十二
「ダニエル、お前は本当にマリアンヌと婚約するのだな?」
いつも堂々としていた王も、目の下のクマでげっそりしてみえる。
「はい。いずれ必ずマリアンヌと結婚します。」
手を握り合う二人。
ここは、司法の間。
私も滅多に使わないところだと教わっていたので、呼び出されたことに驚いている。
司法院の人には、独特のオーラがある。
冷静で腹の中をみせないような佇まい。
私も、王も王妃も、マリアンヌの父も神妙な表情をしている。
マリアンヌの母と私の父だけが、王子とマリアンヌ様の甘い空気に頬を緩めていた。
カツカツカツ、と音を立て、男たちが現れた。
「「開廷」」
「陛下、ダニエル・ディ・ヴォルティーヌはパーティーで、レティシア・ハイドローザを侮辱する言葉を言いましたね?」
「...はい。こんな女と結婚できない、など酷い言葉を....。」
「酷い?全て本当のことじゃないか!」
カンカンカン、と木槌が鳴らされる。
「静粛に。質問された方のみお答え下さい。」
ダニエル王子はむっすりとふてくされた顔をした。
...いやいやいや、いいですけどね?
本人の前で、またそれ言っちゃいます?
あー、反省の色が全く見られないです。
だったら、私との婚約が決まった時点で言えよ!
私の人生返せ!
....すみません。取り乱しました。
えぇ。もちろん口に出してはないです。
あのバカ...いえ、ダニエル王子と一緒にしないで下さい。
「ダニエル・ディ・ヴォルティーヌ。貴殿の発言は多くの者が証言している。なにか異論はあるか。」
ダニエル王子はむっつりと黙り込んだままだった。さすがに暴言はまずかったと気づいたのだろうか....それでも苛立ちが全身から溢れ出していた。
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法廷後、ダニエル王子は政務官に呼び出された。
ダニエル王子の対応を見かねた王が、専門的な知識のある政務官を与えたのだった。
「ダニエル・ディ・ヴォルティーヌ。正当な理由なしの一方的な婚約破棄では、損害賠償だけで五億ペラほど払わなければなりません。」
「五億ペラ?それを払えば終いなのか?」
「え、ええ。慰謝料と合わせればもう少し高くなると思いますが...」
「ならば、もう払ってしまえ。面倒だ。」
政務官は驚いた。
そして、
「オイオイオイ、簡単に言うな〜。演算師が出てこなくてそれどころじゃないって言うのに.....お前のために払う無駄な金なんてねーんだよ!」と、思ったとか。後で部下に愚痴をこぼした、とか。
もちろん、優秀な政務官ですから、王子に楯突いたりしません。
「失礼する。ダニエル王子。」
頭を抱える政務官の元に、ハイドローザ公が現れた。
政務官は、ダニエル王子とハイドローザ公の直接対決を覚悟して身を縮めていた。
「レティシアの...」
「今回の件だが、和解ということでどうだろうか?」
「和解?」
「ああ。どうせレティシア相手に金を払っても、その金は俺のものとなる。ならば、もっと賢い方法を考えようではないか。」
「賢い方法?」
「難しいことじゃない。いくらかこちらに頂けるというなら、この件についてすぐに終えられるよう、手を貸そう。」
ダニエルはすぐにその要求をのんだ。
ハイドローザ公が和解できる手段を失っているとは知らず。
これから新たな問題が続々現れるとも知らず。
....そもそもレティシアが手中からいなくなるとは知らずに....




