十一
「ちょっと、お酒足りないわよ!」
自分の体から酒の匂いがプンプンするのにも構わず、追加の酒を持ってくるように命令した。
「ま、マリアンヌ様。湯船でお酒はお控えになって下さいと...」
「うるさいわね〜何年私のメイドやってるの?」
風呂の外からメイドの声がする。
「そこに置いて、早くあっちに行って!」
ゴトリ、と酒瓶を置く音が響く。
...このメイド、やっぱり口うるさいわね。
お母様にも散々同じように言われたくせに、なんで新しいのに変えないのかしら!?
私が王妃になったら、すぐに辞めさせてやるわ。
「ま、マリアンヌ様?」
「今度はなあに?」
「結婚披露宴のことなのですが...」
「わあっ!ドレスが出来たの?」
「それが...」
「ふ、ふざけてるの!?」
私のドレスを作る技術師がいないですって!?このマリアンヌよ?一番人気の技術師のドレスじゃないなんてありえない!
「マリアンヌ?どうしたの、大声出したりして。」
「ママ!聞いてよ!」
ママに言えば絶対にドレスも作ってもらえる。ママは技術師のお得意様だもの。
パパは無駄遣いするな、って怒るから嫌い。....ドレスを作ることのどこか無駄遣いなの?
「私、婚約パーティー出るの辞めようかな...」
気に入ったドレスを着れないくらいなら、でない方がましよね。
もし、私より新しい流行の服とか着てる子いたら....まあ、それでも私が一番綺麗だけど。
技術師のデザインって斬新なのよね。ドレスのデザインをしてくれる技術師はものすごく少ない。その中でも一番の技術師はダントツの人気があるの。確かあの鍵盤機もその技術師の設計。だから私もこんな時は一番じゃないと!
「だ、だめよ!」
ママが急に大声をあげた。
「ママ?」
「....婚約パーティーは絶対出なきゃだめ。」
いつものパーティーとかお茶会で笑顔で話す様子とは全く違った。
こげ茶の髪を振り乱して、私に詰め寄る。
「いいわね、もうあなたの婚約はあなただけの問題じゃないの。私たちにも関係あるのよ。」
「ママにもあるの?」
「もちろんよ。あなたのママだもの。」
ふーん、そう。
私にダニエルとの婚約を後押ししていたことを考えると、理由がわかってくるわ。
ママは私が婚約して、自分に渡る褒美を待っている。
「でもママと私って血が繋がってないんでしょ?」
「え?ど、どうして...」
ママがびっくりした顔をした。
そんなの学園でも簡単に噂になる。
私が産まれてすぐに正妻が死んじゃったから、後妻を引き入れたんだって。
しかも、後妻は正妻のメイドとして働いてたんですって。ママに魔力がないの、不思議だったのよね...でもほとんど庶民みたいな貧乏貴族なら納得。
うふふ。なんて面白い話なの?
「感謝してよね。パパは私が一人じゃ可哀想だって、ママを娶ってくれたんだから。」
「あ、あなた、親に向かってなんて口を...!!!」
だから、親って言っても義理のでしょ?
パパは私のドレスとかバッグのために働いてくれてるから忙しくても仕方ないけど、ママって私よりパーティーとお茶会じゃない。
私の義母として呼ばれたくせに、贅沢しすぎじゃない?
もう私も王妃になるんだし、ママに偉そうに指図される必要もない。
この金髪は気に入ってるし、ママのセンスも中々好きだけど、もっと自由にしたいわ。昔からパーティーやお茶会にほとんど私を連れていってもらえないの、不満だったのよね..
ダニエルと離宮で過ごすのにも反対されたし。
「3日に一度は帰ってきなさい!」
だなんて、無理に決まってるわよね?
婚約披露パーティーまで、ダニエルと過ごす予定だし、その後はダニエルの婚約者になってママの言うことも聞かなくてよくなるわ。
ママの望み通り私が王妃になるんだから、あとは干渉しないでね?




