってるふたりを置いて、またハーレム状態にならないうちにそそくさと教室をあとにした。
友達欲しいと言いましたけども。
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「エレナさんが、殿下主宰のお茶会にご招待されたからでしょうね」
なんでもないことのようにさらっと言うアリスさんに、私のフォークを運ぶ手は止まったまま。え、だったらどうしてそうなるの?
「瞬く間に広まりましたからね。大きな権力にあやかろうとした子供の欲望か、親の策略か、はたまた両方か」
そう言って、アリスさんはふん、と鼻を鳴らした。馬鹿馬鹿しいとか思ってそう。実際、顔にありありと出てるけど。
「気にする必要はないとは思いますけれど、まぁ、味方は多いほうがいいですよ」
「そう……ですわよね」
うーん、わかるけど。でも、私そんな損得勘定での友達って、なんか思い描いてたのと違うんだよなぁ。
「おい、エレナに変なこと吹き込むんじゃねぇ」
ふいに横から割り込んできたのはジールの声で、だけどそれに反応する前にアリスさんが片眉を上げた。
「あら。ひとつの知恵です。エレナさんも、もう社交界デビューをなさるのでしょう。そのときに、のまれてしまってはかわいそうですから。それに、こちらを見もせずに何やらなさってる貴方に言われたくありません」
仲いいんだなぁって思う。つくづく。なのに、ジールはおそらく今までアリスさんの名前を未だに覚えてない。
そして、ほんとになにしてんの?私も気になってたけど。
教室を訪ねてきた私を見もせずに、生返事しかしてくれなかったジール。見兼ねてアリスさんが「お茶しましょう」とその場に茶器を出してくれた。
中等科は能力別にクラス分けされるらしく、ジールと一緒のクラスのアリスさんも、高い魔力と魔法技術を持ってるらしい。さすが。
まぁ、それで。聞いてないようで聞いてたらしいジールは、急にパッと顔を上げた。
「できた」
その、なんともすがすがしい顔。いつもの無感情フェイスはどうした。って、あ!
気づけばジールの手が伸びてて、私のブルーベリースコーンをかっさらっていった。待ってなんで!
「あぁ……。最近盛り上がっていた、上級魔法の魔法陣ですか」
「そうだ」
珍しくちゃんと返事をしているあたり、相当嬉しかったらしい。それよりも、私のスコーン……。
「殿方って、どうしてこう、あれなんですかね」
「なんだ」
「いいえ」
……アリスさんのごまかした言葉は『バカ』で合ってますか。




