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塔の管理者

 三羽の協力により塔最深部に侵入したパンパカ。そこでクロウズと再会し、賞賛される。

 しかしそんな二人の和やかな雰囲気を、良しとしない存在がいた。

○6

 パンパカがカラスたちに依頼したのは、石の収集である。


「できれば大きいのが好ましい。だけど君たちが無理せず運べるくらいの大きさにして欲しい。何しろ何往復もしてもらうことになるんだから」


 パンパカのお願いに、カラスたちは奮闘した。特に頑張ったのはサブローで、十キロ近くもある岩と言っても差し支えない大きさの石を、どこからともなく持ってきては、パンパカに献上した。


 イチロー、ジローもそれに続く。イチローは持ち前の俊敏さを活かして小さなものたくさん。ジローはすでにパンパカの狙いを看破しているようで、形が整った石を運んできた。


「よし、よし」


 パンパカが目の前に盛られた石の小山に、満足気に頷いた。


「これでどうにか出来ると思う」

「これを使ってどうするんですか? 穴から攻撃するとか?」


 イチローの問いに、パンパカは首を振る。


「方針としては、さっき僕がやろうとしていたことと一緒。ただ僕が落ちる代わりを石にやってもらう」


 パンパカはおもむろに自分の上着を脱ぎ始めた。上着を袋状にしようとするが、うまくいかない。そこで更にシャツを脱ぎ、首と腕の部分を縛って袋することに成功した。


「ここに石を詰めて、落とす。もちろんイエロープを結んでね」

「いえろーぷ……」


 ジローは何か言いたそうな表情を浮かべたが、イチローをサブローが真剣な表情でパンパカの言葉を聞いていたので、押し黙った。


 パンパカは早速作業にとりかかった。


 シャツを袋にし、そこに石を詰める。かなり重たく、ひょっとしたらシャツが破けてしまうかも知れないが、賭けるほかない。自分が縄を掴んで飛び降りるより何倍も安全で確実性があるように感じられた。


 時刻は夕暮れ間近。石を集めてもらったり、シャツの袋に石を詰めたりするのに時間を取られたようだ。パンパカは大急ぎで作業を進め、それからすぐに準備は整った。


「後は、この袋を落とすだけだ」


 そうすれば石の重みがイエロープ、ナイステッキを伝って穴周辺に伝わり、上手く破壊できるかも知れなかった。


「よし、いけっ!」


 小さな掛け声と共に、パンパカは外周のふちまで運んだ石袋を蹴飛ばした。シュルシュルとイエロープと塔のふちの摩擦が聞こえる。勝負はイエロープが完全に伸びきった瞬間にあった。


 ギッ、と繊維が破けそうになる音が聞こえた。


 直後だ。


 ぼこん、と小気味良い音を立て、穴周辺に亀裂が走った。亀裂はまたたく間に大きくなっていき、最後はバラバラになって内部へ崩壊していった。


 残ったのは、パンパカの体がゆうゆうと滑り込める大穴だ。


「やった! 成功だ!」


 さらに幸運なことに、タイミングよくシャツで作った袋も破けてくれていた。破けることで中身の石がこぼれ落ち、地表に降りることなくイエロープを回収することが出来た。


「よし、よし、上出来だ。後は中に入るだけ」


 ちらりと大穴のふちから中を覗きこんでみると、人影らしい人影はない。塔を守る防衛力がどんなものなのかは分からないが、挑戦者への試練という形でもある以上、トラップだけという訳にも行かないだろう。ということは、この場に防衛戦力が認められないということは、多分、危なくないんじゃないのか。パンパカは安直に考え、カラス三羽にイエロープを保持してもらって、それに伝って四階に降りた。


