君も英雄が好きなのかい!
単身亀裂を封印すべく、村の南にある封印の塔を目指したクロウズ。追いついたパンパカは、塔に至るに最適な道順を教えることに。同行の過程でクロウズが胸のうちに秘めた「封印」への情熱と、神代より伝わる二つのアイテムの存在を知る。
○3
パンパカがクロウズを見つけたのは、村から出て数分ほど行ったところだ。パンパカは木登りが上手く、また猿のように枝と枝とを飛び回る身軽さを持っていたから、歩きにくい獣道なんて気にならない。それに比べて先行していたクロウズは、藪をかき分けたり枝を切り落としたりと、進むのに苦労しているようである。
その様子を見かねたパンパカは、山盛りの芋菓子が落ちないよう、器用にするすると木を降り、クロウズの近寄った。
「クロウズさん」
「あ、君は村の」
クロウズは額の汗を拭いながら、パンパカに話しかけた。
「こんなところに来たら危ないじゃないか」
「大丈夫だと思いますよ」パンパカはのほほんという。「四年前からこの辺りに通っているんです。多分、塔に行かれるんでしょう? だったら僕が案内しますよ」
パンパカの言葉に、クロウズは目を丸くした。
「四年前から? 君、何歳なんだ?」
「十歳です」
「じゃあ、六歳の頃から森に入っていたのか? 両親に怒られるだろう」
「そういうクロウズさんだって、大人っていう年齢じゃないじゃないですか」
「まぁ、それは確かに」
クロウズは素直に同意した。
「確かにまっすぐ行くのは近いですけど、少し迂回するだけで楽に行けますよ」
「それはありがたい。是非、案内してほしい。ええと……」
「僕はパンパカ・パーンといいます。パンパカとお呼びください」
クロウズは嬉しそうに頷いた。
「よし、パンパカ君、案内は任せたぞ!」
ということでパンパカが先導することになったのだが、ちらりと後ろを伺うと、クロウズはやけにゴキゲンだった。高い木々を見やっては「わぁ、大きい」とか嘆息してるし、村人が見飽きたようなキノコを見つけては「これ、食べられるのかな?」と首を傾げたりしている。
(王都の人は、こういうの珍しいのかな?)
とパンパカは思っていたが、クロウズが発したある一言に敏感に反応した。
「これ、食べたら大きくなったりするのかな……」
「クロウズさん?」
パンパカは立ち止まり、クロウズを見上げる。クロウズは十五歳にしては長身で、見上げた先には、田舎っぽさが全く感じられない、きりりとした顔つきと、少しバツの悪そうな表情があった。
「いや済まない、なんでもないんだ」
「今、『これ食べたら大きくなったりするのかな』って言いましたよね」
「いやその」クロウズはパンパカから視線を逸らした。「ええとだな、私の知っている物語の主人公が、キノコを食べると巨大化する性質を持っていてだな……」
「――レッドキャップ――」
パンパカが発した単語に、クロウズは目を丸くした。
「パンパカ君! 君はレッドキャップを知っているのか!」
「知ってるも何も」パンパカは興奮が隠せない様子だ。「大ファンですよ!」
「そうか、そうか!」
クロウズは感慨深そうに頷いている。
「いやまさか王都から遠く離れた辺境の地で、同士に出会えるとは」
「いやぁ、僕の方こそ、村のみんなは本なんか読まないし、読む人には『英雄譚? 後世に脚色されたフィクションに、胸を躍らせてどうするつもりなの?』なんて言われるし」
もちろん、言うのはスィルだ。
「いやぁ、嬉しいなぁ」
「私の方こそ、嬉しいよ。いやぁ、正直封印の旅なんてものは心配と不安しかなかったけど、パンパカ君に出会えて私も安心した」
パンパカとクロウズは肩を並べて、比較的容易に通過できる獣道を行く。身長の差、年齢の差、身分の差はあれど、二人の間には奇妙な絆が生まれていた。
「ところでクロウズさん、これ、食べます?」
パンパカはミーナが作ってくれた芋菓子をクロウズに勧めた。クロウズは芋菓子を見ると、申し訳無さそうに首を横に振った。
「済まないが、それは出来ないんだ」
「え、どうしてです?」
「母様に止められている」
クロウズは大変申し訳無さそうにパンパカに話した。
「母様が言うには、王都以外で出されるものは、ええと、決して私自身が思っているわけではないのだが……不潔であり、不浄であり、そんなものを口にふくむと王ぞ……いやいや、封印の使徒としての力が失われてしまうという。だから封印の旅が終わるまでは、私は旅先のものを食べることが出来ないんだよ。眉唾ものだとは思うんだが、何しろ母様の言い分だからね」
「でも、ものすごく美味しいですよ」
「それは分かっているし、出されたものを残してしまった時は、大変恐縮な思いだったのだが、しかしこれもすべて任務のため。耐えるしかない」
「そうですか……」
パンパカは名残惜しそうに芋菓子を勧めるのをやめた。それから手に持った芋菓子を、口いっぱいに頬張る。やっぱり美味しい、とパンパカは思った。それでふと疑問に思ったことを口にした。
「王都以外で出されるものは食べられないって言ってましたよね? だったら、いつもは何を食べたり飲んだりしてるんですか?」
クロウズは渋面を浮かべた。眉間にしわを寄せ、苦しそうに懐から袋を取り出した。袋には微細な模様が描かれており、見る角度によって色が変化していた。工芸の知識のないパンパカにしても、これが相当に高価なものであるというのは見て取れた。
「神代の時代に作られた、祖威助胃という食べ物だ」そういって懐から、ボコボコの棒状の何かを取り出す。「これ一本に一日に必要な栄養が含まれているという。毎日これを食べていれば生きていられるらしい。ちなみに袋も神代の時代に作られたもので、中に入れた食べ物を一日で元の状態に戻してくれる。王都を出発する前に二本入れたから、一日一本を気をつけていれば、永遠に祖威助胃を食べられるという寸法さ」
「世の中にはすごいものもあるんだなぁ」
パンパカが感心していると、クロウズは含みある笑みを浮かべて、
「試しに食べてみる?」
と手に持った祖威助胃をパンパカに差し出してきた。興味のあったパンパカは、勧められるままソイジョイを手に取り、一口で頬張ってみた。
ソイジョイは、一言で言うと炒った豆の味だった。良く分からないナッツやら、良く分からないフルーツやらを乾燥して固めているようだった。味としては悪くない、というかとても美味しい。けれども毎日これ一本というのは、スィルやミーナや村の奥様方の料理に食べ慣れているパンパカにとって、耐えられるものではなかった。
「あっ!」
クロウズは思わずという感じに声を漏らした。『感じ』というのは、鈍感なパンパカをしてもわざとらしさが見え隠れする声色だったからだ。
「今、君が食べたのは、最後の一本だった。しまった、私としたことが……食べていい一本は朝のうちに食べていたんだった……」
「クロウズさーん」
パンパカはクロウズの脇腹を肘で小突いた。
「さすがにそれは無いんじゃないですか?」
「いやいや、これは事故だよ。ちなみにクロウズ君は何も悪く無いからね、君に勧めた私が悪いからね、うん」
クロウズはニヤニヤ笑みを浮かべて腕を組み、ウンウン頷いている。パンパカは肩をすくめながら、
「しかたなしですよ」
といって懐に抱えたバケットの中から、出来立ての芋菓子をクロウズに差し出すのであった。
友人から助言を受け、レイアウトを変更して見ました。前の話も順次変えていくと思います。




