こんな夢を観た「隣人があいさつにやって来る」
日曜日の朝、トラックの荷の積み卸しの音で目が醒めた。空き家だった隣に、新しく住人が越してきたらしい。
ほどなくして、チャイムが鳴った。わたしはパジャマ姿のまま、玄関の戸を開ける。
「はーい、どちら様でしょう?」
戸を開けたにもかかわらず、目の前は暗い影が差したままだ。おかしいな、朝だと思ったけれど、実は夜だった、そんなオチなのかな。
パオオオーンッという音とともに、やたらとでかい声が轟いた。
「おはようございますぅっ。わたしらぁ、隣に越してきた者ですぅっ」
水玉模様のスーツを着たマンモスが、そこに立っていた。ワイシャツの襟からは、シュロのような剛毛がぼうぼうとはみ出ている。
わたしは唖然として見上げていたが、はたと礼儀を思い出し、
「あ、おはようございます、むぅにぃというものです」とおじぎを返した。
「これはぁつまらないものですがぁ、よかったらぁ、召し上がってくださぁい」マンモスはそう言って、器用に丸めた鼻先で、贈答用に包まれた箱を差し出す。
「これは、ご丁寧に、ありがとうございます」わたしはもらい物を軽く振ってみた。この重さ、そうめんかな?
「わたしらぁ、シベリアから来たばかりでぇ、この辺のこと何んも知らないんですがぁ、どうかいろいろとぉ、教えてくださぁいっ」パオーンッと紋切り型の挨拶をし、立派な牙が地に着くほど深々と会釈をするのだった。
マンモスと話すのはこれが初めてだったが、礼儀正しい、付き合いやすそうな連中である。
「近くにマンモス団地もあるので、きっと住みやすいと思いますよ」わたしは答えた。愉快な隣人が来たものだ。
それにしても、あんなに大きな体で、家には入れるのだろうか。
心配になったわたしは、カーテンの隙間から隣をのぞいてみた。
彼らは4頭家族で、挨拶に来たのは一家の主らしい。どうやって中に収まったのか、キッチンではマンモス奥さんが鼻で包丁を握り、味噌汁に入れる大根を、トントン、トントンと刻んでいる。
庭のブランコでは、幼い兄弟達が、チェーンをみしみしといわせながら揺られているのが見えた。
まあ、他人が心配することでもないか、わたしは思い直し、カーテンを閉める。
もらった包みを開けてみると、輪切りにされた真空パックの肉が入っていた。「シベリア直送、新鮮マンモス肉」と書かれたラベルが貼ってある。
「へえー、これが噂の『あの肉』か。まさか、家族の肉じゃないだろうね」
冷蔵庫にしまって、あとで友達を呼んでみんなで食べてみよう。
お隣では、ちょうど朝食が始まったようだ。4っつの声がパオーンッと合わさり、わたしの部屋にまで届いてくる。
「いただきマンモスっ!」




