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第10話 初日

 


 ここ数日、ロザリーからみっちり魔法について勉強させられ、容赦なくとんでもない量の知識を暗記させられてた。優しさの裏のスパルタな面を垣間見てしまった。


 とにかく私がやらかしたことは大変なことだった、というのはわかった。

 この世で闇の魔法というのは何よりも強力なもので、まさか子供で魔法が得意でもない私が扱えるわけもなく、あのままだったら一瞬で闇の世界に取り込まれて戻って来れなくなっていたらしい。

 怖すぎ。

 ジールがやったのは闇とは反対の光をもって撃退するというもので、正当な対闇魔法だったんだけど、それだって子供が扱えるものじゃない。

 ジールだからできたのだ、とロザリーに懇々と諭された。


「お兄様」

「なんだよ」


 入学式から少しして、今日が学院生活初日。例に漏れずジールと馬車で学院へ向かう。


「魔法の特性とか種類とか、呪文とかもろもろ、ジールお兄様は全て覚えてらっしゃるの?」

「そりゃな。……あぁ、いや呪文は全部じゃねぇな」

「えっ」

「別に唱える必要なかったら、いらねぇだろ」


 覚えさせられた、あの時間はなんだったの!?って思ったけど、そうですか。天才型でしたかジールは。はーい。


「で。覚えたのかよ」

「おやつを人質に取られていましたので」


 覚えなければ食べられなかったからな。


「へー。ロザリーもなかなか、おまえの扱い方心得てるな、さすが」


 なんでここで私を見るんですか?今さっきまで見もしなかったのに。

 ニヤッと笑った、その顔はちょっと意地悪っぽいんですけど気のせいですか気のせいじゃないわ。

 エレナと顔の系統一緒だもんね、気をつけないと悪役顔に平気でなりますよ。


「ちょっと復習してみろよ」

「ええっ」

「ちゃんと覚えてたら、なんか買ってやるよ」

「学院の食堂で、一番おいしいスイーツはなんですか」

「ちょろいな」


 聞こえましたよ、ジールお兄様。


「えっと……。魔法には精霊の数だけ種類があって、その中でも光、闇、風、水、土、火の順で力が強い。他にもいっぱいあって、えっと、電気とか? あ! あと、精霊を使う人の力で弱くなったり強くなったり、特性がいろいろ変わったりいろいろする!」


 どう!?我ながらよく憶えてるじゃない!


「後半そんなでよく自慢気にできるよな……。まぁ、エレナにしてはよくやった方か」


 じゃあ?じゃあ!?


「誰かに聞いとく。ケーキ」


 やっった!

 ゲームの中で、ヒロインがスイーツ食べてる描写が結構あったんだよね。初等部から高等部まで同じ敷地にあるから、きっと大きな食堂もあるんでしょう!


「到着にございます」


 瞬間、ジールが外に飛び出した。

 ねぇ、なんでもいいんだけどさ、手貸してくれるしいいんだけどさ、なぜ毎回そんなに出るの速いの?




 ♯




 面白いことに、この国の教育は日本と違って初等科五年、中等科四年、高等科三年ってなってるらしい。まぁそんなことはどうでもいいんだけど。


「おどきなさい。わたくしの道を塞ぐ気?」


 ソフィア王立魔法学院は貴族の坊ちゃんご令嬢が通う、要はお金持ち学校。繊細な細工が壁に施された真っ白な廊下も決して狭くはない。そこを横一列どころか思う存分広がって歩く、マルガレータ伯爵令嬢様、とその取り巻きたち。

 邪魔なのはあんたよ、とは言えない。

 彼女らの目につかないよう、こそこそ教室に入れば、中の子たちが一斉にこっち向いた。えっ、うわ、なに!?

 思わず足を止めたけど、周りはお構いなしにひそひそ話をはじめた。

 なんとなぁく聞こえたワード、『第一王子』。まさか、あのときの態度で敬遠されてる?嘘だろ?

 空いてる席にと思ったら、その列どころか前後からも人がいなくなった。

 ちょっと悲しくなってきた。


「さぁ、席に着きなさい」


 そこへ入ってきたのはローブを身にまとった男の人。


「このクラスの担任であるダグラスだ。まずはじめに、貴族出身の者も多いと思うが、この学院では、門をくぐった瞬間から爵位などというものは意味を成さない。罰を与える権利は私たち教師と学院長のみが持つ。それを心に留めておくように」


 わぁ。ガッチガチにお堅い人だぁ。そんなこと、六歳、七歳児に言って通じるのか。ほら、みんなぽかんとしちゃってるし。

 マルガレータや第一王子が言ってた身分がどうのって、このことだよね。なんか、だったら私と仲良くしてくれてもよくない?ねぇ、そこのあなた!

 って右を向いたら慌てて目をそらされた。顔ごと。つらい。


「また、この学院では飛び級もあれば留年も存在する」


 そういえば、ジールは入学したときに三年飛び級してるから、今は五年生らしい。天才か。


「勉学に励みなさい。以上」


 ダグラス先生はローブを翻して出て行った。え、待ってそれだけ?このあとは?

 すぐにざわめきはじめた教室で、ぽつーんと座ってる私。もう周りはグループできてるのか……。早くない?すごい出遅れた感だけど、入る暇もなかったじゃないか。


「よーっす!」


 突然、ガラッと開け放たれたドアに、全員がビクッと話すのをやめた。教室中の注目を集めてニヤッと笑ったのは、真っ赤な髪の。


「あ」

「お、エレナちゃん!」


 ひらひら〜っと手を振ってくれて思わず返したら、不意に彼の頭がはたき落とされた。


「ちょっと、ベンジャミン! 真面目にやりなさいよ」


 厳しい顔でひょこりと現れたのは、黒髪をきっちりハーフアップにした綺麗な女の子。キリッとした濃い緑色の目はすごく気が強そうな感じ。


「わーかってるって。全く、アリスはほんとうるせぇなぁ」

「なんですって!?」


 私も含め、みんなぽかんとふたりのやりとりを見つめるしかない。それに気がついたのか、アリスと呼ばれた女の子は気まずげに咳払いをしてこちらに向き直った。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。この学院に入れたということは、」


 ダグラス先生とはまた違った、真面目な感じ。いつまで続くかな、って思ってたけど。


「まだわかんねーことばっかだろ! 俺らが校内案内するから、ほら、二列で並べ!」

「なっ。ベンジャミン! まだ挨拶が途中よ!?」

「はいはい。あ、俺ベンジャミンな! この口うるせぇのがアリス。どっちも五回生だ」

「口うるさい!?」


 ショックを受けてるアリスさんを置き去りに、ベンジャミンがさっさと先導してしまった。


「ベンジャミン!」

「エレナちゃん、こっちおいでー」

「聞きなさい!」


 友達がいない私としては、二列になんてなれないし、なれたとしてもひとりにさせられそうだったから助かったけど。

 わぁ、アリスさんすごい見てくる〜……。


「……ベンジャミンがロリコンとは知らなかったわ」

「お前それ、ジールにぶちのめされるぞ」

「は? なぜよ」

「いいから。誤解だし、間違っても言うんじゃねーぞ」

「……さぁね」

「おい、おーいアリスさん!」


 ふいっとする瞬間、私をほんの少しの疑いの目で見たアリスさん。……あぁ。ふぅん。

 私はベンジャミンとはなんでもありませんよ〜って念じてみたけど、目ぇ逸らされた。仲良く、なりたいなぁ。

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