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どうしてこんなところにいるのか...
目が覚めると、知らない部屋にいた。
私の部屋じゃない。
私の部屋には物なんて全然なくて、ものすごく殺風景だ。
この部屋は、調度品も揃えられていて、何よりとても広い。
「目覚めたか?」
目覚めに心地いい、テノールが響く。
私は勢いよく立ち上がり、礼をとった。
「は、はい。」
相手の雰囲気に押され、礼をとったものの、一体なぜここにいるのか、そもそもここがどこなのか...
「マリアンヌ様のお父様で、いらっしゃいますよね...?」
起き抜けの頭が、やっと理解を示した。
マリアンヌ様の父ということは、あまり良くない状況ではないのか、と。
「そうだ。お前の父だ。」
全く表情を変えずに、なんだか恐ろしいことを言った。
「....なるほど。そんなことが...」
私はやっと、昨日のパーティーで異常な暴露大会が行われたことを知った。
私が、王族?
私の父が、この人?
恐る恐る、ディオゲネス公を見上げる。
冷徹と称される表情は、冷たく険しいものだったが、どことなく暖かい眼差しのような...
いや、気のせいか。
やっぱりこわい顔でした。ごめんなさい。
「それで、なぜ私はここに?」
昨日はいつも通り部屋で眠りについたはず...
「申し訳ない。私が勝手に連れてきた。」
...ディオゲネス公が?私を?
申し訳ない、といいつつも無表情のまま。
何を考えているか分からない。
「私は、君の父親としては不十分だろう。だが、ハイドローザ公は...」
ディオゲネス公は言いにくそうに下を向いた。
分かってる。
私が娘ではないとなった以上、彼らは私を家に置いておく必要がない。
すぐにでも追い出すに違いない。
頼るところもない私は、一人ではどうすることもできない。
そう考えたのだろう...
「君さえよければ、その、ここにいてくれても構わない。」
ディオゲネス公の目がキョロキョロ泳いだ。
「いえ、大丈夫です。」
断った。
私にとってこの人は、マリアンヌの父であり、自分とは関係のない人だ。
「ま、待ってくれ!」
部屋から出ていこうとする私を、引き止める。
「も、申し訳なかった。本当に。この通りだ。」
急にディオゲネス公が膝をついて謝った。
「や、やめてください!」
に、似合わないですよ!
冷徹とか厳格とか言われてるディオゲネス公が、こんなーー
「どうか、少しここで考えてくれないだろうか。嫌になれば出ていってくれて構わない。自由にしていい。ーーだが、少しだけ私と共にいてくれないだろうかーー」
ディオゲネス公の言葉に、不思議と胸が熱くなった。
こんなに私のことを求めてくれるなんて...
今までになかった展開です。
ーー正直ね?「は?」って思ってましたよ?
ディオゲネスの説明によると、ディオゲネス公は私とマリアンヌが入れ替えられたことにも気づいてたみたいですし...
それでほったらかしにしてた人のこと、信じられますかね?ーーー無理です。
そもそも私は一人でも暮らしていけるので、こんなところにいる必要もないんですよね?
でも、まあ、
「分かりました。」
この人なら私の父親になってくれるかも、なんて思っちゃったんですよね。
ディオゲネス公は表情はさほど変わらなかったが、背後からキラキラオーラが出て見えた。あ、喜びがわかりやすい人だ、この人。
レティシアは思わず笑い声をあげた。
38話まで毎日続きます。
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