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閑話

遡ること数日ーー

街外れののどかな場所に、一人の男が家族と住んでいた。

男は妻と自給自足の生活を送り、たまに街へ出ては贅沢をしたりすることもあった。

子供も生まれ、幸せの絶頂にいた。


「黒、いるか。」

ゴンゴンと、扉が叩かれた。

こんなのどかな場所に、王家の家紋が彫られた馬車が来た時点で、オトコは嫌な予感がしていた。

「る、留守ッス。」

男は布団を被り、ガタガタ震えた。

穏やかな毎日を送る妻は、いつもと違う夫の様子に首を傾げながら、扉を開けてしまった。

「ま、まって....」

「はーい。どちらさま?」

この家では妻の方が強かった。

「黒...いや、ここの家主はいるか?」

扉の向こうには、高貴な雰囲気を纏った男が立っていた。

妻は思わず頬を赤らめた。

冷徹無比と言われた男だったが、その丹精な顔立ちは女性受けがよかった。

夫は妻がそんな風に男を見ていることは知らず、より布団に潜っていった。

「あら、ちょっと待って下さいね?」

妻は夫の元へ行くと、むんず、と布団を掴み引っ張った。

夫はころり、と簡単に布団から出てきた。

そして、男と目が合った。

「ディ、ディオゲネス様ーー」

ひいぃ、と顔が引きつった。

男が一生再会したくない相手だった。

「な、なんの用スカ?オレ、なんもしてないッスヨ!」

男はぴゅーっと、机の下に逃げ込んだ。

「仕事だ、黒。」

「黒じゃないッス!」

男は逆毛を立てるように怒ったが、ディオゲネス公の前では長く続かなかった。

「もう仕事はこりごりっス。」

「簡単な仕事だ。」

「簡単!?あんたと会ってから、一日足りとも簡単な日なんてなかったッス!」

男はディオゲネス公と10年以上前から付き合いがあった。

「報告書を書くだけだ。」

「報告書?」

「お前があの屋敷についてから、辞めるまでの。」

ディオゲネス公は紙を取り出した。

「ディオゲネス公が怖かったとか、そーゆー?」

ジロリ、と睨まれ、男は縮み上がった。

男は結局、ディオゲネス公の指示に従い、報告書を書いた。

ディオゲネス公から逃げようとここに引っ越してきたのに....男はため息をついた。

あの日ディオゲネス公に見つかってから、男はため息の回数が増えていた。


王家に仕え、数十年。

信頼を寄せられていた。

幼い少女を見張ることは、男の良心を刺激したが、辞めることはなかった。

ずっとこの道で生き、死ぬと思っていたからだった。

男は誰にも見つからない自信があった。

ディオゲネス公に話しかけられる前まではーー

レティシア様の素行調査として、ダニエル王子との婚約の話が出た小さい頃から、黒はレティシア様を見守っていた。

仕事内容は、どこか他の男とイタサナイか、とか王妃になるものとして相応しくない行動がないかというものだったが、レティシア様には全く見られず、ただの観察になっていた。

たまにどこからか暗殺者が来たり、変態のストーカー がついたりはしていたが、あのディディオンという青年がすべて対処していた。

そんな光景をのんびり見る男は、隣に他の男が現れたことに気づかなかった。

男の職業としては、とても大変なことだ。

男は武器を取り出したが、相手は一枚上手の魔術使いだった。

こんな平和な任務に、恐ろしい形相の刺客。

男は終わりを覚悟したーー


それがディオゲネス公で、レティシア様をこっそり見に来ただけとは思わず。

レティシア様の情報をごっそり持っていかれ、観察仲間となってしまった。

....いや、観察するときの召使いくらいにしか思われてなかったかもしれないが。

あのディオゲネス公がレティシア様を見守っる、という恐ろしい体験を長年し、やっと職を辞することができたのだ。

....稀に呼び戻されることもあったが...

男はマリアンヌの素行調査に加わったことを思い出した。

その情報とディオゲネス公に渡した情報が、今頃何に使われているか気づきそうになり、頭を振った。

考えてはならない。

男の平穏な生活には関係のない話だ。

王家の内部事情を知っているため、口を割らないようある程度のお金は渡されている。

男はこのまま田舎でのんびり暮らせるよう、手を合わせて祈った。


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