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パンパカ・パーンの冒険  作者: 八八八八八八八・八朔
第二章 パチモンスキー男爵領
12/30

蟻の出現

○2

 フィナンシェの街は、困憊していた。

 街の行き交う人々の目には、不安の疲れが見て取れた。甲冑を着込んだ兵士たちが、街を巡回している。時折しゃがみ込んでは、耳を地面に当てていた。


「こ、これが街なんですか……」


 フィナンシェの街を見たパンパカは、寂しい気持ちになった。


 辺境の村で生まれ育ったパンパカにとって、街には憧れがあった。その街が、こんなにクタクタになっているなんて。


 しかしどうやら違ったようだ。


「おかしい……前に来た時は、こんなに物々しくなかった」


「前に来た時っていうのは」


「二週間前くらいかな。あまりに変わりすぎている」


 事情を訊かねばならない、と手綱を引くクロウズは言う。ホワイトシューティングスターは、不安げな鳴き声を漏らした。


 クロウズは近くを通りがかった兵士に声を掛けた。


「すみません、ちょっといいですか」


 兵士たちは疲れに満ちた眼差しをしていたが、クロウズの身なりやホワイトシューティングスターの馬具を見て、姿勢を正した。


「私はクロウズと言います。街の責任者に会いたいのですが」


「それは、構いません」


 兵士の一人が答える。


「兵長も領主様も兵舎に詰めていると思います」


 兵舎の場所を教わり、クロウズは彼らと別れた。


 兵舎に向かうまでの間、パンパカは街の様子を観察してみる。家の扉はすべて開け放たれている。目に見える範囲にいる住人は、全員が女と子供。男の姿はない。

 全員が玄関の前に座り、家の中を不安げに伺っている。家の中に入ろうとした子供を、母らしき女が引き戻す。

 誰もが家の中に入ろうとしていない。


「おっと」


 ぐらりと馬が右によれる。


「危ないな、なんだこれは」


 何かを避けたようで、左側を見ると地面に穴が開いていた。


 穴だ。斜め方向に掘られてある。大人が這いつくばって進めるくらいの穴だった。


 誰が、何の目的で掘り起こしたのかは分からないが、往来のど真ん中にあると、とても迷惑だった。


「クロウズさん、ああいう穴ってどこの街にもあるんですか?」


「無いよ。初めて見た。……事情を訊かないと……」


 クロウズの表情からは、切迫した事態であると伺える。


 ふと、オブザビアが何も言わないことに気がついたパンパカは、後ろに座るオブザビアをちらりと見た。


「…………。」


 オブザビアはパンパカの視線に気がついたが、何も言わない。ふいっと視線を外し、フィナンシェの街の様子を眺めている。


 兵舎は街の中央にあった。元々領主館があった場所をそのまま使用しているという。何十年も昔に先代のエフセイ=パチモンスキーが丘の上の新館に移り住んでから、街を守る守備兵の宿舎と訓練場を兼ねていた。


 宿舎は重厚な石造りの塀で囲まれていた。入り口には兵士が二人立っており、クロウズの姿を見つけると訝しがった。


「なんだ、貴様らは」

「私はクロウズといいます。王都からやってきました」


 そういうと懐から紋様の書かれた板を取り出した。手のひらサイズの板だ。それを見た兵士は、驚きの表情を浮かべる。


「責任者に話を聞きたいので、通してくれませんか」

「しょ、少々お待ちください」


 兵士の一人が兵舎に入っていく。しばらくすると帰ってきた。


「兵長も領主様も、大丈夫だそうです。どうぞお通りください」

「どうもありがとう」


 恭しく頭を下げる兵士の脇を通り抜ける。入り口から兵舎までは十メートル以上離れていた。整然と並べられた石畳の道を行く。元貴族の館だけあってしっかりとした造りをしていたが、兵舎になってからはさほど手入れがされていないようで、石畳の隙間から雑草が生えている。


 ただそれより気になるのは、ところどころに開いた穴だ。街中で見たのと同じような穴だった。


「穴って普通に開いてるものなんですか?」

「いや」


 クロウズのその一言で、この光景が異常であるとすぐに察した。


 足早に兵舎に向かう。入り口に馬を停め、クロウズはパンパカたちを伴って兵舎に入った。


 兵舎は元々領主館だったことがあり、広々としたロビーがそこには広がっていた。けれどもかつての栄光は無い。兵舎として使われているからという理由ではなく、ロビーには大きな机が持ち運ばれ、中央に疲れきった二人の男性が座っていたからだ。


「よくぞこられたでござる。拙者はレプリアーノ=パチモンスキーでござる」


 レプリアーノと名乗った男は、無骨なデザインの甲冑を着込んでいた。背後には巨大な剣が立てかけられている。


 目の下には、大きなクマが出来ており、無精髭が伸び放題だった。巌のような相貌と相成って、只者ならぬ空気を醸し出している。


「俺はケイマス。一応、兵長なんて役職についている。守備兵隊のボスってところだな」


 ケイマスはレプリアーノの隣に座って、足を組んでいる様子だ。めんどくさそうな態度に、パンパカは故郷のクレークを思い返した。


 ただクレークほど、のほほんとしていない。机上に向ける視線は、鈍器のように濁っていて、それでいて覇気があった。


「私はクロウズといいます。王都から亀裂の封印のためにやって来ています。本来ならここに立ち寄る必要は無かったのですが、街の様子がおかしいので、事情を聞きたくて立ち寄らせてもらいました」


「それは構わないでござる」


 レプリアーノは言う。


「一応、連絡係に兵を王都に向かわせているでござるが、クロウズ殿からも伝えて欲しい。フィナンシェの危機であると、強く切実に訴えて欲しいでござる」


「危機というのは……一体、フィナンシェに何が起こっているんですか?」


 クロウズの問いかけに、回答はなかった。


「下がるでござる!」


 突如として立ち上がったレプリアーノは、背後にある巨大な剣をさっと構えた。


「クソッタレ」


 ケイマスは舌打ちをし、のろのろと立ち上がり壁に背中を預ける。腰からはすでに剣が抜かれており、剣呑な雰囲気がロビーに満ちた。


 直後だ。


 勢い良く地面がはね飛んだ。


 爆発に似た勢いで吹き飛ぶ石畳に、クロウズもまた剣を抜く。


 突然の事態に唖然とするクロウズは、何もすることが出来ない。


 剥がれた石畳には、穴が開いていた。


 穴の大きさには見覚えがあった。街中で、訓練場で見た、何のために作られたか分からない穴。


 そこから這い出してくる存在に、パンパカは息を飲んだ。ガチガチと歯が噛み合わなくなるのを感じる。恐怖がパンパカの心中を支配した。


 蟻だった。それも見たことが無いくらい、巨大な蟻だ。


 それがゾロゾロと這い出てきた。


 その光景は、まるで悪夢だった。

 日付が変わる前に投稿したかったのですが、難しいです。

 次は誰視点で書こうか、悩んでいます。


※2015/07/05 サブタイトル変更。

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