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気ままに掌編  作者: 古緑空白
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007 少女と親戚

 正月、この時期少女の家は忙しい。地方の中でそれなりに大きな神社の神主の家であるからだ。

 彼女も昼間は巫女服を着て家業の手伝いをする。

 そして、世知辛いことに少女のお年玉は巫女の仕事で稼いだ分だけと決まっている。

 お年玉はほしいが、あまり親戚のいない血筋なのでうまくいかない。

 そんな中、正月中唯一の休みで親戚のお兄ちゃんが来た。

「あ、久しぶり、あけましておめでとうございます」

 あけまして、にこりと笑いお兄ちゃんはお父さんは、尋ねた。

「親父殿は表の神社です」

 会いませんでしたか? と返すとお兄ちゃんは首を振った。

 少女は違和感を覚えていた。

 お兄ちゃんがどこか違っているように見えたのだ。

 それでも、その感情より先に少女は手を出した。お兄ちゃんは小首を傾げた。

「もう、お兄ちゃん、女の子にこんなこと言わせるの?」

「うーん、なんだろう、恥ずかしいことなのかい?」

 恥ではあるわね、と返す。子供ながらに少女はやっていることが感じの悪いことを知っている。

 けれど、一向に気がつく気配のないお兄ちゃんに対し彼女はつい言ってしまう。

「お年玉です」

 プリーズ、茶化した風に言い少女は手をあげた。

 だが、お兄ちゃんは眉をひそめ困った顔をして首を振った。

 少女はがっかりしたけど、仕方ないと割り切った。

「お兄ちゃんは苦学生ですもんね、こっちに来た事自体を褒めます」

「な、なんだか上から目線だね。あれ?」

 親父殿にご用ですか? 尋ね呼んでくると告げ早々と表の神社に向かった。

「親父殿」

「なんだ?」

 お兄ちゃんが来ています、少女はそう言うと父親はひどく驚いた顔をした。

「お兄ちゃんってのは大学生のいとこか?」

「そうです、珍しいですよね、こっちに来るのも久しぶりですもん」

 父親は、ひどく神妙な顔をして少女にまず前置きの言葉を告げる。

「彼は――」

 死んだ、父親の言葉に少女はえ? と声を漏らす。

「大晦日だ、昨日病院に運ばれて死んだ」

「え、え、だ、だって、えぇ? ちょ、ちょっと待って下さい」

 どっきり? 少女の言葉にそうだったら良かったと父親は返す。

「交通事故だそうだ」

 父親のたんたんとした言葉でじわりと現実味が帯びていく。

 そして、葬儀は神道形式で行われた。

 葬儀が終わり少女はお兄ちゃんの親からポンとぽち袋をもらった。

「あの子がね、君に渡すんだって貯めてたお金」

「どうして、全然会っていないのに?」

「あの子ね、妹がいたの、でも死んじゃった。だから、君を妹のように思ってたのかもね」

 言葉に少女は涙した。

「嬉しく、ないです」

 どうせなら生きているうちに渡してくださいよ、少女の慟哭が故人を偲ばせた。

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