 降りると同時に、ズズズ、と重いものが擦れるような音が聞こえた。その音はパンパカの背後から。振り返ると、満身創痍、ぼろぼろになっていたクロウズの姿があった。


「な、なかなか、最後のガーディアンには手こずったよ」

「クロウズさん……」

「どうやら、一歩遅かったようだな。今回は私の負けというところか……」


 天井に開いた大きな穴、いるはずのないパンパカの姿。


 一瞬でクロウズは自信の敗北を悟ったようだ。


 それでも悔しそうな表情を見せないのは、ただ内心に隠しているだけではないだろう。


「ギリギリってところですね」


 パンパカは、ひとまず自分が勝利したことに、安堵した。




 だがそれを認められない存在もいる。





『何を勝手に納得しておるのじゃ』





 どこからともなく響く声に、二人は身構えた。


 クロウズは鞘から剣を抜き、パンパカは身を屈めたまま、ジリジリと後退する。すでにクロウズの手によって、塔は無力化されているから、イエロープを登って逃げなくても良いという考えからだった。


『わしは不快じゃ。本来であれば、正当に挑戦し、最後の守護者をも打ち破ったそこの男こそが、わしの眠りを覚ますはずであったからな』


 ぼわっ、と当たりに怪しげな光が灯る。


 ビビったパンパカは、慌てて駈け出しクロウズの背後に隠れた。パンパカを守ろうとクロウズは一歩前に出る。続いて、天井の大穴から三羽のカラスが侵入し、クロウズの前に降り立った。


『ほう、なんじゃ、塔の管理者たるわしに歯向かおうというのか』


 声にはさらに怒気が満ちる。


 クロウズを盾にしながら、パンパカは部屋の中を見渡した。するとどうだろうか、部屋の片隅に、ひときわ怪しさをまき散らす、直方体が置かれているではないか。


 それに一番に気づいたパンパカは、そろりそろりとその忍び足で直方体に近づいた。声の主はそれにも気づかぬようで、さらに言葉を続ける。


『良いか、わしが目覚める事態ということは、すなわち世界の危機なのじゃ。強く、賢く、勇敢なものでなければ、世界の危機を救う英雄にはなれぬ。だというのにそこのクソガキは、正当に挑戦を受けず、あろうことに封印の塔の一部を破壊して侵入してくるという始末』


 どうやら声の主は、演説に集中しているらしい。パンパカの不穏な動きに、全く言及していない。


 パンパカは直方体に近づくと、改めてそれを観察した。そこで直方体の下部、床との接合面近くに、取っ手のような、いかにも「掴んで引き上げてください」と言わんばかりの出っ張りを見つけた。


 パンパカはおもむろにその出っ張りに手をかけ、引き上げてみることにした。直方体の大きさは一立法メートルほど。多少の重さは覚悟していたが、まるで紙で作られているかのように、造作もなく持ち上げる事ができた。


「この所業、塔の管理者たるわしは、決して許すことなど出来はせん。たとえわしを目覚めさせたのがそのクソガキだとしても、決してクソガキを救世主だとは認められん。そもそも王族の血も引かぬような、下賎なクソガキが、のこのこやってきて力を授けてくれというのは、あまりに不遜すぎるとは思わぬか。力もなく、勇敢でもない。まま、確かに知恵は、世界のあらゆる知識を持つ、わしを持ってしても、そこそこやるな、と思わせるものを持っているようじゃが、だからといってそんな――」


 どこからか響いていた声はすでになく、長々とした演説は、箱の中から響いていた。箱のなかに居たのは果たして、少女だった。少女はこちらに背を向け、目の前にニュッと伸びた管に向かって話しかけている。


「あのぅ……」


 パンパカは申し訳なさそうに女の子に声をかける。


「ええい、わしの邪魔をするな」肩に手を伸ばしてくるパンパカの手を軽く払いのける。


「まだ言いたいことは終わっておらんぞ。ええと、なんじゃったかな……そうじゃ、クソガキ、お前じゃ。お前は一体何なのじゃ。何年も前から塔に近づいていたらしいのう、その時から結界は張られていたはずじゃ。ということは、塔に選ばれていない人間なのじゃ。だというのに何日も何月も何年も、セキュリティの隙間を狙って、コツコツコツコツコツコツ――バカの一つ覚えのように掘削しおってからに。知恵の回るバカじゃお前は! そんなお前なんかに、世界が救えるわけがなかろう!」


