020 ハードボイルドとナイフ
付き合いだしたおっとり系の彼女を驚かせてそのままムフフ、という展開を考えていた。
「私って強い人が好きなんですよぉ」
そんな感じのことを言っていた。彼の筋書きはこうだ。
ナイフを持った暴漢が現れる。それを彼が倒し傷を負ったがマジックナイフだったためドッキリでした。
後輩に頼み込み暴漢役をやってもらうことになり、デートの待ち合わせにやってもらう予定で進んでいた。
決め台詞も考えている。このシチュエーションは確かにそのとおりだ、と思わせることが出来ると自分のプランに彼は悦に浸っていた。
ハードボイルド映画が好きな彼がクールに言ったら彼女もグラッと来るんじゃないか、そんな妄想に彼は悶えていた。
そして、当日。
彼女を待ちながら後輩が来たことを確認して彼女はまだかと思いながら彼は心待ちにしていた。
しかし、位置取りがまずかった。
なんと後輩は彼女の後ろにいたのだった。写真で彼女の出で立ちはみせたので知っていたはずなのに、なんて失態だ。これでは彼女を超えなければならない。
そして、後輩が動いてしまった。
奇声を上げマジックナイフを手に彼に迫る。
彼は彼女の前に立ち守るように近づく後輩に対峙する。
気がついたら――
後輩が吹き飛んでいた。
視界とその処理が追いつかない。
目の前には――彼女が立っている。
その直線上に吹き飛んだ後輩がいる。痙攣して気絶しているようだ。
「武器を取り」
いつもの彼女の声とは違う。低く、重い声質だ。
「赤手を襲うとは軟弱としれ」
惚れた。
彼が言うはずだった決め台詞よりかっこいい。
――映画みたいだったろ?
人間、窮地においてその心根が現れるのだろう。彼女の心根はその積み上げられた技の研鑽が現れた。
この後めちゃくちゃデートした。
後輩には御免とメールし金一封渡しておいた。
どうにも彼はハードボイルドとなるにはゆで方が足りなかったようだ。




