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気ままに掌編  作者: 古緑空白
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023 人外と象

 昔々、鬼が住む国がありました。鬼は乱暴者で嫌われていました。人間がたくさんいるのに対し、乱暴者だということで鬼はどんどん狩られていき、とうとう山に追いやられていきました。

 ある一人の鬼が人間に化けて街を歩いていました。鬼は街の見世物小屋で一匹の象に出会います。

 象は大きく人間は愚か鬼だって踏み潰せそうであります。

 鬼は象に共感を覚えました。人間によって住むところを追われた象と自分はどこか似ていると思ったのです。

 鬼は見世物小屋の人間たちの眼を盗み象に話を持ちかけました。

「やぁやぁ、象さん象さん、私と一緒に人間たちに復讐しないかね?」

 象は驚きながらも嫌だと首を振った。

 そんなことを言わずにと、短気な鬼にしては気を長くして相対したのですが、とうとう鬼も我慢が出来ませんでした。

 象に酒を飲ませたのです。

 そうして酔っ払った象に鬼は乗ります。ところが象は酔っ払っているため乗り心地は最悪でした。

 そして、転げ落ち鬼は象に踏み潰されてしまったのでした。

 何事かと人間たちがやってくると、鬼は助けてくれと情けない声をあげていました。

 すぐに手当をしてくれたので鬼は生き延びました。幸いだったのは鬼が鬼であることがばれなかったことでしょう。

 山に帰る前に鬼は象に再会しました。

「象さんこの前はすまなかった」

「いいっていいって、でも、私は復讐しようなどとはこれっぽっちも思っていないんだよ」

 どうしてだ? 鬼は尋ねます。

「人間たちは私にご飯を食べさせてもらえる、例こそすれど復讐なんてとてもとても」

「矜持に傷はつかないのかい?」

 象は首を振って。

「生きて走れなくなったら矜持に傷はつく、それが私の矜持だ」

 そう言って象さんはパオーンと笑った。

 結局、鬼が感じた共感というのは自分の価値観の押し付けだったのです。

 鬼はそれに恥じ入り象に別れを告げました。

 その後、その鬼が人間に復讐できたか否かは定かでありませんでしたとさ、お仕舞い。

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