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ユリウスが平然と仕事に戻ったように、王も衝撃から立ち直らなければならなかった。
マリアンヌがハイドローザ公の子供でなかったことには驚いた。
しかし、マリアンヌとダニエル王子の婚約を辞めさせる良い理由になったと思っていた。
全ての罪をマリアンヌの母に被せれば良いのではないかと。
マリアンヌとマリアンヌの母へ非難の声が流れれば、少なくとも国内でのダニエルの評価はぎりぎり救われただろう。
マリアンヌは貴族の血が流れていないのだ。
そして、あんな無残な姿を晒した。
さすがのダニエルもこれで辞めるだろうと、王は安堵していた。
そこに届いた。
王は隣国からの手紙を手にし、震えていた。
そこには、ダニエル王子とマリアンヌからの招待に対する出席の返事がかかれていた。
王は頭を抱えた。
マリアンヌがダニエル王子と婚約することが、他国へと明らかになってしまった、と。
マリアンヌとダニエルの婚約を取りやめようと、マリアンヌの真実を知った時に決意した。
しかし、これでは他国からの信用を失ってしまうーー
マリアンヌをダニエル王子から引き離すことが難しくなった。
マリアンヌと言う名前が他国へと伝わってしまっているのだ。
ーーいや、待てよ。
レティシアは元々マリアンヌという名前だったのだ。
もう一度名前だけ取り替えるか...?
いや、だめだ。
ディオゲネスに反対されるーー
王の中には、マリアンヌの件を闇に葬り去ることしか解決策が浮かばなかった。
入れ替えられていたことが皆に知られてしまったとはいえ、マリアンヌが貴族でないことはあの場にいた者しか知らない。
王は簡単に口封じができると考えた。
王への相談もなしに、勝手に婚約披露宴を行おうとしているダニエルに、王も怒りを覚えた。
ただでさえ、レティシアとの婚約が取り消しになったことで良くないことが起きていると言うのに....
だが、王はダニエルとマリアンヌを引き離す方法を思いつかなかった。
他国からどう見られるかを、王は重要視していたのだ。
招待状に書かれてしまえば、もう王でさえ手出しはできなかった。
「ダニエル!お前は、まだマリアンヌと婚約すると言うのか!」
「もう招待状も出したんだ。格好悪くて取りやめなんかできない。」
ダニエルはそっぽを向いた。
「ああ、どうしてレティシアにしておかなかんだ!」
「レティシア?だいたいなんでレティシアが良いんだ?レティシアが王族なのは分かった。でもそれだけだろう?」
ダニエルにはレティシアの良さがまるで分からなかった。
王族としての教育をのらりくらりと交わしてきたダニエルとマリアンヌは、お互いがそれでは足りていないことに気づけなかったのである。
「レティシアが欲しいのか?どうせ王族なんだ。どうにでもなるだろ?」
「レティシアがディオゲネスの元に戻るとーー!」
これが王の悩みの種だった。
レティシアを王族に引き入れようとしていた王だった。
ダニエルと結婚せずとも王族であることが分かり、結果としては同じになるはずだった。
ディオゲネス公がいなければーー
王はこれをダニエルに話すことができなかった。




