045 精神交換と教会
教会にとある罪人がやってきた。罪に問われるほど悪行を積み重ねてきた男だ。
いよいよ刑が執行する日が来た。死刑ということで男は悔いはしなかったが、それでも諦めれるほど物分りの良い人間ではなかった。
眠れぬ夜に声が聞こえてきた。老婆のようであり嗄れた無骨な響きもある、不可思議な声だ。
声はこういったのだ、――そこから出たいか? と。
「あぁ、あぁ、出たいさね」
「じゃあ、出してやろう」
そうはっきり聞こえると男の視覚はふわりと浮かんだ。そして、抜け出たかのように下にある自身の体を見た。
悲鳴をあげようとして、視界がスッキリとする。
まず、感覚が異常であることに気がつく。男は手かせ足かせ首かせを付けられていたはずなのだが、いつの間にか重さの呪縛もなくなっていた。
次に両目が見えることが分かる。片目が潰れていたため視界に不自由していたが、これはいいと思ってはたと気がつく。
牢の外にいる、そして、男は自然自分の体がグゥスカといびきを立てて牢の中で眠っているのを見る。
声がする。
「お前と牢番の体を入れ替えた」
俺は悪魔だ、笑いながら響く声に男は尋ねる。
「お前の目的はなんだ?」
「悪魔が人間に対して望むものなんて決まっているだろう? 魂だ」
だが、簡単に奪ったのではつまらない、悪魔は言葉を重ねる。
「お前がまた裁かれるようなことが有れば、俺が真っ先にお前を奪ってやる」
それだけ言うと悪魔の気配は掻き消えた。
そして、男は悪行を改め善をなす、という風にはならなかった。
湧いて生まれた幸運を自分の実力と誤解し、酒をかっくらって女をあさり喧嘩もする。
なぜ、こうなったのか、人間を善性の生き物と考える輩にはわからないだろう、と悪魔は笑う。
「人間は習慣の生き物だ、どんなに良くなろうと思っていても思うだけでは叶うことはなく、変わるのならば変わるだけの労力を伴い、およそのその労をいとうものだ」
口中に飴玉を転がすように男の魂を舐めまわしながら悪魔は悲鳴に酔いしれた。




