ろーく
我が息子は大変な過ちを犯してしまった...
息子が自分からパーティーを主催する、と言ったときは、「ああ、大人になったな」と妻と喜んだものだ。結婚し、王となる覚悟ができてきたと。
だが、それは大きな間違いだった...
何度言っても、婚約者であるレティシア嬢を迎えにいかないようなダメ息子だったが、あのレティシア嬢となら上手く支えられて王になると思ったのだ。
...それが、この仕打ち。
パーティーでマリアンヌを連れてきたときは何事か、と目を疑った。
マリアンヌは私の姪に当たるが、魔力値が低い。それが理由か、幼い頃は隠されてきた。
生まれた時に祝福をしに会いに行き、両親から綺麗な金髪と魔力を受け継いだ愛らしい子だと思っていたのだが...いや、今となってはマリアンヌに魔力が少なくて良かったか.....
それにしても、夫人は少し過保護過ぎぬか?
今でも社交界にもほとんど出させぬし...
私にも中々合わそうとせず...弟が四年ほど遠征に行っていたせいもあるが...
確かに、弟が見られぬマリアンヌの成長を私が見るわけにもいかない、と妻もいっておったな。女性とはそういうものか...
そして弟が戻り、マリアンヌも六歳になり、ようやく私も会えたというわけだ。
それからも中々表舞台にでなかったが、こんな形で人前に出てくるとは....
いや、今はそれどころではない!
私は首をブルブルと振った。
私がどれだけ苦労してレティシア嬢との婚約を取り付けたというのだ。レティシア嬢の父はすぐに息子との結婚を承諾してくれた。
「あんなので良ければ好きにして下さい」と。
しかし、他からの反対が強かった。それを乗り越え、ようやくというところで....
まだ穏便に済ませてくれればよいものを。
レティシア嬢が息子に興味がないのは明らかだ。レティシア嬢の父にだって、説得すれば円満に終わったであろうものを...
あんな形で婚約破棄した時は、意識を失いそうになった。
翌朝、側近が飛び込んできた。
「王様!大変です!し、司法院から通達が!」と言って。
司法院。この国の法を司る機関。
王族から完全に独立した機関だ。
王族とはいえ、罪から逃れることはできない。そんなこと、子供でも知っている。
そのはずが....
「一体、あいつら誰だったんだ?」
法廷陳述が終わった息子は、そういった。
まさか、冗談だろう?
そう思っても、息子は真剣に首を傾げていた。衝撃だった。...一体学園で何をしていたんだ....
婚約破棄は、立派な契約違反だ。
レティシア嬢には昔から王妃になるための教育が強いられ、不自由な思いばかりさせただろう。
巨大な損失がそこには存在する...
レティシア嬢があんな風に婚約破棄されて、今後結婚が難しいことも考慮すると、総額五億ペラくらいになるだろう...
演算師を呼んで算出させたが、さすがの演算師もだんだんと顔が真っ青になった....
息子は王族だ。基本的に財産は国に帰属する。ということは、国から五億ペラが支払われるということだ。
...五億ペラも支払う余裕はない....
一気に貧困な国家となってしまうだろう.....
「旦那様....」
妻も不安げな表情だ。
「大変なことになってしまった...」
「ディオゲネス公から...」
弟からも抗議文が来た。
王家という難しい環境の中でも、弟とは仲良くやってきたと思っている。
それが、あんなことに...
「名誉毀損の人証申請か...」
私に息子の暴言の証人になれというのか...
確かにレティシア嬢を貶めるようなことは言ったが....
「あ、あなた、ダニエルは大丈夫よね...?お、お金は何年かかけて払えばいいもの。私の宝石も売ったっていいわ...!」
妻は、高価なものをダニエルのために売り払うつもりだ。だがそれも、元を正せば国の金だ...。いくらかそれで補填はできるだろう。何年間かかけて支払えば、慰謝料もいずれ払い終わる。
だが、もはや問題はそこにとどまらない....
私は頭を抱えた。