006 勇者と歴史
勇者というものはいる。
国をすくい、邪悪をはらい、人々の羨望と希望を一身にせおい、それでもどこまでも進んでいく英雄だ。
彼もそんな一人だ、そして歴代の勇者に特権と恩賞を与える勇者認定委員会から殿堂入りを期待されていた。
殿堂入りすれば数々の恩恵を受ける。税を免除され、土地を与えられる。貴族としての爵位も低くなく与えられだってする。
だが、彼はその殿堂入りを拒んだ。
なぜ、と認定委員会の委員は尋ねた。
「この国の認定なのでしょう、私はこの国だけではなくすべての国をすくい導きたいのです」
そう言って辞した彼は後日殺された。
他国の暗殺者、というふうに発表されたが、実際は違う。
認定委員会の暗部によって殺されたのだ。
なぜそのような部署があるのか、それは委員会の歴史に理由がある。
彼のように他国をも救いたいという勇者は歴史の中に何人かいる。そして、それは勇者の限界の歴史でもあった。
その勇者たちは絶望し救うどころか戦禍を広げてしまったのだ。
よって委員会はそういう勇者を殺すことにしたのだ。
結局、勇者というものは勇者に過ぎず、救世主というものにはなれないのだった。