「あのぅ、すみません、ちょっといいですか」

「そもそもじゃな……なんじゃ、今良い所なのに――」


 少女はやれやれといった感じに、パンパカたちがいる方に振り返った。


 目が合う少女とパンパカたち。


 少女が頬を赤らめ、フルフルと震え始めるものだから、パンパカは居たたまれない気持ちになって、そっと直方体の箱を閉じた。


「ぱ、パンパカ君……」


 クロウズは混乱した表情をパンパカに向けた。


「彼女は少し、可哀想な女の子なんです」


 パンパカは名も知らない少女のフォローを始める。


「きっとどこかに抜け道があるんでしょう。おそらくそこから中に侵入して、良くわからない箱の中にはいって、まだかまだかと人が来るのを待っていたんだと思います。何時間か、何日かは分かりませんが、その間彼女は孤独でした。だから、そういう一人ぼっちの時間が彼女の心を壊してしまったんです。僕のことを散々に言う彼女ですが、僕はちっとも傷ついていません。むしろ哀れに思っています。多分、両親の愛情を受けずに育った女の子なんです。だからあんな感じに捻くれてねじ曲がって人に心ない暴言を吐けるようになってしまったんです。いや僕は全然これっぽっちも傷ついてはいないんです。だからクロウズさん、彼女を許してやって欲しいんです」


「ええと、その……」


 クロウズは渋面を浮かべる。


 三羽のカラスたちも、なんとも言いがたい表情を浮かべ、パンパカから視線を逸らした。そのように、パンパカは言いようのない血のたぎりを感じ始めていた。傍目から見るとパンパカはとても狼狽しており、見かねたサブローが、優しげな声色で話しかける。


「おれは、それでも兄貴のこと、尊敬してるっす」

「いやだから僕は全然傷ついていないって言ってるじゃないっすか」


 どうにかクロウズたちを説得しようとするパンパカ。


「ええい、クソガキが、何すんのじゃあ!」


 直後、箱がはね飛び、中からは激昂に支配された少女が躍り出た。


 少女は端正な顔つきをしていて、どこかの姫君と言われても納得してしまいそうな高貴さがあった。年齢はパンパカより上、クロウズより下。だいたい十二歳くらいだろうか。十年もすれば絶世の美女として世の男達が放っておかないであろう、そんな将来を感じさせる美少女だった。


 だがそんな彼女も、怒りの感情に怒髪天を衝き、獣のように犬歯をむき出しにしている。もうなんか「危ない」という言葉がバッチリ似合う少女だった。


「人のことをクソガキクソガキって」


 パンパカは極めて冷静に努めて、少女に苦言を呈した。


「僕にはパンパカ・パーンとい」


 パンパカは、最後まで話すことが出来なかった。


 なぜなら少女の見事な右ストレートが、パンパカの鳩尾に突き刺さったからである。



 その後、取り急ぎ封印の塔は起動された。クロウズが王都から持ってきた鍵を、指定の場所に突き刺し施錠すると、さっきまでわずかに開いていた亀裂は地響きと共に閉じていった。


 その間、パンパカは悶絶していた。ファリーの腹パンは鋭く重く、彼の横隔膜を痙攣させるのに十分な破壊力を秘めていたからだ。

 ヒロインの登場です。もともと管理者はオッサンでしたが、駄目だと思って女の子にしました。オッサンの場合は、不動産鑑定士の資格を持っているオッサンから、屋上の破壊費用について請求を受ける予定でした。女の子にして本当に良かったと思います。

 けど、女の子の名前は決まっていません。今日中に決めて投稿します。

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