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第18話 対峙

 


 ひとつ歳をとったマルガレータお嬢様は、またひとつ、その尊大さに磨きがかかったようだ。

 たくさんの取り巻きを引き連れてる彼女は、基本的にやりたい放題。廊下を避けない者がいれば、取り囲んで集団リンチまがいのことしてる。

 今だって……、って、あれ、ミザエラ!?


「ねぇ、あなた。少し生意気ではなくて?」

「え、あ、ごめんなさい」


 小さくなってビクビクしているミザエラ。彼女って、やっぱり気が弱い方だったの?それ考えると、私に抗議してきたのはなかなか勇気がいることだったみたい。


「一年早く入学できたからって、いい気になってるのかしら」


 背が高いマルガレータお嬢様は、制服に宝石ゴテゴテなパンプスという、なんともフザケた──失礼。個性的なファッションでいらっしゃる。もともと上から目線(物理)な彼女は、さらに高みからミザエラの頭を見つめてる。ひえー。


「あなたが、このマルガレータ・テスラの道を塞いで良い道理など、なくってよ」

「そうよ! たかが成り上がり伯爵風情が!」

「同じ伯爵と言うのもおこがましいですわねぇ」


 おーい。ご自分で身分どうの言ってたのはどうしたの。だけど、ミザエラもなかなか負けてなかった。


「こ、こ、この学院では、身分ではなく魔法の能力で評価されると聞きました!」

「はぁ?」


 一生懸命なその言葉も、マルガレータお嬢様のひと睨みでかき消えてしまった。

 頑張れ、ミザエラ。私はちょっと巻き込まれたくないから、申し訳ないけど失礼させて──。


「あなたのお父様、ニュールなんですって? それで医者だなんて、怖くて診察などしてもらいたくないわぁ。ねぇ皆さん」


 にやり、と口角を上げたマルガレータ。クスクスと笑が溢れる。よく耳をすませば、野次馬してる子たちも、同じように笑っているようだった。

 ジールが言っていた『無能』とかいう言葉を思い出した。


「父は! 父は偉大な人です! 魔法が使えなくても貴賤に関係なく誰でも患者として診て、魔法が使えるお医者様以上に」

「馬鹿なことを言うのも大概にして。魔法が使えない人間なんて、ケーキくずよりも価値がないわ」


 ……それはさぁ、ちょっと言い過ぎでしょ。

 踵を返そうとしていたつま先を戻してツカツカと歩いていけば、目の前がさぁっと開けた。いつの間にかシン、となって、それに気づいた取り巻きが、だんだんと視線を私に集めてくる。


「エレナ様……?」


 そう漏らしたミザエラに、最後にやっとマルガレータの視線が私に向いた。


「あらぁ? まあまあ、お久しぶりですわねエレナ様。学年が変わってしまってから全くお会いできなくて、わたくしとても寂しいですわ〜」


 余裕の笑みが張り付いた美しい顔は変わらない。私の表情を見て、一瞬顔を引きつらせていた取り巻き達も少しずつ笑みをこぼした。

 少しも『寂しい』だなんて思ってないことは、こちらを物理的にも感情的にも見下す目を見ればわかる。ていうか、なにそのスタイルのよさ。子供のくせに脚長いし、くびれあるし、私たち同い年のはずでしょ。頑張ってエレナちゃん。

 じゃなくて。


「ごきげんよう。ところで、マルガレータ様。あたくし、そこを通りたいんですの。どいてくださらない?」


 その瞬間、サッとマルガレータの表情が変わった。ええっ。怖いなにその変化スピード……。


「留年して、お忘れになってしまわれたのかしら。この学院では爵位は──」

「関係ないのでしょう? もちろん覚えてますわ。けれど、今はあたくし、そのようなことを言ってるのではなくってよ」


 彼女の目をまっすぐ見て、そうしてゆったりと微笑んでやった。ごめん。膝は緊張でガクガク。


「聞こえませんでしたの? あたくしの道を塞ぐなと、そう言ったのだけれど」


 だんだんと、顔色が変わってくマルガレータお嬢様。小刻みに震えはじめた彼女と私を、ミザエラと取り巻きが交互に見てる。


「ねぇ?」

「……ッ!」


 瞬間、バッと腕を振り上げたマルガレータ様。喧嘩ではね、手をあげたほうが負けなの。知ってる?


「なにをなさるおつもり?」


 だけど、やっぱりちょっと葛藤はあったのか、すぐに振り下ろされずにぴたりと止まった。ふと、気づけば前よりも野次馬が増えていた。そろそろ終わりにしとかないと、逆に私が通行の邪魔だな、これ。


「それも結構ですけれど、明日はロベルト殿下主催のお茶会でしてよ。貴女も出席なさるのでしょう?」


 学院の外に出たところで、対面することになりますけど大丈夫かしら。

 すでに真っ青になってるマルガレータお嬢様は、小さく小さく「譲ってさしあげますわ」と言い置き、足早に去っていった。なかなかにプライド高いな。エレナちゃんも人のこと言えないけど。


「……あ、あの、エレナ様」


 なんと言っていいかわからないって顔のミザエラに笑いかけて横を通り過ぎた。

 ケーキを、たとえくずだろうと、捨てる奴は私の敵だから。気にしないでいいんだよ、ミザエラちゃん。

 背後では幾度か、「あの、その」という声が聞こえ続けた。落ち着け。



 お茶会当日、マルガレータお嬢様は招待されてないことを知った。

 盛大な嫌味と嫉妬の種を、よりにもよってロベルトガチ勢へと蒔きに蒔いた私。これからこの学院で生きていけるか?

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